スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

モナドがない場合&憎しみの正当化

2018-03-31 19:00:25 | 哲学
 ライプニッツGottfried Wilhelm Leibnizがスピノザの哲学に対抗する上で対立軸として設定したのは実体の数でした。ただ,スチュアートがいうように,ライプニッツにとってのスピノザ問題は,哲学問題であったというより宗教問題であった可能性もあるのであって,モナドというライプニッツの哲学の中心的な概念notioは,哲学問題を解消するためにでなく,宗教問題を解消するために創造された可能性があることは僕は認めます。
                                     
 ただ,問題がどちらであったにせよ,ライプニッツがモナドを中心に据える自身の哲学によって,スピノザ問題を解決することができることに自信を持っていたことは僕には確かであると思えます。だから,モナド論の中にスピノザ主義が混在しているかという文通相手の質問に対して,ライプニッツはモナドだけがスピノザ主義を否定できるといい,もしモナドがないならスピノザが正しいだろうといったと僕は思うのです。ところがスチュアートはこの一文は人びとを混乱に陥れる要素が含まれていると書いています。
 モナド論が真verumであるなら,ライプニッツのいっていることは明白です。ライプニッツはその観点からこういったと僕は考えているわけです。しかし,もしモナド論が真であることに確信がない人がこれを読めば,もしモナドが存在しないならスピノザが正しいということが帰結します。確かにライプニッツの文章は,モナドが存在しないならライプニッツ自身の思想が誤りerrorであるといっているのではありません。その場合はスピノザが正しいといっているのです。
 これはライプニッツが自身の哲学を構築するにあたって,ほかのだれよりスピノザを,あるいはスピノザだけを意識していたから発せられたのであり,スチュアートがいうような意味でこの文章を受け止める必要はないと僕は考えます。ただ,スチュアートは,どんなに控えめに見てもここでライプニッツは瞠目するほどスピノザを持ち上げているといっていて,その部分は僕も強ち間違いではないと思います。ライプニッツが意識していたのがスピノザだけであるなら,それは持ち上げているのと同じだと思うからです。

 憤慨indignatioは,第三部諸感情の定義二〇にあるように,その対象が人間であるということによって,ある人間のうちに生じやすいというメカニズムを有しているだけではありません。同時に,この憎しみodiumが正当であると判断されやすい特徴を有しているのです。なぜなら,第三部定理四九備考にあるように,僕たちは僕たちが自由libertasであると表象するimaginariがゆえに,互いに愛し合いまた憎み合うのです。憤慨が感じやすい感情affectusであるのもそのためです。したがって,ある人間が自分の愛する者に害悪を与えた,いい換えれば悲しみtristitiaを齎したと僕たちが表象するとき,それはその人間の自由の裁量の下にその害悪を与えたと表象されやすくなります。よってその人間が愛する者に悲しみを齎すこと自体が不当であると判断されやすくなり,逆に自分のその人間に対する憤慨は正当であると判断されやすくなるのです。
 憤慨は憎しみの一種ですから,これは憎しみの正当化といえます。つまり僕たちの現実的本性actualis essentiaは,ある種の憎しみ,とりわけそれが人間に対する憎しみである場合,その憎しみを正当化しやすくなっているのです。確かに僕たちは,何が正当であり何が不当であるかを判断するとき,それが当人の力potentiaのうちにあるかそれとも力のうちにないかということを比較の材料とします。したがって,もしも愛する者の無能力impotentiaのゆえに愛する者が悲しみを感じたと表象する限りでは,僕たちは悲しみを与えた人間に対して憤慨することはありません。たとえばある棋士のファンが,その棋士との対局で勝った相手の棋士に対して憤慨することは,将棋の内容そのものに関していうならないといって過言ではないでしょう。また逆に,ある人間が愛する者に対して悲しみを与えたとしても,それが悲しみを与えた当人の力のうちにはなかった,他面からいえばその当人の力では避けることができなかったと表象するなら,その人間に対して憤慨することはありません。患者の命を救えなかった医師に対して,その医師が全力を尽くしたと表象するなら,その医師に対して憤慨することはないのです。
 ですがこれらは少数例です。僕たちは憎しみを正当化しやすいと解しておいた方がよいでしょう。
コメント
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