昭和のマロ

昭和に生きた世代の経験談、最近の世相への感想などを綴る。

なるほど!と思う日々’(578)社会をつくる人間は<自由>を嫌った。

2019-05-31 05:34:49 | なるほどと思う日々
 伊藤 整が「組織と人間」の中で、やはり人間は自由を嫌うと述べている。
 
 ・・・家庭を持つもの、妻を持つものは、その家族、その妻が、その幸福を社会組織の中にはめ込まれることに見ているから、決して自由であることはできない。
 
 我々は家族によって、即ち性と肉親間の組織を好むという危険な本能によって離れがたく、社会や政治の組織にハメこまれる根本傾向を持っている。

 心理学者フロムは我々が自由を恐れて、自由から逃走すると言っているけれども、それは我々の疫病ではなくして、我々の正常な本能である。
 社会というものを作る本能をもっていた人間は、初めから自由を嫌った。
 多分原始林の生存競争の中に居た時、キバも爪も持たない人類は、組織を持つことによって敵と戦い、自己を保存することが出来たのであろう。

 そして、我々がその中に安全さを見出したこの組織なるものは、我々が蟻のような生物たらしめる運命を早くから決めていたのであろう。
 

 熊本県高校文化総体が開幕した。
 
  
 ・・・組織で活躍することの快感を味わいましょう!・・・        





なるほど!と思う日々(576)文明は不自由さの産物なんだ!

2019-05-30 04:12:46 | なるほどと思う日々
  ジャンジャック・ルソーは、人類が柵をつくるようになったときに文明が生まれたと定義している。
 
 「世の中のほとんどの人は自由なんて求めてはいないんだ。もし本当に自由を与えられたりしたら、たいていの人間は困り果ててしまうよ」
 
 ・・・村上春樹は<海辺のカフカ>の中で言っている。

 「もっともオーストラリア大陸のアボリジニだけはべつだ」
 
 「彼らは柵を持たない文明を17世紀まで維持していた」
 「彼らは根っからの自由人だった。好きなときに好きなところへ行って好きなことをすることができた」

 イギリス人がやってきて家畜を入れるための柵をつくったとき、彼らはそれが何を意味するのかをさっぱり理解できなかった。
 そしてその原理を理解できないまま、反社会的で危険な存在として荒野に追い払われた。

 「だから君もできるだけ気をつけたほうがいい。結局のところこの世界では、高くて丈夫な柵をつくる人間が有効に生き残るんだ」

 (メキシコの壁)
 
  ・・・自由を求めて壁を乗り越えようなんて思わないほうがいいよ・・・
 


         





なるほど!と思う日々(576)日本もグローバリズに翻弄されるのか?

2019-05-29 05:12:51 | なるほどと思う日々
 今やグローバリゼーションとかで、世界中が白人トリックに巻き込まれ、のんびりとマイペースで生活するなどとのんきなことを言っていられなくなってきた。
 
 
 *マハティール前マレーシャ首相の言葉を引用する。
 ・・・新世紀を迎えるにあたって注意せねばならないことは、グローバリズムの中でモラルなき巨大資本が国境を越え、政府を無視し、貧しい民を無視して、ただ利益ばかりを追求していることです。
    アジアの富の蓄積を為替投機家が一晩で崩壊させ、民衆を失職させ、暴動を巻き起こす。
    冷戦後の現在は<絶対資本主義>ともいうべき無慈悲な怪物が歩き出している。
    資本は巨大であればあるほど利潤効率がいい。
    アジアの発展途上国がいかに固有の文化、価値を維持しながら、この手ごわい相手と向き合うかが、今後の課題です・・・

 *この度、トランプ米大統領が来日した。
  この数日間は、令和新時代を迎えた我が国も、トランプ旋風に翻弄された。
 
 
 今後この巨大な怪物を従えて世界に君臨しようとする相手に、わが国はいかに対応すべきか?         




エッセイ(535)三鷹三田会麻雀会・裏方のご苦労。

2019-05-27 05:48:05 | エッセイ
 昨日令和最初の第256回三鷹三田会麻雀分科会例会が開催されました。
 
 小生、52名参加中、第10位に入賞いたしました。

 ・・・そのことより、今回は、裏方の大変さを報告いたします。・・・

 大会は4回戦を戦いますが、その都度各自の勝敗伝票が幹事に手渡され、主表に転記されます。
 
 最終的にK幹事が、パソコンにインプットし、結果が正しいかどうかを確認します。

 その際、AIの助けを借りるのですが、今回「合っていないよ」という結果が出ました。
 
 となると、どこに原因があるか? 
 手作業で徹底的に確認します。
 「主表に転記した時の間違いか?」
 「各自の伝票の間違いか?」

 各自の伝票をベースに、52名分、大変な作業が始まりました。
 およそ1時間余り。
 他の連中は、既にパーティー会場に移動して呑気に飲み食いしているのです。
 

 「分かりました。伝票集計の際の間違いです!」
 いいかげんなおやじが伝票作成の際、集計を間違えたのです。
 こうして、ようやく正確な順位が確定しました。

 ・・・楽しい麻雀会の裏にはこうした、幹事諸君の涙ぐましい裏方作業があるのです・・・

 トランプ大統領が訪日され、ゴルフに大相撲とたいへんな一日でした。
 
 ご本人以上に、警備やサービスに、裏方はピリピリするような大変な一日でした。

       




なるほど!と思う日々(575)エピソード・「起死回生の技!」

2019-05-26 03:21:44 | なるほどと思う日々
 
 *エピソード「起死回生の技」

  ① 一昨日5月24日(金)ボクはいつもの仲間とプライベート麻雀を戦った。
    6回戦の長丁場だ。
    
    体調不良もあって、この日は絶不調。
    4回戦まで全敗。
    5回戦も最後の親の土壇場で、焼き鳥をかかえ、この日の大敗を覚悟した。
    自摸牌は、一九字牌が多い。
    しかし、国士無双を狙うのには、無理そう。
    ボクは、無意識に<流し満貫>を狙っていた。
    
    そしてこれが完成した。

    これこそこの日のボクにとって<起死回生の技>となった。
    5回戦と6回戦でツキが来て、その日のマイナス転じてプラスで終わった。

    まさに、捨て牌で拾う<起死回生の技>となった。

  ② 大相撲、平幕朝乃山が大関豪栄道を下して、優勝した。
    
    前日の栃ノ心との微妙な判定にも心を乱されることなかった。
    
    勝因は<平常心>だと言う。
    
  *ミネルヴァの梟は夕暮れに飛び立つ*
 
 ボクも既に傘壽を超えた。
 せいぜいこの世における残り少ない時間を「なるほど!」と楽しませてもらおう。
 そのうちにボクなりの何かが生まれるかもしれないことを期待しつつ・・・。
 
 「女の回廊」は、出版を目指すことにして、ブログからは外します。

 今回からブログに適した題材として「なるほど!と思う日々」に変更することをお許しください。

 1.「文明」 
 今から20年以上前の話である。
 奈良の叔父が長年の闘病の末亡くなった。
 午前11時から葬儀とのこと。日帰りで参列するため、東京駅発6時56分の<のぞみ>を手配する。
 
 自宅から中央線最寄り駅の武蔵境に着いたのが6時過ぎ。
 余裕のない状態であたふたするのは嫌だから念のため7時33分のに切り替えてもらった。
 しかし、東京駅に着いたのは6時50分。変更しなくても間に合った。さらに7分前の7時26分にも<のぞみ>があった。
 通勤列車並みの時間割だ。

 福知山脱線事故と絡めて、日本の鉄道の過密さに思いを致した。
 
 今や、<こだま>や<ひかり>よりも速いが料金の高い<のぞみ>の方が多い。
 スピード、経済効率を考えれば、事故の危険性を包含しながらも当然の流れなのだろう。

 「メキシコの朝」でD.H ロレンスは言っている。
 *時間にしても、距離にしても、メキシコ人にとっては漠然としたものなのに、白人どもはそれらをぶつぶつと細かく、しかも精密に切ってしまう。
  それを基に白人どもは人間が生活するカギを握ってしまった。
  黒い眼のメキシコ人は生きるために傲慢な白人どもに従属をよぎなくされた。
  一日の時間割、お金、秒単位で動く機械、メキシコ人もそういった白人どものトリックを否応なく学ばなければならなくなったのだ*         


 ─続く─


女の回廊」(11)目黒トンキの豚カツ

2019-05-24 04:55:40 | 小説「女の回廊」
 「今日は豚カツでも食いに行くか・・・」
「トンカツ、いいね」
 目黒の豚カツ屋は開店早々だったが、既にカウンターは満席だった。
 

 やむなくボクらは後ろで客が食べる様子をしばらく眺めていなければならなかった。
 食べやすいように包丁を入れた揚げたての豚カツを、ホッホと言いながら食べている。
 

 キャベツは食べ放題だった。
 細長く繊細に切られたキャベツは楽々と客の口に収まり、あっという間に皿は空になる。
 間髪を入れずに「はい、どうぞ!」と威勢よくキャベツのお代わりが盛られる。
 
 食べ終わた客が支払いのお札を財布から引き出すと同時に、
「はい、ありがとうございました!」と元気の女子店員からつり銭が渡される。
 これも間髪を入れずだ。

 こうして客も次から次へと気持ちよく回転させられていった。

 権之助坂の10円寿司へも行った。
 
 「割り勘だぞ」
 藤原の意図にも気づかず、ボクらは「当然だよ」と声をそろえた。
 カウンターに5人並んで食べ始める。
 始めのうちはみんな、何をたべようかなと迷いながら注文し、味わいながら食べていた。

 ところがひとり藤原だけは次から次へと間髪を入れず注文した。
 他のものもあわててピッチを速めた。
 しかしダッシュが早く、からだの大きい藤原にかなうわけがなかった。

 結局10円寿司にしては高いものにつき。不平等割り勘となった。

 ─続く─           




小説「女の回廊」(10)道玄坂のインドカリー

2019-05-23 02:58:12 | 小説「女の回廊」
 酒ばかりでなく、藤原は食にも詳しかった。
「安くて美味いところ? いいだろう。案内しようじゃないか」
 渋谷では道玄坂のインドカリーだ。
 狭い所にむりやり客の居場所をつくったようなひしゃげたスペースに、テーブルが重なり合うように4つある。

 不愛想なおねえさんが出てきて、黙って突っ立った姿勢で注文を待っている。
 
 とても客を歓迎している態度ではない。
 ・・・早いとこ決めてよ。ややこしいのでなく・・・

 藤原がおねえさんの期待に応えるように、メニューの中から何も具の入っていない一番安いムルギーカリーを指さして「これっ」と言って頼むと、他の3人も「おれも」「おれも」と連呼した。
 
 たぶん作ると言ったって大なべから掬いだしてきたきただけだろう。
 あっという間にテーブルに4皿そろった。

 白いご飯の築山に、具らしきかたまりは見えない。
 こげ茶色のカレーが沼のように淀んでいる。
 その沼にはたくさんの種類のスパイスが潜んでいるようで、見るからに辛そうだ。
 ボクらは一口ごとに顎を上げ、口を開いて天井に向けてスパイスガスを吐き出し、額に汗し、はあはあ言いながらもお互いに満足の笑みを漏らした。

 おねえさんの不愛想はボクらの満足度に何の影響も及ぼさなかった。

 ─続く─


小説「女の回廊」(9)下宿仲間のリーダー藤原一樹のこと

2019-05-22 05:06:54 | 小説「女の回廊」
 ボクの鼻先にあぐらをかいた藤原一樹。
 彼はこの下宿八人衆のリーダー的存在だった。
 
 ボクが初めてこの下宿を訪れた時、最初に受け入れてくれたのは彼だった。
 「ごめんください・・・」
 おずおずと案内を請うたボクに対して、玄関先に顔を出したのは藤原だった。
 既に下宿の主のような顔をして。

 体育会系の体躯で、しかし、ニコッと笑いかけてきた顔は屈託がなく、まさに・・・キミのことは引き受けた・・・と言っているようだった。
 彼は東京で浪人生活を2年やって、今年医学部に合格してこの川崎市木月の下宿に入ってきた。
 
 他のものより年かさだったし、東京での経験が豊富だったので、週末になるとみんなを渋谷など、都心へ連れ出した。

「なに? キミたち<恋文横丁>知らないの? だめだなあ。じゃあ先ず渋谷へ行こう・・・」
 彼は大きな目をくりくりさせ、魅力的な街の名前を振りかざし、田舎からぽっと出のみんなを引き込んだ。
 ・・・恋文横丁・・・
 
 なんか思わせぶりな街の名前だが、行ってみると、何のことはない、狭い迷路のような路地を挟んで、似たような飲み屋が重なり合うように軒を接している巣窟のような、胡散臭い裏町だ。
 

 ボクらは窺うように入って行った。
 そんな中でもいちばん小さくて薄暗い ”バー・渚” というネオン灯のかかった店を、藤原は選んで入った。
 衆を頼んで、未知の世界へ冒険的に、恐る恐る踏み込んでいくかのような彼の姿勢に、ボクらは不安になった。
 5人が入ると、後ろを通るのも難渋する狭さだ。まだ時間的に早いせいもあって、他に客はいなかったが、ボクらだけで息苦しくなった。

「学生さんでしょう。ようこそ。歓迎するわ。ほら、あそこの学生さんでしょう? 姿かたちでわかるわよ・・・」
 
 ママは満面の笑みを浮かべ、ひとりひとりをしげしげと観察した。
 そして一見して藤原がリーダーであることを察知し、彼の手をとらんばかりに媚態を示した。
 
「なぜ、<恋文横丁>なんて名がついているんですか?」
 ボクはママに問いかけたつもりだったが、直ちに藤原が引き取って答えた。
「戦後進駐軍の兵隊を相手にした女どもが、彼らに恋文を書くのに利用した代書屋があったんだよ・・・」

 自分自身を満足させるために、リスクを負ってでもトライする冒険的な行動といい、その嗅覚といい、まさに藤原はボクにとって尊敬の的だった。

 ─続く─ 
 
 
             






小説「女の回廊」(8)奥さんのボクに対する真意は?

2019-05-21 04:11:11 | 小説「女の回廊」
 その後、ボクが奥さんと酉の市に行ったことは、誰にも知られなかった。
 誰も知らないということは、奥さんがばらしていないということだ。
 そのまま日にちが過ぎるにしたがってボクは胸苦しくなっていき、深読みするようになった。
 
 ・・・あのことは、奥さんの計画的行動ではなかったのか。偶然のように見せかけて、他のものが出払ったタイミングに合わせて、ボクに照準を合わせてきたのだ・・・
 ボクはあのときの奥さんが抱きついてきた感覚をまざまざと思い浮かべた。

 日を追って真実を知りたい、誰かにしゃべってしまいたいという思いに駆られた。
 夕食前、ボクが何も手がつかずそんな気持ちに浸っているとき、ドアが開かれ藤原が覗いた。
「夕食の後、連中が来るんだ。付き合ってくれないか? 8時ごろ・・・」
 麻雀の誘いだ。
 
 「うん,分かった」と無意識で返事すると同時にボクは言っていた。
「ちょっと、聞いてもらいたいんだけど・・・」
「なに? お前が相談ごとか? 珍しいな」
 興味津々というように目を見開いて、彼はすぐさまボクの鼻先にあぐらをかいた。

 藤原の部屋と異なりボクの部屋は3畳だから藤原のでかい顔が目の先に迫った。

 ─続く─
           




小説「女の回廊」(7)浅草・鷲神社の酉の市での奥さんとボク

2019-05-20 05:26:00 | 小説「女の回廊」
 浅草・鷲(おおとり)神社の狭い入り口は、すでに参拝客が大通りまではみ出してあふれていた。
 

 すでに夜のとばりが辺りを覆っていたが、境内には熊手を売るテント小屋が、空を覆うように立ち並んでいた。
 
 拝殿に向かう通路の両側からせり出すテントの合間からのぞく曇り空を背景に、その張りを付けたテントの先まで飾り付けられた大小の熊手が、たくさんの裸電球に照らされて、赤や黄色に彩られ、宝石のようにキラキラと輝いている。
 ・・・落ち葉をかき集めるような熊手に宝船に乗った七福神とか、大小小判、松竹梅、おかめの面とか、招き猫を飾ったものもある・・・ 

 酉の市も当初は実用的な熊手が売られていたらしい。発祥は江戸時代らしいが、収穫祭みたいなもので、実用的な農機具や古着などと一緒に熊手も売られていたのだ。
 それが、「運を書き込む」「金銭をかき集める」道具みたいにみなされて、縁起物として売られるようになったということらしい。


 人混みの中を押されるままに、ボクと奥さんは行きつ戻りつしながら進んだ。
 茶髪、金髪、白い肌の突出して目立つ一団がいた。
 真ん中にいるひときわ背の高い外人が8ミリカメラを四方に向けている。
 車いすのお年寄りを守るように家族のかたまりがそろりそろりと動いていく。
 何人かの人が、買った熊手を傷つけないように高く掲げながら、流れに逆らって出口に向かって、身体をひねって横になって歩いている。

「お客さんいかがですか・・・」
「どうぞご覧になってください」
 売り子の声が交錯し、ところどころでは商売成立の「よおっ!」という掛け声と、チャチャチャという手拍子が勢いよく上がる。
 ますます周囲は込み合ってきて思わずよろけそうになる。

 とつぜん奥さんがボクの腰に手をまわし「きゃあ、怖い! 助けて!」と言いながらしがみついてきた。
 
 奥さんの柔らかい胸がわき腹を押して、ボクの心臓は飛び出しそうになった。
 このとき、後ろから怒涛のような圧力がボクを押した。

 押さば押せ、ボクは波のまにまに翻弄される魚のように身をまかせた。
「きゃーっ・・・」
 奥さんのからだが、着物を通してにもかかわらず、肉の感触を持って、しかも何らかの意思を伴ってボクに伝わってきた。
 ・・・奥さんを守らなければ・・・
 外側から押し寄せる力に抗するように足を踏ん張った。
 彼女の温かい体温がボクに同化するようにじわーっとしみ込んできた。
 しかし、それはボクにとって一時(いっとき)の優越だった。

 その時急に、一方向の圧力が解放された。
 たたらを踏んでとどまったところで、
「いらっしゃい。さあ、おやすくておきます」
 若い、威勢のいい女子軍団の甲高い、そろった声に迎えられた。

「はい、お待ちしておりました・・・」
 野太い男の声が追い打ちをかけてきて、その男に奥さんの目が合い、取り込まれた。
「・・・万円ですが、2割引きとします!」
 豪華な熊手を掲げ、男は決め言葉のようにそう付け加えた。

「じゃあ、その分はご祝儀・・・」
 奥さんは、姿勢を正し、気風よく反応した。
 そして取引が完成した。
 これで、お客さんは大名気分に、熊手屋さんはもうかった気分に・・・。
 両方が満足したところで、
「さあ、それでは気合を込めて、ご家族、会社のいや栄を記念してお手を拝借!」
 親方が怒鳴った。
 そして店員総出の手締めを受けた。

 奥さんが買った熊手はかなり大ぶりなものだった。
 
「じゃあ、お願いね・・・」
 奥さんは色っぽい声をボクに投げかけた。
 そしてボクがそれを持たされる羽目になった。

 ・・・ああ、これが今日のボクの役割だったのだ・・・
 そいうう思いがとつぜん腑に落ちた。

 ─続く─