たかはしけいのにっき

理系研究者の日記。

「どの分野であれ、一つでもできなかったら理系じゃない」リスト

2017-07-23 03:17:09 | 自然科学の研究
 さて、Twitterで呟いたことをまとめるという、(俺にとってはある種の)逆輸入的なことをしてみましょうか。
 少し補足しながらそれぞれについてもう一度語ります(重複もあります)。

 まず理系の定義ですが、大卒以上で理系学部を卒業し、本来"自然"科学ではない数学科や実学にかなり近い建築学科などを除きます(数学科は言語学に近いし、建築は芸術に近い、というのが俺の考えです)。
 だいたいイメージできたかな?以下を読むと「物理学科なら良いってことかよ?!」と思うと思いますが、その通りです。前にも言いましたが、これからの時代は「物理学科以外は大学じゃない」にマジでなっていきますから、それが基盤となります(この説明は俺のYouTubeチャンネルのシリーズの「アメリカから雑談#22」を参照してね)。

 ではスタート。


 ①線積分、面積分、体積積分

 力学や電磁気はあらゆる自然科学の分野の基礎です。ニュートン力学があるから分子運動が予測できたりエネルギーの概念がかなり普遍的に定義できたりするわけで、電磁気があるから双極子が定義できたり電気泳動ができたりするわけです。私たちは普段、力学や電磁気をかなりの割合で使っていますから、ここの基礎はきちんと抑えておくことがすべての理系に求められます。
 だから、その上で必要な数学であるベクトル解析は、ある程度自在に扱えなければお話になりません。これら3つの積分の違いを明確に認識していて、必要なところで必要な積分ができることは理系として大事です。もっと言えば、ガウスの定理やストークスの定理もできると良いですが、とりあえずはこの3つの積分がちゃーんとできれば合格で良いと思います。よく、物理学科以外の学生が、ベクトル解析もままならないままに、力学や電磁気、さらには量子力学に手を付けていたりするわけですが、はっきり言って無駄です(まったくやらないよりはマシだけどさ)。ベクトルを微分したり積分したりできなきゃ、現代科学は理解できません(だいたい波動関数は無限次元複素ヒルベルト空間で定義されるんだし、ベクトルくらい微分・積分できなくっちゃね)。ベクトル解析をしっかり勉強しましょうね。

 ②フーリエ級数展開・フーリエ変換

 波動を扱う場合に便利なフーリエ変換ですが、物理専攻以外の多くの人も試薬を使って実験します。その試薬を同定するにはNMRを使うことが多いわけですが、これはフーリエ変換を用いて解析します。これができないと、「その物質は本当にその物質なのか?」を自分で確証が持てません。自分がきちんと認識できていないブラックボックスの部分があっても構いませんが、ここは譲れない部分です。
 フーリエ級数展開・フーリエ変換が自在に使えれば、直交関数列を理解することにもなります。これはその先の量子力学などを学ぶ上でも大切な概念になります。欲を言えば、ルジャンドル多項式の展開なども(電磁気の)多重極展開などで使いますから、できたほうがいいですが、まぁノリは同じですから、とりあえずは三角関数が出来れば良いと思います。また、大学受験で三角関数を自在に扱えるまで勉強できてなかった人は、ここで良い復習の機会になりますから、そういう意味でもすべての理系はフーリエ変換はできてください。

 ③偏微分

 偏微分は、①よりも前に書くべきかもしれませんが、まぁ、重要度からすると3番目くらいでも妥当な気もします。もちろん、これもできなきゃヤコビアンを導入することすらできませんから、直交座標系以外で積分ができなくなっちゃって、めっちゃ困るんですけどね(つまり下の電磁気が何もできない)。
 これは、最低でも誤差論はできてね、ってことでもあって、線形回帰直線を引くときの傾きや切片は、偏微分から求めます。特殊なフィッティングができなくても良いですが、線形回帰くらいは原理的に自分で導出できるようになっておきましょうよ(記号が変わる程度で別に大して難しい行為じゃないんだからさ)。
 さらに、化学・生物学でも、学部レベルの熱力学の理解は必須です。偏微分や全微分形式がわかっていないと、熱力学関数を理解することができません。凸性とかルジャンドル変換とか、あの辺りを理系全員ができなくても(とりあえずここ30年くらいは)良いと思うんだけど、まぁ、カルノーサイクルとマクスウェル関係式くらいは(定量的にも)抑えておきましょうよ。

 ④積分形のガウスの法則の立式

 大学レベルで、電場くらいは、きちんと求められるようになりましょう。電気力線描けるのって大事よ、ホント。力線の考え方って、「場」の考え方になるので、これによって、直接接触していなくても相互作用しうることに気がつけると思います。これは色んな意味でアイディアを出すときに大事です。
それに、ほとんどの分野で電気を使った装置で実験するのですから、っま、電場くらいはちゃんと求めようよ。そして、電場、電圧、電力、電流、磁場、磁束密度、などの概念をきちんと理解していることは、どんな実験でも大切です(電気泳動、物性試験など)。
 欲を言えば、「物質中の電磁気学」まで学んでいるほうが良いです(っていうか、本当は、ここまでやらないと、他分野で電磁気を勉強する意義はそこまでないかも)。束縛電荷(or電流)と自由電荷(or電流)の違いを抑えながら、分極や磁化を導入できると、思考力のレベルが一段変わってあらゆるところに電磁気が見出せるようになります(慣れちゃえば物質中のほうが簡単なときすらあるし)。

 ⑤一次元無限井戸型ポテンシャルのシュレディンガー方程式を解く

 俺の同級生が「これは物理学科の最低限。"何も見ずに、自分で問題を設定できて、ぱっと解けること"っという意味で、最低限これだけはできてくれ、ってやつだよ」と言っていましたが(それは確かに正論)、俺的には、何か見ても良いから、原理的にできる状態にしておくことはすべての理系に必須だと思います。
 たとえばファンデルワールス力はs軌道よりも対称性が破れるp軌道由来で起こります。高校で習うようなファンデルワールス力なんて、もっと簡単な原理だろ?っと思いがちですが、こういった基本的事実も量子力学で解明されたのです。ミクロな世界ではエネルギーが連続的ではなくエネルギー準位と呼ばれる階層性があることくらいは、自分で算出できるようにしましょうね。この下地があると分子を理解する上でも、思考の展開の仕方が変わってくると思います。


 というわけで、いかがでしょうか?
 ほんとはね、プログラミングとか、線形代数とかも入れたいんですが、、まぁ、本当に最低限、これらだけはできてくれ、ってヤツを挙げてみました。「あ、やっべ」ってなった人や、「できねー」ってなった人は、これらだけを調べるのではなく、くだらないプライドを捨てて、高校数学・高校物理まで戻って、ゆっくり思考してくださいね。

 じっくりゆっくり考えることが、物理を理解する一番の近道ですから。
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7 コメント

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Unknown (白井哉智)
2017-07-24 08:24:35
やっべ 俺のことじゃん
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i see (diaspora)
2017-08-03 00:10:49
大変勉強になりました。ところで、数学科の人で語学がものすごくできる人と、数学はすごくできるけど、語学が全然ダメな人とがいるようです。ご参考まで。
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Re:i see (KeiT)
2017-08-03 13:53:08
コメントありがとうございます。そう言って頂けると励みになります。
数学科は私とは別世界なのでよくわかってないのですが、、なるほどー、言語派(論理型)とイメージ派(直観型)にわかれるのかもしれませんね。
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生意気すぎる (Prof D)
2017-10-16 00:33:03
物理学科の一年生とかの子?「オリンピック選手はスポーツ選手じゃないからスポーツ選手には入れません俺の考えでは陸上くらいできるのが陸上の最低条件」みたいなクソ意見書くのはもうちょっと大きくなってからにしなさい。研究者になるつもりならこんな黒歴史を残すと一生笑われるぞ。
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Re:生意気すぎる (KeiT)
2017-10-16 11:03:17
コメントありがとうございます。

私なりに考えて書いていたのですが、お気にめさなかったようで残念です。重ねて残念なことに、私にはさほど読解力がなく、スポーツ経験も少ないため、あなたの仰ってることが私にはよくわかりませんでした。
他人の意見を短文で否定される際には、アナロジーを使わず、立場や年齢の違いではなく、論理だけで説明されるほうが伝わると思いますよ。少なくとも私には。

では。
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Unknown (KOM)
2017-11-29 15:15:10
参考になりました。ありがとう。
他の記事も読みましたが、高橋さんの視点は面白いです。
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Re:Unknown (KeiT)
2017-11-29 16:06:08
KOMさんへ

コメントありがとうございます。
これからも、そのようなご意見を頂けるような文章を書いていきたいと思います。YouTubeも是非チェケラしていってくださると幸いです
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