スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

安堵と絶望の個別の派生感情&党派的

2020-04-14 19:11:13 | 哲学
 第三部諸感情の定義一四では,疑いdubitatioの原因causaが除去された観念ideaといわれています。もう何度も指摘したことなので詳細は避けますが,このことから安堵securitasが希望と不安からの派生感情であるということが一般的に帰結します。同じことは同じ文言が含まれている絶望desperatioについてもいえます。
                                   
 このとき,疑いの原因が除去された観念というのは,確実性certitudoを有する観念とは限りません。いい換えれば十全な観念idea adaequataとは限りません。混乱した観念idea inadaequataの場合もあるでしょう。僕たちが表象像imagoによって安堵したり絶望したりすることがあるというのはごく普通のことだからです。ですから,安堵を感じたからといって,あるいは絶望を感じたからといって,必ずしも僕たちが事前に疑いを有していた原因が,本当に除去されたとは限りません。除去されたと思い込んでいたけれども実際は除去されていなかったということはあり得るからです。するとその場合,僕たちが安堵をしたその後で,その疑っていた原因から悪い結果effectusが生じるということがあり得ることになりますし,逆に絶望を感じたその後で,疑っていた原因からよい結果が発生する場合もあり得ることになります。
 安堵は喜びlaetitiaの一種ですが,安堵の後に悪いことが起これば僕たちは悲しみtristitiaを感じます。逆に絶望は悲しみの一種ですが,絶望の後によいことが生じれば僕たちは喜びを感じます。これはそれ自体で明白でしょう。このとき,安堵の後に生じた悲しみは落胆conscientiae morsusというべきだし,絶望の後に生じた喜びは歓喜gaudiumというべきだと僕は考えます。第三部諸感情の定義一七第三部諸感情の定義一六は,各々の落胆および歓喜のあり方に合致しているといえるからです。
 したがって,安堵は落胆の,絶望は歓喜の,一般的な派生感情ではあり得ないのですが,個別の派生感情ではあり得るのです。

 アルチュセールLouis Pierre AlthusserがゲルーMartial Gueroultに対して抱いた不満の原因causaが,僕がここまで考察してきた点にあったとき,僕はアルチュセールはスピノザの哲学について党派的に解釈していたとみなします。これはすでに,アルチュセールが実存主義や現象学をブルジョアジーの哲学として解釈していたとき,そこには党派性があったかもしれないといったときに説明したように,ある特定の政治的立場から哲学なり思想なりを解釈する立場のことを,僕は党派的であると解するからです。僕自身はアルチュセールがゲルーに対して抱いた不満というのは,確かにアルチュセールがスピノザの哲学について党派的であったということを証明し得る事柄だと考えます。ただし,現状の主目的は,アルチュセールが党派的であったということを示すことに重きが置かれているのではなく,僕が党派的であるということをどのように解しているかということを詳細に説明するという点にあるのですから,もしもこのような意味ではアルチュセールは党派的ではなかったという見解opinioをもたれる方がいらっしゃったとしても,僕はその見解そのものと争うつもりはありません。その場合にはこの部分に関する僕の考察が僕の仮定にすぎないものと理解し,その仮定が成立する場合には,そのような態度のことを僕は党派的といっているということだけ,誤らずに分かっていただければ十分です。
 もう一点だけいえば,僕はアルチュセールはスピノザの哲学について党派的であったと考えますが,だからアルチュセールの考え方,とりわけスピノザの哲学に関する解釈が誤っているということをいいたいわけではありません。これはスピノザの哲学に限ったことではなく,どんな思想あるいは哲学であったとしても,それを正しく認識するcognoscereということと,党派的であるということは別の事柄です。他面からいえば,ある人間と別の人間がいて,ふたりともが同じ思想についてそれを正しく,正しくというのは一致してということを含みますが,そう認識したとして,ある人間は党派的にはならず,別の人間は党派的になるという場合があり得ます。どんな人間であれ,党派的であるということを僕はそれ自体では批判しません。
コメント
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