非国民通信

ノーモア・コイズミ

日本の共産党が遙か昔に決別した体制を、共産党「以外」の支持で当選した首長が賞賛しています

2013-08-27 23:14:24 | 政治・国際

「旧ソ連は立派」新潟知事、政府・東電に皮肉(読売新聞)

 「チェルノブイリ原発事故の時、旧ソ連はもっとすごい良い対応をした。日本と違って、かなり立派」。

 東京電力福島第一原子力発電所の貯蔵タンクから汚染水が漏れた問題などを受け、新潟県の泉田知事は21日の記者会見で、当時の共産主義国家の事故対応を褒め、日本政府の対応力を強烈に皮肉った。

 知事は、今回の一連の問題について、「経営を優先して安全をないがしろにした結果、タンクの暫定設置や必要な汚染水対策の先送りにつながった」と、まずは東電を批判。返す刀で、「本来、国が取り組むべきものを東電の責任の範囲内にした」と国についてもばっさりと斬り捨て、政府の責任も大きいと指摘した。

 1986年のチェルノブイリ事故について、知事は当時、旧ソ連が国民に情報提供しないことや情報を遮断したことなどから「なんとひどい国だと思った」としながら、「国中から炭坑労働者を集めて、溶け落ちた燃料が地下水に接触しないよう先回りして穴を掘ってふさぐ対応までやっている。国家が総力を挙げて対処した」などと評価した。

 チェルノブイリの事故では、労働者の多くが防護態勢も手薄な中で動員され、大量の放射線を直接浴びたとみられている。

 

 「チェルノブイリ原発事故の時、旧ソ連はもっとすごい良い対応をした。日本と違って、かなり立派」……とまぁ、新潟知事が宣ったそうです。その根拠として「国中から炭坑労働者を集めて~国家が総力を挙げて対処した」と語ったとか。幸いにして、これを伝える読売の記事はまずまず良心的と言いますか、ソ連/チェルノブイリでの実態――労働者の多くが防護態勢も手薄な中で動員され、大量の放射線を直接浴びたこと――を、しかるべく書き添えてあります。もし報道したのが朝日なり毎日であったら、反原発無罪とばかりに問題の部分は載せずに単なる東電批判報道で終わらせるところ、メディアとしての基本倫理を根底から欠いている東京/中日新聞であれば想像を絶するヨタ話を盛って伝えるのが常ですから。

 ともあれ、この新潟の泉田知事(民主、自民、生活、公明、社民の5党から推薦)は放射線防護体制の有無など構わず、事故収束のため徴用した労働者を事実上の強制の元、原発事故現場に押し込んだソヴェト政権の対応を「すごい良い対応をした。日本と違って、かなり立派」と称えているわけです。まぁ、自らは安全なところから命令を下す為政者らしい発想とも言えるでしょうか。確かに、手っ取り早く自己を収束させるためには労働者の安全など考慮せず、強硬措置を取った方が簡単と言える場面もある、今回の原発事故がそうであったのかも知れません。しかし、そこで安易に労働者に犠牲を強いて良いのか、それを躊躇いなく肯定できる泉田知事の独裁者的な発想には恐怖すら覚えるところです。

 もっとも、こうしたソヴェト体制肯定は原発事故後から、泉田知事に限らず一定の範囲で見られたように思います。日頃は労働者の権利を慮る風を装いつつも、東京電力社員に原発事故現場への「特攻」を迫るような意見を語る/書き込む人は少なくありませんでした。東京電力から現場に必要のない人員の退避を打診された菅直人が激高して、これを退けたことは遍く知られているところです。結果として東京電力サイドも自社の社員の安全や健康管理を後回しにしてきた様子が一部に見られるのですが(参考)、それはけっして「良い対応」ではないはずです。

 私はロシア文学が専門で、隣接分野としてソヴェト体制に関しても一定の理解があるつもりですが、どうなのでしょう、私にとってソヴェト体制とは失敗の歴史である反省材料である一方、福島での原発事故後に吹き上がった声の多くは比較対象としてこれを都合良く色づけされて持ち出してくることが多く、何とも辟易させられたものです。結局のところ事故当初の最も重要な時期に情報を伏せて住民の被曝を防げず、十分に落ち着いてから強制移住で住民の生活を破壊するという最悪の対応がチェルノブイリでは取られたのですけれど、日本にも「強制移住派」とでも呼ぶべき人々がいて、このソヴェト政権の大失策を、あろう事か泉田知事よろしく肯定的に捉えているのですから、まぁ肩をすくめるほかありません。

 もっとも「本来、国が取り組むべきものを東電の責任の範囲内にした」という批判に限れば一定の妥当性はあるでしょうか。フルシチョフ時代を指すロシア/ソ連ののジョーク(アネクドート)として「全て前任者のせいにせよ」みたいなのがあるのですが、民主党政権の一貫した方針は「全て東京電力のせいにせよ」だったわけです。その民主党政権の負の遺産が電力会社を縛り付け、必要な対策を取れなくしているところも多々あります。引用元でも言及されている汚染水漏れにしても、国が責任を引き受けてくれれば防げたことのはずですから。

参考、汚染水の流出を恐れるあまりリスクが高まる悪循環

 要するに、何でもかんでもタンクに溜め込む、という現行のやり方では水が溢れることは目に見えている、だから基準値をクリアした問題のない水に関しては速やかに海に放出しなければならなかったわけです。ところが原発に関わるものであるからには放射線量の値の如何に関わらず放出は認めない、ダメと言ったらダメと、そういう方向性のままダラダラとタンクへの溜め込みで凌いできた、それが破綻しつつある今、果たして「東京電力が悪い」で済ませて良いのかと私は疑問に思うところです。「タンクに溜めて時間を稼ぐ」以外の選択肢が、果たして電力会社に許されていたのやら。

 ここは行政が責任を持って基準値以下の「水」を排出させる、科学的な根拠ではなく純然たる感情論からの反発に行政が怯まずに対処すること、偏見に基づいて風評被害を広める永遠に学ぼうとしない輩に毅然と対峙することが求められるように思うのですが――世論に怯えて自らの責任を回避するばかりの行政の下、自社に許される範囲では有効な対策を取りようがない電力会社が取り残されているとも言えます。「本来、国が取り組むべきものを東電の責任の範囲内にした」前政権との違いを現政権(仲睦まじく手を携えて泉田知事を推薦した間柄ではありますけれど)が見せられるかどうか、問われるところなのではないでしょうかね。

 

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4 コメント

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Unknown (ノエルザブレイヴ)
2013-08-30 13:13:31
全体的に「何をやったかではなく、誰がやったかが重要」「敵の敵は味方」という考え方にとらわれすぎなのではないか、と思う面はあります。
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Unknown (非国民通信管理人)
2013-08-31 00:02:02
>ノエルザブレイヴさん

 ただ今回のケース、「何をやったか」と言えば「労働者を安全を蔑ろにした」であり、「誰がやったか」と言えば長らく日本の仮想的であった「ソヴェト政権」ですからね。マトモに考えれば何を評価しようというのかというレベルですが、まぁ反原発無罪とばかりに、朝日や毎日は問題の部分をスルーしているようですし……
返信する
Unknown (ノエルザブレイヴ)
2013-09-07 20:07:54
韓国が福島産農産物を輸入しないでいようとする件について政府の偉い人が「科学的根拠に基づいてどうこう」とか一般人が「オリンピック招致の妨害が」とか言ってますけど、これまでの福島に対する「恐怖に基づいた対応」を見るとよくわれわれがそんなこと言えたなあ、と。

まあオリンピックが来ないとしたら自分らの不明をまず恥じるべきです。人のせいにしちゃだめです。
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Unknown (非国民通信管理人)
2013-09-07 22:51:08
>ノエルザブレイヴさん

 その辺、今ちらっと書いているところなんですけれど、まぁ因果応報と言いますか、日本国内でやってきたことでもあるんですよね。自分たちがやってきたことを他人がやると怒り出す、都合のいい人もいるわけです。
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