たかはしけいのにっき

理系研究者の日記。

「もっと勉強しておけば良かった」って言うな

2017-02-28 01:41:54 | Weblog
 大学院生や社会人が、「もっと勉強しておけば良かった」と言うのは、はっきり言ってしまえば甘えだと思うし、もっと言えば害悪である。
 これについては、あまり世間で問題にされていない分、余計に俺が強く問題を語らねばならないのかもしれない。

 注意しなければならないのは、「もっと勉強しておけば良かった」と思うのは勝手だが、それを言ったり、見せびらかしてはいけないということだ。(まぁ、際限無く与えられた時間のなかで、"思っているのに言わない"というのは、俺にはほとんど不可能に思えるが)

 学部時代や高校時代以前、目の前の自分の欲望に対して従順でいたわけで、そのぶん得るチャンスを失った思考力について、これ以降に簡単に取り戻せるわけがないじゃないか。そういう人間が、何も成長しない状態で、必要を満たすための作業をしていることを「勉強」だと名付けるから、これが厄介なのである。
 で、後輩や部下や自分の学生に、「君たちは十分に勉強できる状態なんだから、もっと(必要な)勉強をしなさい。学校の勉強は役に立つ内容は全然ないが」などと言うのである。そして「とてもタメになる(or役に立つ)、この本読んでみたら?」とドヤ顔で言うのである。

 学習というのは、「与えられた問題に対して、いかにして素早く処理するか?」という能力を高める行為ではない。その問題の真意を明らかにし、繰り返し思い出すことによって、自分で考える力である思考力を高めていくことが学習の目的であるのだ。あくまで、この結果として、最初は難しかった問題が素早く処理できるようになるだけである。
 つまり、簡単に言ってしまえば、ガチで賢くなろうともしないで対処方法だけを沢山インプットしていては、お勉強をしている意味が無いだろうということだ(そのような勉強法を極めた人間は東大にも沢山いるが、このタイプはAIによってそのレゾンデートルを奪われる運命にある)。そして、学生時代(理系の大学院を除く)にきちんと学ばなかった人の圧倒的大多数が、短絡的に枚挙的に、目の前の問題に対しての処理の仕方をインプットしているだけなのである。これでは学習の一番大事な部分が失われている。
 にも拘らず、これを下の世代や部下に押し付ける。「これは勉強になるぞ」と仕事に直結しそうな新書、もしくは精神論が書かれた図書を渡す。1年も経てば、渡した本人がその内容をきちんと覚えていないような本を、である。ただの時間の無駄。害悪である。

 このタイプの人口があまりにも多いが故に、本質的に学習に取り組もうと思ったら、このマジョリティを押し切るだけの覚悟がいる。あまりにも貧しい現状ではあるが。
 とてもじゃないが自分の興味だけを推し進めれば良いというレベルではない。それに、自分の興味について思考を進捗する行為というのは、(少なくとも人類にとっての)研究ではないし、ましてや学習ではないのだ。せっかく先人が歩いてくれた道があり、それ通りにやればある程度の賢さと新たな知見が得られるというのに、どうしてわざわざ自分固有の道を作りたがる?俺には理解ができない。まずは他人の真似をきちんとすること。その型をきちんと学びながら、それ通りに出来るようになった後に、それでも溢れ出てしまうものが個性であり、ただのあてづっぽうの自分勝手を研究や学習と呼んではいけない。
 単純に自分の興味を追究し続ける行為は自由研究である。基礎学力の無い人(理系なのに、高校数学・理科をきちんと理解してない、誤差解析ができない等の人)が自由研究をやるのは勝手なのだが、国の予算を使ってはいけない。まずはきちんと学習するのが先だろう。そんな自由研究を研究と称しているのがマジョリティというのが、なんとも悲しい状況なのではあるが。

 皆、学歴差別や女性としての価値を年齢で判断することに対してはそこまで躊躇が無いわりに、思考力の手遅れに関しては、敏感なようである。なんとも自分勝手な価値観だなぁと思うが、、怒りを感じるなら(すべての怒りは突き詰めれば自分の能力不足に向いているわけだから)、すべてを捨てる覚悟で、きちんと学習したら良い。
 「結婚して子供がいるから」「研究成果を出すためにはそんなことをしている暇が」「忙しくて」そう思うなら、金輪際、「もっと勉強したかった」などと言わないことである。過去にとらわれないで、今大事なことをしたらイイ。

 だって、別に、思考力なんてくだらない能力を高めなくても、自分の分を弁えたとしても、あなたの幸せは十分に達成されるのだから。
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