昭和のマロ

昭和に生きた世代の経験談、最近の世相への感想などを綴る。

なるほど!と思う日々(378)世界のニナガワの本性

2016-05-31 05:22:26 | なるほどと思う日々
 過日、世界のニナガワと評された演出家、蜷川幸雄氏が80歳で惜しまれて亡くなった。
 
 皿を投げつける怖い演出家として有名だが・・・       
 
 奥さんによれば、思い悩んでいた時期もあったようで・・・
 
 表札に「天才」と附して自身を鼓舞していたりとか・・・。
 でも、大竹しのぶさんによれば
 
 出演者と語り合う場面もあったようで、
 世界のニナガワとして本場ロンドン公演で大成功を収める実績も持つ。
 
 そんな偉大な彼も、
 写真家である娘の実花さんによれば、お孫さんにはデレデレだったようだ。
 
 
 (以上、NHKクローズアップ現代より)

 <好奇心コーナー>
 

 あの三浦友和が、CMのことで国会で取り上げられ新聞記事になったことがある!
 
 「アイドルが煙草のCMに出るなんて、子どもたちに悪影響を及ぼす」というわけだ。
 
 
 でも当時彼は既に27歳だったとか。


なるほど!と思う日々(377)日本ダービーを観て、世界経済を思う

2016-05-30 05:11:53 | なるほどと思う日々
 昨日は第83回日本ダービーが東京競馬場で開かれた。
 いい場所を確保するためにダッシュ!
 
 すごい人、人、人!
 
 13万人以上が集まったそうです。
 さあ、スタート!
 
 制したのは3番人気「マカヒキ」
 
 賞金2億円獲得!
 
 10回目のチャレンジでダービー騎手になった川田将雅選手。大感激です。

 今回のダービー売り上げは265億円。昨年比110%の大幅アップだそうです。
 人間のエゴを解消するのには許せる範囲でしょう。

 しかし、世界経済に思いを馳せると、すさまじい実態に恐怖さえ覚えます!
 <経済>
 額に汗して働く<実体経済>に対して、おカネ自体が商品として取引される経済が<金融経済> 
 
 1971年、ニクソンショックにより金本位経済が終焉して、”地金”による裏付けを必要とせず”貨幣”が際限なく膨らみ続けることが可能になった。
 
 ヘッジファンドみたいな資金が暗躍し、国家の規制を超えて膨張、わずか4%の金持ちが世界を牛耳る実態である。(彼らはタックスヘイブンを利用して国の税金さえ払わない)

 <金融経済>は投機化し、今や<実体経済の12倍以上になるという。
 
 <投機マネー>は、まさに人間エゴの悪の象徴である。
 これをコントロールできない人類に未来はない!
 


なるほど!と思う日々(376)孔雀とコンクリート

2016-05-29 04:34:57 | なるほどと思う日々
 <孔雀>なんと豪華絢爛たる生きものよ!
 
 これを二羽も飼っている方のお話である。
 この鳥は姿だけではなく、鳴き声がスゴイのだそうだ。
 3万坪もの私有地に住んでいたからこそ、この世界一やかましい鳥を飼う余裕があったと言うのは、ガイア論で有名なJ・ラブロック氏だ。
 
 つがい時期の彼らが立てる意気揚々としたトランペットのような鳴き声。
 そのほかの季節では、おだやかなコッココッコという音やゴロゴロという音からロバのいななきのような甲高い声までじつに幅広い。
 このほか、ちょくちょく起こる野良犬の闖入に対する鋭い警告の吠え声もある。・・・
 私たち夫婦は長年この彩り豊かな同居者との生活を楽しんできた。
 ただひとつだけ困るのは、親愛の情からかおやつを期待してか知らないが、玄関口の歩道に寄ってくる彼らの習慣である。そこに鼻の曲がるような糞を置いていくのだ。
 以前はうっかりそれを踏みつけたり、その掃除役をおおせつかったりするたびに、わたしは彼らをののしったものだ。
 しかし、そのうち、自分がまちがっていて彼らが正しいのだということがわかってきた。
 生態学的心得のあるクジャクたちは、死んだコンクリートを生きた土壌に戻そうと最善を尽くしていたのである。
 コンクリートを分解するのに、糞をたれては日々栄養分やバクテリアを投入すること以上にうまいやりかたがあるだろうか?

 
 地球は自己調整能力と自己更新能力をそなえた、一種の巨大生命体である。
 クジャクやバクテリア、地球上に生きとし生きるもの全てがそれに力を貸しているシステムが自然に備わって、機能しているんだ。
 


 

エッセイ(277)オバマ大統領の広島における歴史的スピーチ

2016-05-28 06:39:19 | エッセイ
 昨日広島平和公園においてオバマ米大統領の歴史的スピーチが行われた。
 
 歴史的という意味は、衰えたりとはいえ、今なお世界のリーダーとしてのパワーを持つ米国の大統領が、従来の政治家と異なる、つまり、国益に軸足を置いたものではなく、宇宙目線で人類に語りかけたスピーチだったからである。
 
 *10万人以上の無辜の死者を悼むため、その魂の求めるもの、私たちが何者なのか、何者になるかもしれないかを見定めるためにここへ来た。
 *文明は戦争で満ちている。
 
 数年の間に6000万人が亡くなった。
 
 罪のない人々が苦しみ、死に、忘れ去られた。
 *キノコ雲の姿は人間性の中心になる矛盾を鮮明にする。
 
 自然界から人類を区別し、自然を我々の意志に従わせる能力、それがいかに不相応な破壊を我々に与えるかを。
 技術は人間社会の進歩を伴わなければ破滅をもたらすことを。

 *米独立宣言に曰く。
 
 「全ての人間は生まれながらにして平等であり、その創造主によって生命・自由および幸福を含む不可侵の権利を与えられている。

 *広島と長崎が、私たち自身の道義的な目覚めの始まりとなる未来を、子どもたちに与えられんことを!

 <好奇心コーナー>
 
 中国の反応は?
 
「南京で加害者だった日本が被害者扱いされているのはおかしい」
 中国、王毅外相。・・・これが普通の政治家。 


三鷹通信(155)第18回読書ミーティング(7)下町ロケット

2016-05-27 05:22:09 | 三鷹通信
 参加者Sさん推薦図書 池井戸潤「下町ロケット」
 
 <解説>大ヒットした昨秋のTBSドラマの余韻もまだ冷めやらぬ今日この頃、ロングセラーというには早すぎるのだが、おそらく山本周五郎のような、平成のロングセラーになるという予感が漂う一冊。
 小さな中小企業の夢が営利目的の大企業の戦略を打ち破る。
 技術者の情熱が、利益のいいとこ取りをしようとする管理職の処世術を遥かに凌駕する。
 そして、本物の技術こそが、世の中を進歩させる。
 やはり最後は正義が勝つ、の王道を行く、胸のすくような読後感。
 本書を読めば、古今東西、一般の人が小説で感動する理由は不変であるとわかるエンターテイメント作品。直木賞受賞作品。

 *<勧善懲悪> 中小企業が大企業の餌食になるところを、情熱と夢で乗り切る。
 研究者の道をあきらめ、家業の町工場・佃製作所を継いだ佃航平は、製品開発で業績を伸ばしていた。そんなある日、商売敵の大手メーカーから理不尽な特許侵害で訴えられる。
 しかし、法定では逆転、大勝訴。
 圧倒的な形勢不利の中で取引先を失い、資金繰りに窮する佃製作所。創業以来のピンチに、国産ロケットを開発する巨大企業、帝国重工が、佃製作所が保有するある部品の特許技術に食指を伸ばしてきた。特許を売れば窮地を脱することができる。だが。その技術には、佃の夢が詰まっていた。
 その夢が、大企業の驕りを打ち砕き、重役を動かす。

 *<高視聴率Xベストセラー> 読んでから見るか、見てから読むか。
 テレビドラマにより相乗効果をもたらす。
 
       
 *<ベストセラーの読者は正義が好き>
 「カッパ・ブックス」を創刊した戦後最大のベストセラー編集者、神吉春夫の有名な言葉。
 
 

 みなさん、現役編集者が主宰する「読書ミーティング」に参加しませんか?
 
 <好奇心コーナー>
 

 道端の草花にも可憐な魅力が!

 
 
 


三鷹通信(154)第18回読書ミーティング(5)宇宙からの帰還

2016-05-26 06:13:17 | 三鷹通信
 参加者(小生)推薦図書、立花 隆「宇宙からの帰還」       
 
 <解説>何人もの宇宙飛行士の内的体験を徹底した取材によって鮮やかに描いていく。
 宇宙へ行って感じたことについて、彼ら自身に「こんな面白いインタビューを受けたのは初めてだ」と言わしめた、若き立花隆の手腕が、読めば必ず実感できる1冊。
 宇宙から帰ってきて宗教家になった人、精神の破綻をきたしてしまった人、実業界や政界で成功を収めた人、など様々な人々の話が収録されている。
 特筆すべきは、宇宙で神を感じたという人々の多さ。
 宇宙船のなかで、ふと地球を見るとき、神と宇宙と人間について、地球にいてはわからない、別の世界が拓かれてくる。
 単行本は1983年刊。サイエンス読み物のもはや古典と言っていい作品。現在21刷。

 小生が感じた、宇宙からの見方を三つ挙げてみたい。

 *ジーン・サーナン: アポロ17号で最後の月面着陸を果たした。
  
 宇宙から地球を見るとき、そのあまりの美しさにうたれる。こんな美しいものが、偶然の産物として生まれるはずがない。ある日ある時、偶然ぶつかった素粒子と素粒子が結合して、偶然こういうものができたなどということは、絶対に信じられない。地球はそれほど美しい。何らの目的なしに、何らの意志なしに、偶然のみによってこれほど美しいものが形成されるなどということはありえない。・・・宇宙からそれを見たとき、それは「神の存在」へのゆるぎない確信になった。…どの宗教の神が上位ということではない。我々がいう”God”も唯一至高の存在に対してつけられた一つの名前だ。私はどの宗教も基本的によきものだと思っている。
 ・・・宇宙はいまや人類にとって環境の一つになったと思う。海洋が人類の環境であると同じ意味において宇宙も人類の環境である。・・・そのためにすべきことは巨大なスペースステーションを作ることだと思う。

 これが大半の宇宙飛行士の感想だが、中には人類社会の醜さが浮き彫りになったと感じる見方もある。

 *ジョン:スワイガート: 「栄光ある失敗」と呼ばれたアポロ13号で月面着陸を目指したが事故のため果たせず、しかし無事帰還した。
 地球の外から地球を見るという経験を持った。・・・ところが、この地球に帰り、ワシントンに行って政治家たちを見たとき、連中の頭がどうしようもなく古く、固く、狭いのを知って、これではどうしようもないと思った。・・・たとえば、科学技術の時代に、科学技術の知識がなければ、世の中をどうしていければいいかなんてことは、まるでわからないはずだ、ところがアメリカの議会では、535人の上下両院議員のうち、科学技術のバックグラウンドのある議員はたったの5人しかいないんだよ。・・・アメリカの議会はもっぱら弁護士ででき上がっているんだ。・・・テクノロジーの理解は政治家の充分条件ではない。しかし必要条件ではある。現代社会解決を迫られている問題のすべてが、テクノロジカルな解決を必要としている状況にあるからだ。・・・これから21世紀にかけて解決が迫られている最大の問題は、エネルギー問題、食糧問題、南北問題だ。いずれもテクノロジーなしには解決できない、
 また、彼は「デモクラシー」についても語っている。
 「リベラル派のどこがいけないのか?」という問いに対して、
 デモクラシーが健全なのは、有権者が自分たちの投票行動のいかんによって、政治資金から多くのものを引き出すことができることを発見するまでの間だ。この原理を発見してしまうと、有権者は政府資金からより多くのものを約束する候補者に投票するようになり、従って候補者たちは競ってより多くのものを約束するようになる。その結果、デモクラシーは必ず財政破綻に陥って、財政的に破たんする。そこまで行くと、もうデモクラシーではどうにもならないというので、独裁政治がそれにとって代わる。・・・
 なるほど・・・。
 三番目に注目した見解は?

 *ラッセル・シュワイカート: アポロ9号で月面着陸を達成した。
 人間という種に対する義務感を強く感じたということだ。この体験の価値は、私にとっての個人的価値ではなく、私が人類に対して持ち帰って伝えるべき価値だ。私は人間という種のセンサーだ。感覚器官に過ぎないと思った。それは私の人生において、最高にハイの瞬間だったが、エゴが高揚するハイの瞬間ではなくて、エゴが消滅するハイの瞬間だった。種というものをこれほど強烈に意識したのは、はじめてだった。そして種を前にした、自分の卑小さを強く感じた。私の下では、ちょうど、第三次中東戦争がおこなわれていた。人間同士が殺し合うより前に、もっとしなければならないことがある。人間と人間の関係も大切だが、人間という種と他の種との関係、人類という種と地球との関係をもっと考えろということだ。・・・その後、ラブブロックが「ガイア」という本を書き、それを読んで、これだと思った。
 ・・・古代人の神話的世界観においては、太陽神と地母神が人間の父であり母であった。
 ラブロックは、この古代人の世界観は、現代科学の観察と一致するという。
 地球全体が一つの生きた有機体であるという。
 
 地球は一つの大きな生物であるというのだ。地球は人間をはじめとするさまざまな生き物が生きている「場」に過ぎないのではなく、それ自体が一つの生物であり、他の生物はこの巨大な生物に寄生している微小な生物に過ぎない。
 ・・・いま、人類は地球の上で核戦争による絶滅の危機にさらされている。そのことと我々がちょうど時を同じくして、地球の外に出る能力を身につけつつあることは、私には偶然の一致とは思えない。・・・核戦争が起こらないとしても、地球上の人類にあまりよい未来はない。というのは、人間という種の内部で、画一化がどんどん進化しているからだ。これは交通・通信の発達と、環境の画一化といういずれも文明のもたらした現象によるものだ。一つの種が健全な生命力を保っていくためには、多様性が必要なのだ。多様性のためには多種の環境が必要だ。特に穏健な環境ではなく、苛酷な環境が必要だ。それなのに地球上の環境は、画一的に穏健になりつつある。こういう種は種としてひ弱になっていく。いつどんなことが原因で大絶滅が起きるかもしれない。それに対して宇宙に進出した人類は、宇宙という過酷な環境の中で、きたえられ、より強い種として発展していくであろう。・・・人類全体としては、多様な発展を宇宙でとげるであろう。

 
 <好奇心コーナー>

 今、伊勢志摩に世界をリードする7か国の首脳が集まり、サミットが開かれようとしている。
 
 宇宙から地球を見下ろす場で行われないと人類の本質的な問題解決にはつながらないだろう。

三鷹通信(153)第18回読書ミーティング(4)脳科学からみた祈り

2016-05-25 05:44:17 | 三鷹通信
 参加者Mさん推薦図書、中野信子「脳科学からみた祈り」
 
 <解説>
 東大の大学院で脳神経医学を専攻した医学博士で脳科学研究者による著者によれば、最新脳科学は、幸せになるための脳の使い方を解き明かしている。
 ここでいう幸せとは、お金持ちになることや、社会的な名声を得ることではない。(むしろそういうものは欲望を際限なくして幸せになれない)
 ストレスなく、日々に手ごたえを感じながら、孤独を感ぜず、人に愛されて天寿をまっとうできるか、ということである。
 本書にはその答えが書いてある。他人のために尽くす・成功を祈る・敵対関係であっても相手を許す。あるいは、コミュニケーションのやり方で孤独を回避できる、等々。
 わかりやすくコンパクトで30分足らずで読める名著。
 読むと読まないでは人生が変わってくる、といってもいい本。25刷り!

 <よい祈り、愛他精神>
 ベーターエンドルフィン、ドーパミン、オキシトシンなどの脳内快楽物質が分泌。
 *免疫力もアップ。
 *ヘルパーズハイ・・・人を助け親切にすることで幸せになる。
  (ボランティアは人のためというより自分のためともいえる)
 *人を呪う悪い祈り・・・コルチゾールなどのストレス物質が分泌。

 <孤独とコミュニケーション>
 *対話こそノンバーバルコミュニケーション。
 言葉だけのSNSで孤独は癒されない。
  (最近不幸な事件が起きましたね)
   
 *愛されないと幸福感が薄い。
 
 <「愛されることで自分が愛されるに足る人間」だと自己評価できる>
 「私は価値ある人間だと思う」というアンケートに対して「全くそうだ」と答えた人の割合は、日本人7.9%、米国41.6%、中国21.6%、韓国14.9%
 なぜ日本人は低いのだろう?

 <困難を乗り越える達成感を脳は喜ぶ>
 *逆境こそが脳を鍛える。
 *適度な刺激を与えれば脳は何歳になっても変わり続けることができる。
 *人間の脳は幸せになれるようにできている。

 <好奇心コーナー> 
 
 同じ著者の「科学がつきとめた運のいい人」の中で述べています。
 <運のいい人はゲームをおりない>
 私たちは生きていくうえであらゆるゲームに参戦している。
 (受験や就職、仕事、結婚、家庭生活等々のゲームに・・・。)
 このように、私たちはいくつものゲームに同時に参戦していますが、運がいい人というのは、自分が「これぞ」と思っているゲームからはけっして自分からはおりないのです。
 「ハリーポッターシリーズ」の著者、J・K・ローリング氏は、いまでは世界中の人が知る
有名な作家ですが、シリーズの第一弾「ハリーポッターと賢者の石」を書き上げたときには、無名のひとりの女性にすぎませんでした。
 ・・・結婚生活には恵まれず、子どもを抱えて離婚。生活苦になり、うつ病も患います。そんな困難を抱えっつも小説を書くことをあきらめなかった彼女は、生活保護を受けながらも書きあげたのだそうです。
 ところが、この作品は12社の出版社から断られ13社目にしてようやく」出版が決定。それが世界的大ベストセラーになり、続編も次々に出版されたのです。
 ・・・もし彼女が「小説家になる」というゲームを途中でおりていたら、彼女の夢は実現していなかったはずです。
 

 う~ん、説得力あるなあ・・・。
        


三鷹通信(152)第18回読書ミーティング(3)本屋大賞・「羊と鋼の森」

2016-05-24 05:38:52 | 三鷹通信
 講師推薦の本屋大賞・宮下奈都「羊と鋼の森」
 
 
 <解説>
 ピアノ調律に魅せられた一人の青年。彼が調律師として、人として成長する姿を温かく静謐な筆致で綴った長編小説。
 草食系の青年と、優しい人達が、調律の道をめぐって様々な話をし、助け合い、思いやりをしめしていく。
 森で生まれた主人公が、ピアノの調律の厳しい道を進みながら、音楽の旋律に、人生の場面に、様々な場所で、森を感じる。森で生まれた自分というアイデンティティを再認識する物語でもある。
 今年の本屋大賞。初版6500部だが、本屋大賞ノミネートの時点で11万部。受賞で33万部。

 宮下奈都
 
 福井県生まれ。上智大学文学部哲学科卒業。2004年「静かな雨」が第98回文学界新人賞佳作。2010年、「よろこびの歌」が第26回坪田譲治文学賞の候補。「誰かが足りない」が第9回本屋大賞で7位。「羊と鋼の森」で第154回直木賞候補。第13回本屋大賞受賞。

 <羊と鋼の森?>
 ピアノは羊毛を固めたフェルトで出来たハンマーが鋼の弦を叩くことで音が鳴る仕組みになっている。主人公は、弦がずらりと揃った状態を主人公はまるで森のようだと思う。
 調律師の道を、森で生まれた自分の道だと迷わず選ぶ。ピアノなどきいたこともなかった少年がただ一度、調律の作業に出くわして、調律師になる。よい調律師を目指していく道半ばの物語。

 感覚的な文体。今風でないかも。
 <冒頭>
 森の匂いがした。秋の、夜に近い時間の森。風が木々を揺らし、ざわざわと葉の鳴る音がする。夜になりかける時間の、森の匂い。
 問題は、近くに森などないことだ。乾いた秋の匂いをかいだのに、薄闇が降りてくる気配まで感じたのに、僕は高校の体育館の隅に立っていた。放課後の、ひとけのない体育館に、ただの案内役の一生徒としてぽつんと立っていた。
 目の前に大きな黒いピアノがあった。大きな、黒い、ピアノ、のはずだ。ピアノの蓋が開いていて、そばに男の人が立っていた。何も言えずにいる僕を、その人はちらりと見た。
 その人が鍵盤をいくつか叩くと、蓋の開いた森から、また木々の揺れる匂いがした。夜が少し進んだ。僕は十七歳だった。


 前回の読書ミーティングで紹介の「きみの膵臓が食べたい」は惜しくも2位。
 

 キミスイも含めて、書店員が売りたい本とは?
 <キミスイとの共通点>は草食系男子と強い女の子の話。
 ただ、草食系男子だが自分というものがあり、向上心がある。社交的ではないが、親や学校の先生に褒められるようなタイプ。女子はみんな強く、自分にふりかかった死の恐怖や挫折というものを克服し、むしろ前向きなイメージに変えていく。
 ・・・この小説の主人公の生き方を否定する人はおそらくいないだろう・・・

 <本屋大賞設立の経緯>
 ・・・売り場からベストセラーをつくる・・・
 本が売れない時代と言われます。出版市場は書籍、雑誌とも年々縮小傾向にあります。
 出版不況は出版社や取次だけでなく、もちろん書店にとっても死活問題です。
 その状況の中で、商品である本と、顧客である読者を最も知る立場にいる書店員が、売れる本をつくっていく、出版業界に新しい流れをつくる、ひいては出版業界を現場から盛り上げていけないかと考え、同賞を発案しました。

 
 




三鷹通信(151)第18回読書ミーティング(2)田中角栄

2016-05-23 08:51:46 | 三鷹通信
 図書館に何十人待ちで申し込んであった石原慎太郎「天才」がたまたま昨日手に入った。今朝2時間ほどかけてざっと読んでみた。
 そこで自分なりに感じたのは以下の3点だった。

 (1)軸足を国民に置いた政治
 (2)現実を見る確かな目と、先見性
 (3)他人と触れ合う姿勢

 (1)<人生を決定づけた仕事>
  土方というこの世で末端の仕事をしている人間たちの力こそが、この世の中を結果として大きく変えていくのだという実感があった。・・・ 
 
(たまたま縁あって県の土木派遣所の職員に採用された)
 驚いたのは村の土木工事をしていた業者の監督たちだった。今までトロッコを押していた若造が工事現場の監督になってしまったのだから、立場ががらりと変わっての平身低頭となった。その時俺が悟ったのはこの世の中の仕組みなるものについてだった、金も含めて、この世をすべてにぎっているのは、大なり小なりお上、役人がつくっている縦の仕組みなのだ。
 ならばそれを自在に使う立場の人間とは一体誰なのだということだった。
 ・・・
 俺は国会対策委員にされ、毎朝9時から国体の会議なるものに出席させられた。・・・
 それぞれが」互いに党利党略を構えて無意味な角逐を重ねていたものだが、その場に居つづけて俺が心得させられたものは、所詮この世は互いの利益の軋轢で、それを解決するのは結局互いの利益の確保、金次第ということだった。
 それから俺がそんな場で痛感したのは、何か新しい法案について話し合う時、それに関わるだろう国民の立場への斟酌が彼らには全く欠けていることだった。・・・
 議論の中で俺は臆面もなく俺自身の過去、そうした最底辺の体験を披歴して自説をいいたててやった。だから土方の体験のない奴等は到底俺の言い分には太刀打ちできはしなかった。
 それは官僚相手の議論の際にも同じことだった。
 
 (2)<現実を見る確かな目と先見性>
 
俺が大蔵大臣の時の功績と言えば、、まず昭和40年に高度経済成長が一服して、未曽有の不況に襲われた時のことだ。
 
 (日銀の宇佐美総裁からこのままではたいへんなことになるという電話を受け)
 「よし、それならすぐに手を打とう」ということで、これは日銀単独ではかなわぬことなので、二人で協議し当時の日銀法25条を発動して証券会社に無担保無制限融資をして助ける「日銀特融」で市場の動揺を抑えることを即断した。
 (念願の総理大臣になって)
 まずなによりもかねて見兼ねていたこの歪んだ日本という国を作り直すこと、つまり念願だった日本列島の改造だ。
 
 「日本改造列島論」はベストセラーになり多くの期待が寄せられてもいた。
 中にはこうした論は利権を生み、政治を歪みかねないという批判もあったが、経済発展とともに日本の社会の歪はますます進み、都市の過密、交通渋滞、住宅難、公害、それによる医療費の増加、そして地方の衰退、過疎化という厄介な問題を解決するための合理的政策とそのための資金の捻出方法を早急にかんがえなくてはならぬ時期にさしかかっていた。・・・
 政治家の責任とは、役人と違ってもっと大ツ掴みに国の将来を考え、それに備えての施策を考え実行することだ。

 その次は懸案の日中国交回復という大外交問題だった。・・・
 アメリカがなぜ突然あれを行ったのか。また中国がベトナムでの戦争を舞台にアメリカと激しく競い合っていたのに、なんで容易にアメリカを受け入れたのか・・・。
 ニクソンに先んじて北京に送り込んだキッシンジャー大統領補佐官がいわば手土産として持参した貴重な情報とは、かねてから中国と隣接したソヴィエトの国境紛争に関する情報だった。
 ・・・当時ソヴィエトは事に対処して長大な国境の上空に12個の宇宙衛星を飛ばしていて、同一地点を1時間ごとに衛星で監視する態勢をとっていたのだ。そして深い霧が辺りを覆ったある夜、密かに膨大な数の戦車を動員して島を取り囲み、翌朝一斉射撃で中国兵を打ち殺し、そのご戦車を上陸させて生き残った兵隊たちを死体も含めて戦車でローラーをかけて轢き殺してしまった。その映像を見て北京は、その分野では今後アメリカに頼るしかないと判断したという。・・・
 いずれにせよ、日本と隣接している中国との関りは、太平洋を隔てたアメリカのそれとは本質的に異なるはずだ。(台湾との関りもあって)外務省は二の足を踏んでいたが、俺が強引に押し切った。
 
 初めて出会った毛は大層にこやかだった。握手の後いきなり、
「周首相との喧嘩はすみましたか。けんかしなけりゃ駄目ですよ。喧嘩をしてこそ仲良くなれるものですからね」いわれたのでも俺も答えて「ええ、円満に話し合っていますよ。いいたいことは残さず話したつもりです」といってやった。

 (3)他人と触れ合う姿勢
 (佐藤長期政権の後釜を狙う<角福戦争>
 
 佐藤は任期いっぱい務めるつもりでいたが、沖縄返還後の退任、そして禅譲を狙っていた岸と福田はその間なにもせずにいた。俺にとって佐藤の退陣は遅ければ遅いほど仲間獲得の時間が増えて好都合だった。・・・
 今までの日本の政界の流れの中で考えれば、福田が圧倒的に有力視されていたに違いない。
 それは俺と彼の出自の違いのせいに違いなかった。戦前から戦後までのこの国の政治の主役は軍人も含めてほとんど官僚だったのだから。・・・俺のような叩き上げの人間が政治の中枢に座ることなどありはしなかった。・・・
 佐藤が自分の後継者として俺よりも福田に重きを置く形になったのはよくわかる。・・・
 そして福田もそう感じとり彼なりの自負も持っていたに違いない。
 しかし俺はそう思っても、信じていなかった。誰か相手を選ぶ時に大切なことは、所詮人触りの問題なのだ。それについて俺は自信というか確信もあった。そのために俺として日頃さんざん心遣いをしてきたのだ。特に身近な相手に関わる冠婚葬祭には腐心し手を尽くしてきた。

 こんなエピソードがある。
 
 ある時、吉田が、若いくせにひどく背伸びしても見えたのだろう、党内での俺の発言を聞いて俺の歳を質した後、「君は自分の出生届を自分で出しに行ったそうだね」と皮肉な冗談をいい周りを笑わせたことがあったが、俺はそれに答えて「あなたはどうしてそれを知っているんですか」と混ぜ返したら、吉田がくわえていた葉巻を外しそうになって笑ったので、ああ俺はこの男の心をつかめたなと思った。 

  
 

三鷹通信(150)第18回読書ミーティング(1)石原慎太郎「天才」

2016-05-22 05:16:45 | 三鷹通信
 現役編集者が主催する第18回読書ミーティングが昨日、三鷹市市民協働センターで開かれた。 
 それなりに現代を表す特徴的な作品が揃った。
 手際よくまとめられた講師の内容に添って紹介する。

 講師推薦のベストセラーは、石原慎太郎「天才」
 
 石原慎太郎が、田中角栄に乗り移って「俺」の一人称で描く。
 高等小学校卒から総理大臣に上り詰め、「今太閤」と呼ばれた。戦後最高の支持率を得たが、最後はその金権体質を批判され退任。
 その後も派閥のキングメーカーとして、大平、鈴木、中曽根の総理大臣を誕生させた。後、ロッキード事件で逮捕。
 本書の後半はキングメーカーとしての地位を金丸、竹下に奪われていく過程の心境を述べたものである。
 稀代の政治家田中角栄といえば、類まれな権謀術数と人心掌握術に注目が集まるが、デリケートな一面もあり、浪花節と映画をこよなく愛する家族思いの人情家だった。
 それにしてもかつて反田中の急先鋒だった石原慎太郎が、今なぜ「田中角栄」に惹かれるのか。去年から始まった田中角栄本ブームの頂点にある。5月16日現在で50万部突破。おそらく今年のベストセラーとして100万部を超えるのではなかろうか。
       
 *ナイーブでストイック、何か覚ったような心情と、現実をしたたかに生き抜くエネルギー
 *日本改造列島論は戦後日本の社会基盤整備に正負両面にわたる大きな影響を残した。
 *日本外交では周恩来、毛沢東にも一目置かれる人情に溢れた人たらし。
  (大蔵大臣に44歳で就任。「自分は高等小学校卒業だが、キミたちは日本中の秀才の代表であり、財務、金融の専門家だ。だが、私はトゲの多い門松をくぐってきていささか仕事のコツを知っている。すべての責任は俺が負うから上司を飛び越えても何でも言ってくれ」という挨拶が有名)
 *家族も愛人(佐藤昭、辻和子)も、我が子も愛人の子も大切にした。裏切り者の竹下登でさえ許した。反金権、反田中の急先鋒だった石原慎太郎を「いいんだよ、政治家だから」と許した。
 *脱アメリカを目指したが故に、罠に嵌められたロッキード事件。
  (総理になって初の総選挙で、当時の法律にのっとって金を集めた。100億円の中の5億円がどこから来たのかわからない。それをロッキード社からもらったとされた。)
 *「天才}とは、仕事の結果を出して愛される人、田中角栄のような人のことを言うのだ。