昭和のマロ

昭和に生きた世代の経験談、最近の世相への感想などを綴る。

運が悪いことから全てが始まった(80)貿易会社(38)

2014-01-06 06:01:00 | 小説、運が悪いことから全てが始まった
 彼女のことは、一昨夜の送別会で初めてボクの意識にプリントされた。
 機械部だけの彼女の送別会に、紹介者ということで岩田専務が現れた。
 仲間内だけの集まりに専務が参加するなど甚だ異例なことだった。
 みんなが緊張する中、専務は彼女のことについて説明した。

 専務と彼女のお父さんは戦前満鉄で同僚だったこと。
 そのお父さんは軍に徴用され戦死したこと。
 お母さんは満鉄の秘書課の華だったこと。
 終戦になり、まだ幼かった彼女はそのお母さんと二人で引き揚げてきたこと。
 たまたま別に引き揚げてきた専務が、彼女たちが滋賀県の父方の実家の祖母の所にいることを知りお付き合いが始まったこと。
 ちなみに専務の奥さんは彼女のお母さんと秘書課でお友だちの関係にあった。
 祖母が亡くなられた後、お母さんが就職された横浜に引っ越してきて、彼女も大学を卒業したのを機にこの会社へ招いたこと。
 
 しかし、最近お母さんの体調がよくなく、しかも彼女のここまでの通勤時間が往復3時間もかかる。近くに彼女の新しい就職先が見つかったので残念ながら退社することになったこと。

「彼女が退社するにあたって、彼女の思い出として、ぜひみんなに彼女の歌を聴いてもらいたい!」 
 専務は強調した。
 しぶる彼女を説得して、歌ってもらったのが<からたちの花>だった。
 
 さすが、中学で県代表になり、全国大会に出場しただけの感動的な歌声だった。
 専務は自分の言いたいことだけを言い残すと退席した。

 -続くー

 久しぶりで高田みづえをテレビで見た。
 
 <硝子坂>の澄んだ歌声がまだボクの脳裏に滲みこんでいる。

 ・・・いじわるなあなたは
    いつも坂の上から
    手招きだけをくりかえす
    私の前には硝子坂 
    きらきら光る硝子坂・・・

 若嶋津元大関の優しい目に誘われて、華やかな芸能界から引退し、今は松ケ根部屋のおかみさんとして幸せな生活を送っていることに乾杯!
 
 
 
 

運が悪いことから全てが始まった(79)貿易会社(37)

2014-01-05 04:31:56 | 小説、運が悪いことから全てが始まった
「コーヒー、ブラックでお願いします・・・」
 昼時はいつも混んでいるこの喫茶店も、誰も客がいない。
 ボクは一番隅に席を占めて彼女を待った。
 
 ・・・これでよかったのだ・・・
 発作的な我が行動を振り返りながらボクは温かいおしぼりで顔を拭った。
 足を悪くして離れに閉じ込められていたころを思い出していた。
 同居していたあの魅力的なお姉さんに挑発されて性に目覚めた頃を。
 
 少女小説や少女雑誌に読みふけり悶々とした日々を。
 中学生になってからは清楚で賢そうな竹内に好感し、
 
 高校生になってからはバラのような山室を主役に<袈裟と盛遠>を演出したことを。
 
 そして大学時代、下宿の奥さんと<酉の市>に出かけた思い出。
 

 社会に出てからは、優しい今井、ちょっと意地悪だったが最近優しい永野。
  
 そして指をからめあったダルタニアンの幸子。
 しかし、右足が棒になったボクには、女性はあくまでも憧れであって、それ以上のお付き合いに踏み込むことはなかった。
 モーツアルトの<アイネ・クライネ・ナハトムジーク>を聴いたとき感動したのと同じで、文化的鑑賞の対象に過ぎなかった。
 

 それが入社してわずか1か月で退社する伊藤の送別会で、彼女の歌声に頑なに閉じられたわが胸の扉がこじ開けられたとはいえ、別れの挨拶に現れた彼女の姿を見たとたん、ボクの動物的本能が掴みだされたように躍動しだしたのだ。

「おまたせしました」
 彼女は何の屈託もない、営業部の扉を開けて現れた時の表情のままで現れた。
 
 ・・・これでよかったのだ・・・
 ぼくは今までにない幸せを予感した。

 ─続く─
 
 今、NHKテレビであの佐高信が三遊亭小円歌と対談していた。
 
「女好きでしょう?」と小円歌。
 
「女性とはガールフレンド以上のお付き合いがないんだよね」
 照れたように応える。
「ガールフレンド以上?」
「このままんま人生終わっちゃうのかと思うと寂しいね・・・」
 佐高信のカワイイ一面でした。
 
 

 
 

運が悪いことから全てが始まった(78)貿易会社(36)

2014-01-04 04:58:56 | 小説、運が悪いことから全てが始まった
 その日、明るく射し込んでいた西日が落ちる頃、伊藤はさっきまで仕事をしていた営業部の二階のドアを開けて入ってきた。
 
 上の階から順に退社のあいさつ回りを行っているのだ。

「何でもう辞めちゃうの? 入社してからまだ1か月も経っていないんだろう」
 物資部の池田デブチカが大きな声で咎めている。
「申し訳ありません、ようやく慣れてきたところだったのに・・・」
 伊藤は小さな声で頭を下げている。

 すらっとした体形、目じりが下がった優しそうな顔で、ひとりづつ挨拶をしながら彼女はボクに近づいてきた。
 急に胸の動悸が高くなってきた。
 ・・・ここで何かを言わなくては・・・
 何かがボクを圧迫して決断を迫っている。
「もう、帰られるんですか?」
「ここで挨拶をさせて頂いたら・・・」
「ちょっとお話したいことがあるんですが・・・。<憩い>で待っていますから・・」
 彼女はびっくりしたように目を見開いたが「わかりました」と小さくつぶやいた。

 機械部から金属鉱産部の方へ移って行った彼女を見ながら、あわてて机の上を片づけると、近くの喫茶店<憩い>へと立ち上がった。
 じっと見つめている永野の視線はまったくボクの視野にはなかった。

 ─続く─
 
 新年早々、我が家ではちょっとした事件が発生した。
 大晦日、久しぶりにやってきた息子と家内の指揮の下片づけをし、家内は料理に専念、すべて新年のための用意を滞りなく終え、紅白を見て、年越しそばを食べてめでたく新年を迎えた。
 
「そんなねぶったお箸で取らないで!」 
 久しぶりでお神酒も入り、機嫌よくしていたのにボクはこのひと言で切れた。
 このところ家内の文句には「ハイハイ」ときわめて従順なのだが、「裾を引きずらない!」「背中が丸まっている!」「こぼすな!」とか元旦早々からの文句の連ちゃんにさすが忍従のボクも切れた。
「じゃあ、たべない!」と言ってしまったのだ。
 すると彼女も「たべなくていいから!」と返してきた。
 ボクは即座に席を立って部屋に閉じこもった。
 こんな行為は何年ぶりだろう。

 まもなく、息子が外へ出ていく気配がした。
 散歩にでも出かけたのかなと思っていたがなかなか帰って来ない。
「どこへ行ったんだ?」
 気にしたボクは夕方来るという娘一家のためにキッチンで料理を作っていた家内に訊ねた。
「だらだらテレビばかり観ているから怒ったら出ていったの」
 彼女は料理しながら言った。
 
 ボクは部屋へ戻って息子に電話した。
「明日、早くから仕事があるから遠慮するわ・・・」だと。
 そりゃまずい。一家団欒が崩壊する。
「夕食だけでも一緒しろ!」ボクは彼を説得した。

「戻って来るって・・・」
 ボクはキッチンの家内に報告した。
「さすがお父さん!」
 初めて家内に褒められ気を良くしたボクは蟹を捌くのを手伝った。

    

運が悪いことから全てが始まった(77)貿易会社(35)

2014-01-03 05:46:11 | 小説、運が悪いことから全てが始まった
 この会社に入って3年目、振り返ってみればいろいろと動き回っていたかもしれないが、先輩たちに振り回されていただけで仕事らしい仕事をしたという実感はない。
 今は次の仕事の担当待ちで、忙しそうに立ち働く周囲のひとたちをぼんやりと眺めている。
 公園の陽だまりに佇んでいるように・・・。
 

 そんな時、藤原の彼女に会い、今井女史の結婚のうわさが入り、永野がジュリー・ロンドンのレコードを借してくれたりして、仕事だけではない人生の別のステップを意識するようになった。
 そしてたたみかけるようにボクの人生を左右する事件が起きた。
 というより、ボクの中で何かが弾けた。
 
 1か月ほど前、機械第2課に新しく伊藤という女子社員が入ってきた。
 2課の課長は高木氏がココム事件で退社し、新たに専務が通産省から引っ張ってきた磯田機械部長が兼務していたが、そこにさらに岩田専務の紹介ということで入社してきたのだ。
 岩田専務が満鉄にいたころ縁があったのだと聞いている。
 その入社まもない伊藤が退社するというのだ。
 彼女に関してはほっぺたの赤い、明るい女の子という印象だけでボクにとって特別関心を引く存在ではなかった。
 ところが、送別会で彼女が歌った<からたちの花>がボクの琴線に触れた。
 
 岩田専務の紹介によれば、彼女は中学生の時県代表として全国歌唱コンクールに出場した実績の持ち主だった。

 ─続く─


 
「何で、箱根駅伝はおばさんに人気があるんですかね? ウチの会社のおばさんにバカ受けなんですよ」
 新年に我が家にやってきた娘婿がテレビを見ながら言った。
 たしかにウチの家内も大好きだ。
「健気で一途なところがいいんだよ」
 
 ぼくは宮崎駿監督の好みだという女性を思い出しながら答えた。


 
 

運が悪いことから全てが始まった(76)貿易会社(34)

2013-12-31 05:04:36 | 小説、運が悪いことから全てが始まった
 ・・・自分の彼女を見せたかっただけじゃないか・・・
 ボクは西荻窪の藤原の部屋のふたりを思い出していた。
 <新居浜の水上飛行機> <神戸のエコーサウンダー事件> <ココム違反事件>
 <ソ連使節団の接待> この会社に入社して3年目、今は次の仕事が決まっていない。
 永野の仕事を手伝っているだけだ。

「今井さんがダニチさんと結婚するらしいわよ・・・」
 仕事が手に付かなくってボーっとしているボクに永野が顔を近づけて言った。
 
 
 今井さん?
 総務部の今井女史だ。
 入社早々ジアゾ式コピーの撮り方が分からなくてまごまごしていたボクに代わって撮ってくれた優しい人だ。
 永野に「自分でやらないと覚えないわよ!」と怒られたことを想い出した。
 今井女史とダニチ課長の仲はうすうす感じていたから、やっぱりと受け止めた。

 それにしても最近の永野はボクに優しい。
 この間も「これいいわよ・・・」とジュリー・ロンドンのレコードを貸してくれた。
 
 ハスキーなラブバラードに、たちまちボクは惹きつけられた。
 今井女史のことを報告してくれる彼女の目を見て、<our day will come>の歌詞がとつぜん頭に浮上した。
 ・・・私たちの時は来るから すべてを手に入れて 喜びを分かち合う 恋に落ちることで手に入る・・・

 ─続く─

 今年も今日で終わりだ。
 毎日、大半の時間を付き合ってくれたパソコンに門松を飾った。
 
 

運が悪いことから全てが始まった(75)貿易会社(33)

2013-12-30 03:58:53 | 小説、運が悪いことから全てが始まった
「電話よ・・・」
 永野から言われた。
 ・・・どこから?
 確認しようと思ったがやめた。
 一瞬、ダルタニアンの幸子のことが頭をかすめたからだ。
 しかし、永野の表情はあのときと違う。
 怒った顔ではない。

「はい、司ですが・・・」
「おっ!久しぶりだな。声は昔のまんまだ」
 上から目線の言い方!
 すぐあの懐かしい顔が浮かんだ。
 藤原だ。元住吉の下宿仲間だった・・・。
「藤原さん? お元気そうですね。今何やってんですか?」
「今? あいかわらず学生だよ・・・」
 ・・・そうか、医学部は長いんだ。インターンかな?
「今、西荻の駅の近くの学生寮に住んでいるんだ。明日休みだろう?来ないか」

 学生寮は西荻窪の駅前の商店街を少し入った所にあった。
 
 門構えがある古い屋敷だ。
「一丁前になったじゃん。格好つけちゃって・・・」
 インターフォンを押すとあのころの気楽な格好で、冬だというのに半ズボン姿で現れた。 ・・・背広なんか着てくるんじゃなかった・・・
 大柄な彼に付いて薄暗い廊下を歩きながら思った。
 
「ここだ。入ってくれ」
 彼に言われて部屋の中を見回すと、四畳半ほどの和室に若い女性が膝頭をきちんとそろえて座っている。
「いや、友人の浅井さんだ。近所のK女子大学の寮に住んでいるんだが、たまたま今日遊びに来てくれたんだ・・・」
 藤原にしては照れた顔で紹介してくれた。
「浅井さち子です。よろしく・・・」
 ・・・友人? サチコ?・・・
 メガネをかけているが奥に光る目がかわいい理知的な女(ひと)だ。
 きゃしゃな姿に似合わず深みのある声。

「まあ、気楽にしてくれや・・・」
 彼はどんとあぐらをかいて座るとボクにも座るように座布団を勧めてくれた。
「司秀三です」
 ボクは曲がらない足を気にしてテーブルの下につっこんだ。
「こいつとはね、日吉の教養学部のころ下宿でいっしょだったんだ」
「・・・」
 
「なかなかこう見えても隅に置けないやつでね。下宿の奥さんと懇ろになっちゃって・・・」
「懇ろ? 冗談じゃないですよ!」
 ボクはあわてて否定した。
「いや、悪かった。そこまではいかなかったんだよな。・・・だけど浅草の酉の市に奥さんとデートしたんだぜ。下宿仲間が8人いたんだけど美人の奥さんとデートしたのはこいつだけだもんな・・・」
    
 いきなり何て話だ。
「魅力的な方ですね・・・」
 ボクをじっと見つめて、さち子さんまでくだけちゃって人を出汁(だし)にしている。

 ─続く─

 夏の間、あんなに長く咲き誇っていた百日紅の林も今はすっかり冬景色に変わっている。
 
 

運が悪いことから全てが始まった(74)貿易会社(32)

2013-12-29 04:07:34 | 小説、運が悪いことから全てが始まった
 今日も沿岸貿易の担当、物資部の池田のロシア語でまくしたてる電話の声が営業部を圧していた。
 
「おい、おい、声がでかい! そんなでかい声でなくても伝わるだろうが!」
 佐賀が、彼にしては大きな声を張り上げたが、そんな日本語は次の瞬間、池田デブチカのロシア語に押しつぶされ消し飛んでいた。
 浅井などは机の下にもぐって電話をかけていた。

 池田は体形からデブチカなんて呼ばれていて、普段はニコニコと話を聞いてくれ、風船みたいに扱いやすい男なんだが、いったん仕事の話となると表情は一変する。
 目が据わって口が尖がり、でかい声で反論する。
 その声たるや、部屋の外の人まで相手にしているのではと思われるほどだ。

「また電話か・・・」
 今度は日本語で対応している。
「売り込み先は、姿、形で売り込む魚屋ばかりとは限らんだろう!」
 相手は、池田が今回ソ連と輸入契約した魚の売り込みに出かけた営業マンらしい。
 日本では見慣れない深海の魚で、みんなが・・・こんな魚売れるの?・・・と言っていたやつだ。
 沿岸貿易はバーターだから輸出した分だけ輸入しなければならないが、売るものはいくらでもあるが、買うものが少ないからこんな変なものを押し付けられる。
 
「お前、喰ってみたか? 鱈みたいな淡白な味で意外とうまいんだから! フライにすれば学校給食で売れるぜ。かまぼこ加工業者でもいいし、一挙に捌けるじゃないか!」
 ・・・なるほど!・・・
 部屋中のみんなが納得させられちゃった。

 ソ連からの魚といえば、何といっても鮭だが、敵もさるもの、数量割り当てで希望するほど売ってくれない。
 
 だから、これはお歳暮として、M造船など重要なお得意さまに配ることにしている。

 ─続く─

 

運が悪いことから全てが始まった(73)貿易会社(31)

2013-12-26 04:01:20 | 小説、運が悪いことから全てが始まった
「専務はいらっしゃるか!」
 営業部のドアが開かれると同時に部屋中にでかい声がひびき渡った。
 北海道選出の衆議院議員阿藤先生だ。
 岩田専務はソ連の貿易公団に人脈を築いているだけではなく、日本の政治家にも顔が利く。

 1964年ソ連は従来の貿易公団によるものとは別に、日ソ貿易に関わる全ソ輸出入事務所を創設、極東部ソ連と日本海沿岸の日本都市との間で貿易を開始した。
 
 さらに日ソ沿岸市長会議を開催し、両国間の沿岸貿易のみならず、姉妹都市提携並びに友好文化交流にも取り組むようになった。
 岩田専務はいち早くその動きに敏感に対応し、交流を期待する日本サイドの地方出身政治家との結びつきも深めた。

 今日も商店街を仕切るおっさんのようなずんぐりした体形の阿藤先生は、大きな声を張り上げて、社員のみんなにも愛嬌をふりまきながらやってきた。
 北海道の都市とソ連沿岸都市との結びつきのために、貿易を中心とする経済・文化交流を目指しているのだ。
 声がでかいと言えば、我社の沿岸貿易の担当に選ばれた物資部の池田デブチカに触れないわけにはいかない。

 ─続く─

 先日NHKテレビに熊谷真実さんが出演していた。
 
 53歳で35歳の書道家と結婚してニュースになった方だ。
「相手のご両親に結婚の御挨拶で伺ったら、共に61歳で旦那になる人より歳が近いの・・・」
「もう子どもも生めないお嫁さんに不安だったようだけど、今ではご両親と兄弟のようなお付き合いで、和気藹々・・・」とお幸せそう。

 ウチの奥さんのお母さんはすでに90歳を超えているが、杖もつかないで歩くし、声にも張りがあって元気いっぱい。
 たまにお伺いして、昔秘書課の華とおだてられた頃の話をすると「そんなことないわよ・・・」と言いながらもご機嫌。このところ奥さんからコケにされているボクに「旦那を大切にしなきゃダメよ!」とサポーとしてくれて、ボクにとってホッとする存在だ。
  

運が悪いことから全てが始まった(72)貿易会社(30)

2013-12-24 03:39:03 | 小説、運が悪いことから全てが始まった
「司さんにはお世話になりました・・・」
 視察が全て終わり、東京のレストランでさよならパティーが開かれた時、使節団の団長が挨拶の中でボクの名前に触れた。
 ・・・えっ!ボクが?・・・
 びっくりだった。
 ロシア語がしゃべれるわけではない。
 裏方として地味な働きをしただけなのに。
 不自由な足を引きずって右往左往していた姿に同情してくれたのかもしれない・

 パーティーは大いに盛り上がった。
 
 彼らは出されたウオッカを「底まで乾杯!」の儀式をした後、コザック踊りを披露して場を盛り上げた。
 
 C機械工業の春田部長が調子に乗って同じようにコザック踊りでみんなから喝采を浴びたが、会がお開きとなると同時にぶっ倒れてしまった。
 ボクは彼をタクシーで旅館まで送り届ける羽目になった。

 ボクの仕事は春田氏の尻にくっついて歩き、最後に彼の反吐の面倒を見ることだった。

 ─続く─

 「夢をみよう!」テレビCMでJRAが名馬テイエムオペラオーを使って連呼していた。
 
 テイエムオペラオーといえば2000年にはG1を総なめにし、無敵の8連勝を成し遂げた伝説の名馬だ。
 馬主は、自分の愛する馬の単勝を買い、勝った額すべてを次のレースに投入するという方式で買い続け馬券だけでもウン千万儲けたという。
 もちろん馬自身の賞金は18億円を超え、歴代1位だそうだ。

 そして今回夢を求めて集まった11万の観衆の前で新たな伝説の馬が誕生した。
 オルフェーヴルは最後の直線、後方からまくり、8馬身の大差で圧勝した。
 
 サッカーの名選手、オウエン氏をして「何という馬なんだ!」と言わしめた。
 レースで横道にそれたり、騎手を振り落したり、期待された凱旋門賞では2着に甘んじた気まぐれやんちゃ牡馬だが、池添騎手は「彼こそ世界一だ!」と絶賛した。
 これで引退なんていうもんだから、彼は「冗談じゃないぜ!」と初めて本気を出し、見せつけたのかもしれない。
 オルフェーヴルの快走はyoutubeでご覧ください。感動します。

 
 

運が悪かったことから全てが始まった(71)貿易会社(29)

2013-12-23 07:44:52 | 小説、運が悪いことから全てが始まった
 プラント製造メーカーC機械工業は岡山県の福山市にあった。
 ソ連使節団を案内したのは、木材製造業が集まっていた瀬戸内の企業だ。
 ボクがスケジュールを立て案内をしたといっても、実際はC機械の春田東京営業所長が全てを取り仕切り、ボクは使節団と一緒にくっついて歩くだけだった。
 
 使節団はゴルバチョフみたいな陽気で体格のいい公団の副総裁を団長に総数7名、技術者が4名、陰気なKGBではと疑いたくなるようなお役人も含まれていた。
 しかし、印象的だったのは技術者たちの素朴な人柄だった。
 ソ連というイメージから受けるずるがしこさはまるでない。
 日ソの技術者たちの話し合いは図面があれば通訳などいらなかった。
 彼らはすぐ打ち解けた。

 お酒がべらぼうに強い。
 食事のあと二人同室にサントリーのダルマを1本づつ差し入れたが、ひと晩ですっかり空になっていた。
 仕事から解放されると近所の八百屋から胡瓜やニンジンなど野菜を買ってきて、それをつまみに飲んでいたようだ。
 タクシーを連ねて京都観光なども行ったが、彼らは目を輝かせて楽しんでいた。
 

 天皇陛下が今日80歳、傘寿の日を迎えられた。
 
 そのお立場は孤独と思えるものがあったが、皇后の支えが大きかったとおっしゃった。

 昨日は我が大学同窓会麻雀会の第191回目が開催され、ご夫婦で参加されているM氏が傘寿の祝いを受けられ、「畏れ多くも私は天皇陛下より年上です」と挨拶された。
 
 参加数52名で優勝したのも80歳を超えているK氏だった。
 傘寿を超えたかたが11名となった。
 麻雀は長寿に効果的だと、みんな意気軒高だ。

 帰りは同じバスで先輩のN氏と、まだ若いNさんと一緒だった。
 Nさんの義理のお母さんが今年97歳でお亡くなりになったそうだ。
 山田耕筰や服部良一とも交流があり、80代で海辺の水着姿を披露された方だという。
 わが麻雀会の最高齢は92歳のUさん。
 100歳までの記録を打ち立てるのではというほど元気だ。