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スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

カーンの雑感①&非党派性

2020-04-21 19:02:12 | NOAH
 キラー・カーンは全日本プロレスで仕事をしていた期間は短かったものの,興味深く感じられる証言をしています。ただ,カーンの発言には一定程度のバイアスをかける必要があると思われますので,そのあたりの事情を最初に説明しておきましょう。
 カーンは1971年1月に日本プロレスに入門しています。猪木が日本プロレスに対してクーデターを起こそうとしたとして除名されたのがこの年の12月、猪木が中心だったNETの放送に馬場が登場し,馬場はそのことに不信感をもって日本プロレスを退社しました。つまりカーンが入門したときには,まだ馬場も猪木も日本プロレスに所属していたのです。
 カーンは出身が新潟県で,これは馬場と同郷になります。しかも馬場の出身地とカーンの出身地は,隣の隣の町という,きわめて近いところでした。このために馬場は入門したカーンのことをかわいがったそうです。かわいがったというのはカーンの証言であり,カーンからすれば,日本プロレスのエースである馬場が,入門して間もないカーンのことをかわいがってくれたということになります。つまりカーンはプロレス界に入門してすぐに,馬場に対して好感を抱いていたのです。
 このときカーンは吉村道明の付き人でした。ところが吉村は1972年3月にプロレスラーを引退してしまいます。そこでカーンは坂口征二の付き人となりました。馬場が日本プロレスを退団したのが7月。カーンは本当は馬場についていきたかったのですが,坂口の付き人となってしまったためにそうすることができず,翌年の4月に坂口と共に新日本プロレスに移籍することになります。
 カーンは,自身のプロレス人生の中での最大の失敗は,馬場ではなくて猪木を選んでしまったことであるという主旨のことを,プロレスラーをとっくに引退した現在でも述懐しています。こうしたことはそもそもカーンのプロレス人生の初期の経験に経緯があることになります。ですからカーンの証言を受け取るときには,こうした事情を無視するわけにはいかないことになるのです。

 たとえばアルチュセールLouis Pierre Althusserがある政治的立場を選択したら,それより優れた政治的立場があると認識するcognoscereのでない限り,アルチュセールはその立場を保持するよう固執するperseverareことになります。これは第三部定理六に合致するといわなければなりません。そして第三部定理七により,それがアルチュセールの現実的本性actualem essentiamであり,コナトゥスConatusです。そしてこのコナトゥスは,第三部定理九によって,アルチュセールが物事を十全に認識しようが混乱して認識しようが同じように発現します。したがって,アルチュセールがゲルーMartial Gueroultのスピノザ論に触れたとき,それが自身の政治的立場を補強するものとなっていないと認識したなら,アルチュセールがそれについて不満を抱くのは,アルチュセールのコナトゥスそのものの作用であるといって間違いありません。そして僕はこのような解釈を党派的であるといっているのですから,アルチュセールは自然Naturaの法則に従って党派的になったといえます。これはアルチュセールを例材としただけであり,現実的に存在する人間はだれであれ,本性naturaの必然性necessitasによって党派的になる,少なくとも党派的になる場合があるということになります。このために僕は,ある人間が党派的であるということだけで,その党派性がどのような党派性であるかを問わず,批判することはしないのです。
                                   
 スピノザの哲学は上述のような意味で,党派的であることを許容する哲学であるといえます。しかしスピノザの哲学それ自体が党派的であるということはあり得ません。というか,スピノザの哲学が党派的であり得ないのは,上述のような意味での党派性についてそれを許容しているからだといえなくもありません。もしそれを許容せず,党派的であることを一切認めないような思想であれば,その思想自体が党派的であるといわれなければならないからです。少なくともスピノザの哲学のような,党派的であることを許容する余地を含む思想に対しては,党派性をまったく許容しない思想は党派的であるといわれなければならないでしょう。
 スピノザの哲学の道徳律は,能動actioを希求し受動passioを回避する点にあるので,党派的でない方が優れているのはいうまでもありません。
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