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としをとった給仕がそばを通りかかって、残り少なになったスカッチと水をながめた。私が頭をふり、彼が白髪頭をうなずかせたとき、すばらしい<夢の女>が入ってきた。一瞬、バーの中がしずまりかえった。活動家らしい男たちは早口でしゃべっていた口をつぐみ、カウンターの酔っ払いはバーテンに話しかけるのをやめた。ちょうど、指揮者が譜面台をかるくたたいて両手をあげたときのようだった。
かなり背のたかい、すらりとした女で、特別仕立ての白麻の服に黒と白の水玉のスカーフを頚にまいていた。髪はおとぎばなしの王女のようにうすい金色に輝いていた。頭にかぶった帽子の中に金髪が巣の中の小鳥のようにまるまっていた。眼はめったに見かけないヤグルマソウの花のようなブルーで、まつ毛は長く、眼につかないほどのうすい色だった。向こうの端のテーブルまで歩いて行って、白の長手袋を脱ぎはじめると、さっきのとしよりの給仕が私などは一度もされた覚えのないいんぎんな態度でテーブルをひいた。彼女は腰をおろして、手袋をハンドバックのストラップにはさみ、やさしい笑顔で礼をいった。笑顔があまり美しかったので、給仕は電気に打たれたように緊張した。女はひじょうに低い声で何かいった。給仕はからだをまげて、急いで出て行った。人生の一大事が起こったような急ぎ方だった。
私はじっと見つめた。彼女は私の視線をとらえて、目を半インチほどあけた。私はもうそっちを見ていなかった。しかし、どこを見ていたにせよ、私は呼吸(いき)をのんでいた。
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