スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

オルデンブルクとの文通&第一のテーゼ

2020-04-28 19:07:10 | 哲学
 書簡五の後しばらく,スピノザとオルデンブルクHeinrich Ordenburgとの文通は,スピノザとロバート・ボイルRobert Boyleとの,自然科学を巡る論争をオルデンブルクが仲介するという形で続きます。これらの文通の内容については,『スピノザ哲学研究』を考察したときに説明していますので,個々の書簡については,それ以外に有用性を認められない限り,このブログでは扱いません。自然科学の部分の論争の是非については,僕の力では解き明かすことができないからです。
 文通がこのような内容に変化したのは,書簡五が,実際にはロバート・ボイルの著書をスピノザに送るために付せられたものであったからだと思われます。ただ,スピノザとオルデンブルクとの間での哲学的対話が消えたことに,何らかの事情があった可能性は否定できません。たとえばオルデンブルクからすると,スピノザの哲学は難解すぎるので,それについて議論することに疲れてしまったとか,あるいは諦めてしまったという可能性はあるでしょう。また,スピノザの哲学は本質的には時代的に危険なものでしたから,オルデンブルクがそのことに気付き,そうした対話を意図的に回避したという可能性もなくはありません。同様にスピノザの側からすると,オルデンブルクがスピノザの哲学を十全に理解することができないのではないかと疑ったため,これも意図的にその種の議論をすることを避けたとか,いくら自分の哲学について説明したとしても,オルデンブルクがそれを肯定することはないだろうと思うようになったために,やはり意図的に哲学的な対話をすることを中止したというような可能性は,絶対にないとはいいきれないでしょう。ですから,単に書簡五の内容によって,その後の文通のあり方が決定づけられたとは断定しない方がいいのかもしれません。
                                        
 ところで,スピノザ―ナ15号に収録されている平尾昌宏の「≪スピノザ書簡集≫を作る」という論文では,スピノザとオルデンブルクの文通の背後にはボイルがいたと指摘されています。したがって,オルデンブルクからスピノザに宛てられたものの中には,一読しただけではボイルとは無関係に思える書簡にも,ボイルの影響があった可能性は排除できないのかもしれません。

 メイヤスーQuentin MeillassouxがいうバディウAlain Badiouの第一のテーゼは,数学は存在論である,というものです。このテーゼは一瞥しただけでは意味が汲み取りにくいと思いますので,ここでの考察と関連させる形で,どのような意味として解するのが適切であるかということから説明していきます。
 存在論というのは,一般的には哲学とか形而上学に類する学であるといえます。ですがバディウのいっているのは,数学というのはそのような哲学あるいは形而上学であるということではありません。そのように解するなら,これからの考察には混乱を招いてしまうでしょう。むしろこの観点でいうなら,バディウのいっていることは,存在論は数学であるということです。いい換えれば,もしも存在論というのがひとつの学問として成立するのであれば,それは数学でなければならない,あるいは数学的に考えることができるのでなければならないということです。そのために,数学的に考えることができないようなある種の学問についてそれを存在論であると主張するのであれば,バディウはそれを否定することになります。
 したがって,バディウが数学は存在論であるというときの存在論は,ごく一般的な意味において存在existentiaについての論理ではありません。たとえばある何ものかが具体的に存在するのかしないのかといったことについては,数学が明らかにできるわけではありません。少なくともそのすべてを明らかにすることはできません。そうしたことはたとえば化学とか生物学のような,諸々の自然科学の助けを得なければ解明できないのです。つまりバディウはそのことは存在論からは外しています。数学となるような存在論というのは,数学に特有の理念とか形式を有するもののことであり,バディウがいう存在論というのはそこに限定されます。ただしそこに限定されるとはいっても,それが数学であるという点は看過してはいけないのです。なぜならそれが数学であるということの意味のうちに,それは哲学ではないとかそれは形而上学ではないという,否定的な意味もまた含まれているからです。いってみればバディウは,存在論を哲学や形而上学から剥奪することを目指していたのです。
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