スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

第一部定理二証明&喜びの場合

2018-03-17 19:04:37 | 哲学
 第一部定理二については考察の中で援用するためだけに用い,証明Demonstratioはしていませんので,どのように証明されるのかを別個に示しておきます。
                                
 まず最初に注意しておかなければならないのは,この定理Propositioはあくまでも形而上学的にいわれているのであり,実在的な意味を有しているのではないということです。第一部定理一四が後に示すように,自然のうちに実在する実体substantiaは神Deusが唯一ですから,異なった属性attributumを有する複数の実体が存在するということはありません。つまりこの定理が『エチカ』の全体の中で意味するのは,仮に異なった属性を有する複数の実体があったなら,それらの実体の間には共通点はないということです。
 これを踏まえた上で,ここではXという属性を有する実体Aと,Yという属性を有する実体Bが存在すると仮定してみましょう。定理がいっているのは,AとBの間には共通点がないということです。
 第一部定義三により,実体はそれ自身によって考えられなければなりません。したがってAを十全に認識するのに必要なのはAの観念ideaだけであり,Bを十全に認識するのに必要なのはBの観念だけです。いい換えればAによってBが認識される,つまりBの認識cognitioがAの認識に依存することはありませんし,逆にBによってAが認識されるすなわちAの認識がBの認識に依存することもありません。要するにAの概念はBの概念を含んでいませんし,Bの概念がAの概念を含んでいるということももないのです。
 第一部公理五は,このような関係があるならAとBには共通点は存在しないということを示しています。よってAとBには共通点は存在しません。そしてここでAとかBといわれているのは任意であり,すべての実体についてこのことを適用することが可能です。したがって異なった属性を有する実体には共通点がありません。なお,この定理は実体の定義Definitioに訴求して証明されていますから,その実体がどんな属性を有しているかは無関係に,単に複数の実体の間には共通点がないということも合わせて証明されているといえます。

 たとえば僕たちは,ある人間が不法なあるいは不法とはいわずとも反道徳的な方法によって利益を上げたのを表象するimaginariなら,その人間を非難するのが一般的ではないかと思います。このとき,その利益を上げた人間が喜んでいると仮定するなら,その人間の喜びlaetitiaを不当なものと解しているということです。すべての喜びが正当であり,すべての悲しみtristitiaは不当であるということは,一般的な真理veritasであるのですから,このことは現実的に存在するすべての人間に妥当しなければなりません。ところが僕たちが必ずしも他人の喜びのすべてを正当であるとは認識しないということはこの例から明らかでしょう。そしてこの一般的真理は,喜びと悲しみを比較することによって生じるのですから,少なくとも僕たちは,他人の喜びについては,必ずしもそれをその人の悲しみとは比較していないということは明白です。
 一方で,この例において利益を上げることによって喜んだと仮定されている人間が,しかしその喜びの原因は不法なあるいは反道徳的な行為によるものであるということを同時に認識するということはあり得ます。この場合にはそれを表象した別の人が認識しているのと同じように,その人間もまたその喜びが不当なものであるということを同時に認識しているということになるでしょう。つまりこの場合にはその人間は,不法であるか合法であるか,あるいは反道徳的であるか道徳的であるかという比較によって自身の喜びを判断しているのであり,その喜びを悲しみと比較しているのではないことになります。つまり現実的に存在する人間は,自分の喜びについても,他人の喜びについてと同様に,それを必ずしも悲しみと比較することによって正当であると判断するのではなくて,ほかの比較によって不当であると判断していることになります。
 ただし,次のことはいっておきましょう。喜びを希求し悲しみを忌避するということは,人間の現実的本性actualis essentiaの一部です。つまりたとえ不当であっても人間は喜びを希求しますし,正当であっても悲しみは忌避しようとします。このために,現実的本性によって,正当と不当を判断してしまう場合が人間には生じ得るのです。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする