さうぽんの拳闘見物日記

ボクシング生観戦、テレビ観戦、ビデオ鑑賞
その他つれづれなる(そんなたいそうなもんかえ)
拳闘見聞の日々。

100万ドルと300万円 日本ボクシングの風景

2020-10-07 19:44:52 | 関東ボクシング



先日、大橋秀行会長が、井上尚弥の、ジェイソン・マロニー戦における報酬が100万ドルであると、報道陣に語り、それが報じられました。
軽量級では、公になっている限り、マイケル・カルバハルなど少数の例しかない額だと思います。


過去には、辰吉丈一郎が、薬師寺保栄戦において、興行権の入札額を折半した額、約1億7千万円を得たとされていますが、対する薬師寺の方が、かなり報酬を減額された...2500万円くらいしか受け取っていない(と、当時報じられました)とのことですので、この入札額は、実体とはかけ離れています。

※今もそうかもしれませんが、当時、WBCは、日本のクラブ・ジム制度下にて、入札(落札)額と、実際に選手(イコール「両選手」)に支払われる報酬額に相違が生じ得ることなど、想定していなかったのでしょう。
事例としてはイレギュラーだと見るべきです。きつく言えば、詐欺に等しい行為だと思います。


海外での2試合を含め、乱立するタイトルホルダーや元王者たちを悉く打ち破ってきた井上のキャリアを見れば、いかに軽量級とはいえ、当然このくらいの報酬を得て当然、そうでなくては、という納得感があります。
何度も書いていますが、今の井上は、それこそファイティング原田のレベルに相当する、アルファベット要らずの「世界バンタム級チャンピオン」と目されるべき王者です。

ただ、井上が「最上位コンテンダー」たるジョンリエル・カシメロや、欧州最強のノルディ・ウーバーリらと共に、こちらも上位に位置するモロニーの挑戦を受ける一戦とはいえ、開催地がアメリカで、コロナ渦による影響から無観客試合であるにも関わらずこの報酬額、というのは、大橋会長ならずとも、やはり驚きです。
普通に考えれば「ネクスト・ドネア」としての期待と、それ故の投資なのでしょうが、本当に、それに並ぶかそれ以上のものを掴んでくれるのではないか、と思います。




翻って国内ですが、日本、OPBF、WBOアジアのベルトを保持するライト級チャンピオン、吉野修一郎が週刊誌のインタビューに、自らの報酬額や境遇を普通に語ったことが、あれこれ波紋を呼んだそうです。
記事はネット上で、ざっと読みました。

試合報酬が、年間3試合で300万円くらい、というのは、三迫ジムのトップ選手でもこんな感じか、と思ったものの、概ね、国内や地域タイトルのタイトルホルダーなら、多少の差はあれ、こんな感じだろう、と思いました。
国内及びアジアタイトルを保持しているボクサーでさえ、こんなに不遇なのか...という感想は、正直言って持ちませんでした。

吉野が、昔日の小坂照男のように、同じ東洋、アジアのライバルであるフラッシュ・エロルデのような強豪と何度も闘っていたり、高山、門田、石松、柿沢、山辺らが鎬を削っていた頃のように、中谷正義や伊藤雅雪と何度も闘っているというのならともかく、今の吉野のキャリアは残念ながら「その手前」の段階です。
現在、国内トップの地位にあることは事実ですが、他のスポーツや格闘技のスター選手同様に、有名になって好待遇を得るべき、とまでは言い切れないところです。

しかしそれは、あくまで選手の責任ではなく、ボクシング業界全体の問題です。
好選手同士が当然のこととして、国内最強を決めるカードが組まれることを「好カード実現」「関係者の英断に拍手」と語らねばならない、異様な状況が常態化し、選手各々にもれなくついてくる「会長」という方々のご都合が何より優先され続けた結果、国内カテゴリーのボクシングに対する世間の関心はすっかり薄れ、注目度は低いまま。
そこで「どこに出しても恥ずかしくない」「もっと多くに見て貰いたい」と思うような試合が実現し、それが実際に良い内容を残しても、選手が大して報われることもない。

そのような状況下で、ボクサーを志した若者たちの中から勝ち上がってきた勝者のひとり、例えば吉野修一郎が、残念ながら、充分に報われることのない日々を生きている。
それが、本人の口から語られたに過ぎない。
今回の記事について、その内容には何の驚きもありませんでした。


しかし、聞けば後日、吉野に対し関係者から批判、或いは非難の声が上がって、本人も謝罪のようなコメントを出したとのこと。
そして、当該記事も、一部を削除したか訂正したか、改めてネット上にアップされたのだとか。

いかにも古い、貧しい、そして卑しい、としか言いようがありませんが、メディアの記事が訂正されたというに至っては、言っては悪いですが、たかがボクシングごときに、今時そんな影響力が行使できるものなのか、と、改めて新鮮な驚きがありました。
こんなことに費やす手間や労力があるのなら、もっと普段、広報にも力を入れられんものか。呆れるほかありません。



それにしても、と思います。
100万ドルのリングに立つ者の、圧倒的な力を称えるだけなら、誰にでも出来ます。
しかし、ボクシング界が今行うべきことは、3試合300万円のタイトルホルダーが、もう一段上の待遇を得るための試合を用意すること。
そして、その試合の価値が、少しでも広く見知られるように、メディアを通じて働きかけること、です。

しかるに現実はというと...ほんまに、ようも毎度毎度、そんなしょうもない方向にばかり...と。
井上尚弥の話は、本来なら楽しみで、ちょっと心配で、でもやっぱり楽しみで、誇らしくて、というものであるはずですが、それとはまた別に、日本のボクシング界の風景というものは、そう簡単には変わらないものだなあ、とも思った次第、です。



======================



ということで、一曲。
くるり「心のなかの悪魔」。








コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする