ということで京都の会場より帰ってまいりました。
AbemaTVのライブ配信がありましたので、皆様ご覧の通りの試合でした、と言えば済むわけですが、せっかく会場に行ってきたので、簡単に感想を。
初回から、寺地拳四朗がガード高く掲げ、膝を柔らかく使って腰を落とし、上体を振ってプレス。
いつもなら当てて外して、左でゲームメイク、という風情ですが、今日は早々に打ち込むぞ、という意志が見える。
すぐに、グレグ・リチャードソンを追い回し、クリンチすら許さぬ気合いで攻めに出た、若き辰吉丈一郎の姿が思い出されました。
左そこそこに右クロスも多数、という拳四朗に対し、矢吹正道は左ジャブを当てるが、当たるものの「食い止める」効果はほぼ得られない。
ならばと左ボディフックや、左右アッパー、右打ち下ろしも繰り出すが、深く踏み込まれているので、距離の長短を切り換える、前回のような展開には持ち込めない。
同じ距離でまともにやり合っては、精度で劣る。
初回はそれでも、ジャブの数だけでも見るべきものがあったが、2回、拳四朗がさらに出る。
矢吹は右アッパー、左フック返すが、拳四朗がアッパーを織り込んだコンビネーション。
続いて右クロスが複数決まり、左ボディも。矢吹後退、足取り乱れ、終了間際にまた拳四朗が右。
拳四朗、明らかに序盤から打ち込みに、というより、もう倒しにかかっているかのよう。
ガラにもない...と混ぜっ返すのも気が引けるほどの迫力。
3回、矢吹の左右アッパーは鋭いが、拳四朗が左をボディへ、右を上へと送るワンツー決める。
矢吹効いたか、と見えた直後、拳四朗のワンツーが飛び、右がまともに入って矢吹、ダウン。
距離で外そうとしたが、ダメージのせいか、バックステップが間に合わなかった?
何しろキャンバスに後頭部を打っていて、立ったものの続行不可能。TKOとなりました。
前回の試合後、号泣し、進退にも思い悩んだと語る反面、いざ再戦が決まれば、表面上は以前と違わない風も見えた寺地拳四朗でしたが、やはりひとたびの敗北によって負った傷は、思う以上に深かったのでしょう。
デビュー以来、全試合を会場で、或いは映像で見てきた選手ですが、序盤からこれほど、打倒の決意をあからさまに見せたことは、一度も無かったように思います。
明らかに左より右の比率が高かったし、相手の反撃にもすぐに被せて打ち返し、間を置かずに詰めて圧していく。
その闘いぶり、試合の展開、組み立ては、単純に言って、凄い迫力でした。
その上で、要所で見せるコンビネーションの組み立て、その妙と怖さも変わらず生きていて、フィニッシュ直前のボディへの好打、そして上への追撃は、「殺しのパターン」と言うべきもの。
雪辱への闘志燃え、気迫で圧して、技の凄みで仕留める。
文字通りの「圧勝」でした。見ていて、震えが来るような思いでした。
なんと凄いボクシングを見たものか。寺地拳四朗に、改めて脱帽です。
試合後のインタビューは、その声色なども含め、まあいつもどおりの感じに戻っていました。
しかし、あの凄まじい闘いぶりを見るに、やはりこの人、階級で括るに止まらず、日本が生んだ歴代のチャンピオンの中でも、指折りの実力者であると、改めて知らしめられたように思います。
連続防衛記録の数字は途切れてしまいましたが、「通算」という新たな枠組みを強引に押し立ててでも、具志堅超えというテーマで、当面押して行ってほしい、と思ったりもします。
そのような、大きな話題と注目が、この凄いボクサーの周辺には、あって然るべきだ、と。
さすがに今から改めて、13回連続防衛とはいかないにせよ...。
矢吹正道については、今日はもう、どうしようもなかっただろうな、と言うしかありません。
前回からのあれやこれやをあげつらう向きには、見たことか、的な言いぐさもあるのでしょうが、はっきり言って意味がありません。
今日の拳四朗に対すれば、他の誰が行ったって同じです。
矢吹は拳四朗の闘う姿勢に対峙し、瞬時にその脅威を感じ取ったでしょうし、打てる手はかなう限り出していました。
それでもなお、こういう結果になった。懸命に闘った末に、です。
そのこと自体をまずは見て、その闘いにも敬意を払いたい。拳四朗に敬服するのと同じく、です。
京都の会場は、空調(暖房)が入っていなかったようで、場所によっては底冷えし、ちょっと寒い中での観戦でしたが、正味9分足らずのメインを見終えて、そんなことはすっかり忘れてしまいました。
非常に満足度の高い観戦となりました。
この流れ、来月以降も続いてくれたらなぁ...。