さうぽんの拳闘見物日記

ボクシング生観戦、テレビ観戦、ビデオ鑑賞
その他つれづれなる(そんなたいそうなもんかえ)
拳闘見聞の日々。

槍を失い、雑兵に討ち取られた 佐藤洋太、タイで完敗

2013-05-03 21:11:38 | タイ国ボクシング

開始早々、シーサケット・ソールンビサイがサウスポーで立ち上がったこと自体を、
佐藤洋太が苦にしているとは、最初の内は思いませんでした。
さして踏み込まれているようにも見えず、長い右ストレートや速いサイドステップも
時折出て、敵地にしては悪くないのかな、と。

しかし、そう思えた時間は、振り返ってみればほんのわずかでした。
低い姿勢から力強く攻め込み、上下に強打を散らし続けたシーサケットは
試合が進むにつれて、どんどん自信、確信を得た者の強さを見せていきます。
佐藤の左ボディブローや、単発ながら良い角度で入ったかと見えた右クロスは、
シーサケットの肉体を打ってはいても、彼の闘志を挫くことは出来ませんでした。


佐藤洋太は長い距離の攻防で、多彩で卓越した技巧をもって、
対戦相手の力を削ぎ、自身の特徴を生かして闘う展開においては、
間違いなく世界屈指の実力者だと思います。

しかし今日の試合は、その観点からいって、まったく彼の試合ではありませんでした。
対戦相手は持てる力を全て出し切り、佐藤自身はその特徴を全く生かせない。

距離を取れず、サイドに出られず、フェイントは見てもらえず、踏み込まれて打たれる。
足を止めても、ショートパンチを出すスタンス、アングルを元々持っていないので、
結果として手数で劣り、シーサケットを勢いづけてしまい、また打たれる、の繰り返しでした。

リング外での、我々の目には見えないところでの何事かを想像はしてみても、
これだけ何もかもが悪い方に回る試合では、佐藤の完敗もやむなし、としか見えませんでした。
長槍の騎兵が、その槍を早々に失い、雑兵の振る小太刀に切り刻まれるような試合展開は、
その終幕が容易に想像出来て、3回あたりから、見ているのが辛かった、というのが正直なところです。


試合前は、佐藤の技巧が、大した選手とも思えないシーサケットを圧倒するのでは、と想像していました。
原田、海老原などとは、悪いが相手が違うだろう。あのパスカル・ペレスを破ったタイの英雄キングピッチと、
聞けば日本でいわゆる「噛ませ」的試合に出て負けたこともある、シーサケット「とかいう選手」を一緒にしてどうする、
いかに敵地といえ、佐藤が捌くだろう。
万一があるにしても、競った試合で、変な判定が出て、とか、そんな感じではないか、と。

しかしその甘い想像は、木っ端微塵に砕かれてしまいました。
今まで見た中で、おそらく最悪の佐藤と、これこそ想像ですが、おそらく過去最高のシーサケットがぶつかった。
その結果が、今日の試合だったのではないか、と思います。


佐藤が今日のような状態に陥ってしまった原因は、目に見えない範囲でいろいろあるのでしょうが、
見えた範囲で言うと、やはり相手の左構えに戸惑った?こと、キャンバスとシューズの違和感など、
その他にも試合開始の待ち時間、会場の気温等々、いくつかエクスキューズはあるのかもしれません。

しかし何よりも、対戦相手のシーサケットの闘志、果敢に攻めきろうとする強固な意志こそが、
もっとも佐藤にとって脅威だったのではないか、と思います。
佐藤の左ボディや右クロスが、序盤の内に何度か好打しましたが、地元の後援と声援を受けて
前進してくるシーサケットにダメージを与えても、その闘志を削ぎ、打ち砕くには至りませんでした。
タイのボクサーの、母国における本来の強さは、佐藤の想像を超えたものがあったのでしょう。


悪いですが、この挑戦者を日本に迎えていれば、仮につまらない試合になったとて、十中八九、
佐藤が防衛していたと思います。しかし、これがボクシングの怖さなのでしょう。

今日負けたから明日頑張ろうとか、次は来週、会場を相手の地元に移して第二戦、とかいう
他のスポーツとは違って、一発勝負のボクシングというものの怖さ。
優れた技巧の持ち主とて、ひとつの歯車の狂い、好打しても手応えが得られない戸惑い、
そうした僅かな切欠から、徹底的に打ち崩されてしまう、身体を傷つけ合う直截的な闘いの持つ怖さ。

何だか、未だに内容と結果が信じられない、納得出来ないまま書いていますが、
本当に、ボクシングとは怖ろしいものだ、ということだけは確かに感じています。


そして、佐藤洋太のボクシング、あの多彩な技巧、様々な仕掛けがちりばめられた
見ていて楽しい、飽きの来ないボクシングは、また再現されることがあるのでしょうか。
それを安易に期待していいのか、疑問に思うほど、あまりに重く、傷の多い敗北でした。本当に残念です。





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4 コメント

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どうでしょう? (capricieux)
2013-05-03 23:11:05
初めてコメント致します。
日本開催なら勝てた、といえる試合展開ではなかったと思います。タラレバの話ですが。

たしかに、勝ちに対する意志の差は残念ながら感じました。
みちのく魂が虚しく見えました。
再起すると思いますが、敗因を究明して改善をしないと、尾を 引くような気がしてなりません。
Unknown (アラサーファン)
2013-05-04 11:19:45
本当にびっくりしました。あんなに動きの悪い佐藤君は初めて見ました。安定感も抜群だと思ってましたが・・
そもそもスリヤンは以前なら楽に呼べる力を有していた協栄ジムが呼ぶのに相当苦労し、シーサケ程度とやるためにわざわざタイまで出向かざるを得ない。佐藤君本人に「もう一度やりたいけどオプションも何もないので」等と言わせてしまう協栄ジムは一体どんだけ落ちぶれてるのでしょうね。選手にこんなセリフ言わせてる時点で情けないと思います。長期政権もできたはずの技巧の持ち主をこんな形で潰した協栄ジムの責任は重いと見てます。村田君に契約金一億とか去年の騒動は何だったのでしょうか。自分とこの世界王者を守れないとは失格です。
Unknown (アラサーファン)
2013-05-04 19:49:00
連投すみません。佐藤君をタイでやらせたのもですがそれよりも問題は仮にもタイと言う過酷な敵地なのに指導側は何をしていたのかと言うことです。金平会長は先代の時から選手がタイで試合をしたノウハウを蓄積していたはず。なのに試合前、試合後のコメントから選手任せの感があり、あらゆる状況を想定して、何があっても動じない様に選手を導いたのか、それが感じられなかったのが残念です。敵地で負ける時、選手の精神面を指摘する向きも有りますがそれよりも今回、ノウハウも豊富なはずの協栄が選手にこんな負けをさせた事の方が恥ずべき事だと思います。
コメントありがとうございます。 (さうぽん)
2013-05-06 23:53:11
>capricieuxさん

私はシーサケットの波状攻撃のきっかけになったものが何なのか、どうもいまだに納得がいってなくて、日本でやればそもそも、あのような試合展開になっていないのではないか、と思うんですが...。佐藤は自分の好打があまりに手ごたえがないことに怯んでしまったのか、本当に別人のように安易に踏み込まれ、打たれましたね。あのような精密な組み立てと、精緻な理論を持つボクサーであるほどタイで勝つのは難事であり、また、敗北による爪痕が癒えるのも難しいのかも、という悲観が、どうしても勝ってしまいますね。

>アラサーファンさん

今回、何か専門誌の事前報道にしてからが、タイで闘うことを過剰に意識しないほうが、というような内容のものが多かったですね。内容についての是非はともかく、なんだか唐突な印象を持ちました。本人も自信満々でしたが、おそらく事前の資料映像などからは、シーサケットという選手自体にはまったく警戒感を持てなかったのでしょう。陣営については、可能な限りのサポートはしたのでしょうけど、かつての海老原博幸や勇利アルバチャコフのような強打者ならともかく、敵地でワンパンチKOを望めない佐藤という選手については、勝ちパターンが限定されるという事実を、もっと重く考えるべきだったかもしれませんね。

しかし仰るとおり、あの協栄ジムが日本人の世界王者を海外に出すというのは、普通ならけっこうな事件ですけど、誰も驚いてもいない感じがするのも、なんともはや、です。少なくとも佐藤のようなタイプは、あまりこういうロケーションには合わない感じがしましたね。に、しても、今回の試合内容はあまりにも予想外に一方的で、正直言って陣営の力の及ぶところではなかったのかも、という印象も一方では持っています。本当に、言っちゃ悪いですが、あれじゃどつかれに行ったようなもんやないか、人もあろうに何で佐藤洋太があんな...という思いがいまだに消えません。

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