スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

カーンの雑感⑬&存在しない個物の観念

2023-03-12 19:03:22 | NOAH
 カーンの雑感⑫で出てきた厚生年金の件については,僕の推測を説明しました。なのでカーンの話の続きへと進めます。
 カーンの雑感⑪でいったように,カーンは全日本プロレスで仕事をしている途中で,長州力とも対立し,戦うようになりました。シングルマッチも実現し,それは長州が勝っています。しかしこの戦いは長く続きませんでした。長州が新日本プロレスに戻ってしまったからです。僕が1987年のピンチといった一件です。
 このことについて,カーンは長州は金に釣られて新日本に戻ったのだと言っています。このとき大金が動いたのは事実と思いますが,このように言われるのは長州にとっては不本意だろうと思います。全日本プロレスのエースであったジャンボ・鶴田は,自分にとって戦うに値しない,あるいは倒すに値しない選手であるという認識が長州にはあったのであって,そのことが新日本へのUターンの理由のひとつではあったろうと僕は思うからです。ただ,ジャパンプロレスが創立されたとき,その創設メンバーの間で,この団体が自分たちの最後の団体であるという誓いがあったそうなので,その誓いが裏切られたと感じているカーンが,長州についてそのような糾弾をするのも,理由がないことではないでしょう。そして新日本に戻った長州が,ジャパンプロレスの選手として全日本で仕事をしていたときより,収入を上昇させたのも,嘘ではないのだろうと僕は思います。
 このときにカーンは40歳だったのですが,現役を引退しました。これは前にもいったことがありますが,長州と同じ業界にいたくはないからだったとカーンは証言しています。僕はそのような理由だけで引退という重大な決断に至るということについてはリアリティーを感じられないのですが,実際にカーンは引退し,なおかつその後に復帰することはなかったのですから,長州との関係,あるいはカーンの長州に対する思いが,カーンの引退の原因の少なくとも一部を構成しているのは事実だと思います。

 第二部定理八は,存在しないnon existentium個物の観念Ideae rerum singulariumについて言及しています。これが現実的に存在しない個物の観念という意味であれば,たとえば現実的に存在しているある人間の観念は,たとえその人間が現実的に存在していない場合でも,つまりその人間が産まれるとか死ぬとかいったことと無関係に,神の無限な観念Dei infinitia ideaの中に包容されていることになるでしょう。そしてこの観念は,当然ながらその人間の現実的本性actualis essentiaを含む観念です。なぜなら,この観念が十全な観念idea adaequataであるということは,それが神の無限な観念の中に包容されているということから前提されなければなりませんし,ある人間の現実的な存在existentiaはその人間の現実的本性によって鼎立されるのだからです。ただし,ここで存在しない個物といわれているのが,現実的に存在しない個物であると解してよいかということは,議論の余地があります。これは『スピノザーナ10号』の柏葉武秀の論考を探求したときに説明したのでここでは繰り返しませんが,たとえばAとBというふたりの人間がいて,このふたりの人間が現実的に存在しない観念として神の無限な観念に包容されているときに,それらの観念は現実的に存在しているAの観念と現実的に存在しているBの観念とが区別されるのと同じように区別され得るのかということは,是ともできそうですし非ともできそうだからです。この是非が現状の考察といくらかの関連を有すると僕は考えていますが,ここではそこを深くは追及しません。この定理Propositioによって何がいえるのかということは,それぞれの判断に委任することにします。
                                         
 この定理はさらに,個物の形相的本性essentia formalisが神の属性attributumの中に含まれているということを明言しています。これも以前に説明したことですが,スピノザが形相的本性というとき,僕はそれを事物の本性が知性intellectusによる認識の対象ideatumとなることを前提としているというように解します。この定理でいえば,個物の形相的本性が神の属性の中に含まれていることと,存在しない個物の観念が神の無限な観念に包容されているということが対になっていて,それはつまり存在しない個物の本性が知性による認識の対象となって観念としてあるという意味になります。
コメント
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