スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

対立軸&第三部定理五〇備考

2018-01-27 19:07:07 | 哲学
 ライプニッツGottfried Wilhelm Leibnizは確かにスピノザの哲学に対抗するための哲学を打ち立てました。そしてその対立軸として,実体の数を中心に据えたのです。すなわちライプニッツはモナドの数と同じ数だけの実体substantiaを認めるのに対し,スピノザは神Deusを唯一の実体として規定します。このゆえにモナド論はスピノザ主義などではなく,むしろスピノザ主義に対立するものなのだというのがライプニッツの主張です。
 ライプニッツがモナドの数と同じだけの実体を認めなければならなかったのは,可能世界を認めるためです。そして可能世界を認めないと,神は必然的なものであり,自由なものではなくなるとライプニッツは認識していたのでした。スピノザは自由libertasを意志voluntasとは切断して規定し,この場合には自由と必然は必ずしも対立的なものではなく,むしろ自己の本性の必然性によってのみ存在し働くagereものが自由であると考えたのですが,ライプニッツは意志と自由,とりわけ善意と称されるような意志の一種と自由を切り離して考えることができなかったので,自由と必然は対立するものと規定しなければならなかったのです。
                                     
 ここには確かに神学的な観点が含まれていたかもしれません。神が何事をもその本性naturaの必然性necessitasによってなすというより,神は善意によってすべてのことをなすとした方が,神学にはマッチしていたといえるからです。したがってライプニッツにとってスピノザ主義の最大の問題が宗教問題だったとするスチュアートMatthew Stewartの主張にも,一理あることになります。
 一方,ライプニッツはそれを主張したのと同じ手紙の中で,もしモナドがないならスピノザが正しいだろうといっています。つまりライプニッツにとっては,スピノザであるかライプニッツであるかのどちらかであって,それ以外の選択肢はなかったのです。このようないい方からして,ライプニッツがいかにスピノザを,しかもスピノザだけを意識して哲学を構築したのかということが分かります。

 不安と希望が表裏一体であるということは,スピノザ自身が第三部定理五〇備考でいっていることです。
 「単にこの両感情の定義だけからして恐怖なき希望というものはありえずまた希望なき恐怖というものもありえない」。
 文脈は心情の動揺animi fluctuatioに関連しているのですが,心情の動揺を惹起するふたつの感情affectusが相反する感情であることは明白です。そして希望spesと不安metusが同じ人間のうちで必然的にnecessario相反する感情として存在するなら,人間は喜びlaetitiaを希求し悲しみtristitiaを忌避するという現実的本性essentia formalisを有するので,希望の方が不安よりも強力になりやすい本性を有していることになります。よって不安すなわち恐怖metusは,第四部定理七により,容易に希望によって排除されるというメカニズムになっているのです。
 かくして,原子力発電所が事故を起こせば取り返しのつかない事態になるかもしれないという不安は,厳しい基準によって運転されているから事故を起こすことはないだろうという希望によって除去されやすくなります。近隣の国家の軍事的脅威に対する不安は,自国の国防を強化し大国と同盟を結べばそれが脅威ではなくなるだろうという希望によって排除されやすくなります。核兵器が使用されれば壊滅的な被害が齎されるかもしれないという不安は,それだけ強力な兵器であれば抑止力も強大であるから実際に使用されることはないだろうという希望によって除去されやすくなります。ある民族に自身の権利juraを侵害されるかもしれないという不安は,その民族を国外に追放してしまえば自身の権利は安泰であるだろうという希望によって排除されやすくなります。ある宗派が自国に攻撃を仕掛けてくるかもしれないという不安は,その宗派の人びとを追放しかつ入国させなければ攻撃を受けることはないだろうという希望によって除去されやすくなるのです。
 こうしたことは不安が過去と関係する場合も同様です。A国が過去にB国から侵略されたという場合,A国の国民はB国が再び侵略してくるのではないかという不安をもちやすくなります。しかしその不安は,A国が軍事力を強化すれば侵略に対抗できるだろうという希望によって排除されやすくなるのです。
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする