非国民通信

ノーモア・コイズミ

自由が与えられていない電力会社もあるのですが

2013-08-19 23:20:36 | 社会

東京都:新電力との契約倍増…コスト削減と自由化促進で(毎日新聞)

 東京都は16日、コスト削減と電力自由化促進を目的に、10月から新電力の電力供給を受ける施設をこれまでの33施設(計約4万1000キロワット)から、約10倍の304施設(計約9万6000キロワット)に増やすと発表した。東京電力からの購入よりも年間1億9000万円の経費節減になるという。都全体の契約電力(約100万キロワット)の約1割、施設数では約1200カ所の4分の1を新電力がまかなうことになる。

 都環境局によると、今回の入札で契約が決まったのは従来の契約先であるエネット(港区)▽丸紅(千代田区)▽エフパワー(品川区)−−の3社と▽ダイヤモンドパワー(中央区)の計4社。都立高校や職業能力開発センター、水道の営業所などが主な供給先になる。新契約先のダイヤモンドパワーは10月から中部電力が株式の80%を取得する方針で、48施設に計9850キロワットを供給する。都との契約は地域独占に風穴を開ける「越境販売」の側面もある。

 トラブルなどで新電力の安定供給が難しくなった場合は、東電からの融通などがあり、送電が止まる恐れはないという。猪瀬直樹知事は16日の定例記者会見で「都の新電力導入の目標はおおむね達成された。他自治体もユーザーとして電力改革に臨んでほしい」と話した。

 

 東京都の予算だけを考えるならともかく、自治体の公共性という観点からするとどうなんだろうと首をひねるほかありません。産業に乏しく財政危機に喘ぐ自治体が歳出削減を最優先しての結果ならいざ知らず、東京都のように日本でも最も恵まれた自治体であり地方の富を吸い上げる存在が、このように公共性を欠く判断をしている、首長の愚かなポピュリズムを止めることができないでいると言うことには危機感を抱くところです。

 電力事業者としてユーザーに安く商品すなわち電力を供給するためには、大まかに4通りくらいが考えられるでしょうか。まず第一は電力の調達、主として発電にかかるコストの削減で、例えば風力発電や太陽光発電など費用対効果に劣る発電手段を切り捨てることですね。逆に言えば、太陽光発電によってもたらされた供給量の著しく不安定な電力を「需要の有無とは無関係に買い取らされる」という自由化とは全く逆行した制度を押しつけられている事業者にとっては、供給する電力の価格を引き下げるのが難しくなると言えます。

 第二の策としては、自社従業員の賃金や協力会社(下請け含む)への支払額を切り詰めることでしょうか。実際、労働者の敵・民主党政権が既存の大手電力会社に迫ったのはこのパターンでした。天災(被災)によるコスト増はおろか、行政の暴走によって電力会社の経営に支障が出た場合でさえ、「リストラでやってほしい」と当然のように負担を労働者に押しつけて憚らなかったのが、民主党という反労働者党の一貫した姿勢であり、この点に限っては国民の支持も得られていたように思います。

 日本におけるブラック企業の代名詞的存在であるワタミの会長は、民主党政権時代は民主党から、自民党政権に戻ってからは自民党から支援を受けて出馬しました。政権が変わっても受け継がれるもの、日本の最大公約数的なものとしてワタミは存在しているように思いますし、働く人の取り分を減らして消費者に安価なサービスを提供するという企業姿勢は概ね歓迎されているのではないでしょうか。それだけに電力会社をブラック化させること、電力会社(及び慣例会社)で働く人の取り分を減らして電気料金を下げる、これが最も歓迎されるパターンと考えられますけれど――それで良いのか疑問ですね。

 第三は、税金で補填する場合ですね。韓国のように電気料金を国策として著しく低い水準に抑えている国もあります。当然のように発電コストを賄いきれず慢性的に赤字が発生するわけですが、結局のところ公社の赤字は税金によって穴埋めするほかない、と。とりあえず供給する電気料金は引き下げ、赤字は税金で埋め合わせる――それも決して悪い策ではないと思いますけれど、今回の東京都のような豊かな自治体が電力会社の経営を悪化させるような振る舞いに出るとなると問題があるのではないでしょうか。持てる自治体が歳出を削った分、その分を国全体から集められた税金で補填?

 第四は、「採算が取れる範囲でのみ販売する」ことですね。しかるに供給義務という、これまた電力自由化とは逆行する枷をかけられている既存電力会社の場合、リーズナブルな供給能力の範囲を上回る需要があれば、それに応じなければならないわけです。このため、時には「無理をしてでも発電する」ことが求められる、ゆえに老朽化して能率が悪い旧式の発電所まで稼働させたり、足下を見られてふっかけられようとも化石燃料の調達に奔走したりと、コスト増要因は連なるばかりです。

 もし本当の意味で電力事業が自由化されれば、「採算が取れる範囲でしか発電しません」という対応が可能になり、無理な発電をしなくて済むようになった分だけコストを下げられる、ひいては販売価格も引き下げることも可能になることでしょう。しかし、自由化万歳、競争万歳と唱えられる時代においても既存の大手電力会社には自由が与えられていません。採算が取れなかろうとも供給しなければならない、需要に応じるために絶えざる投資が必要になっているわけです。

 冒頭に引用した記事における最大のポイントは「トラブルなどで新電力の安定供給が難しくなった場合は、東電からの融通などがあり、送電が止まる恐れはない」との点でしょうか。結局、ケツを持つのは東京電力なのです。「何かあったらヨソの電力会社がカバーしてくれます」という体制で良ければ、それは料金を安くできることでしょう。当たり前のことです。しかし、他の電力会社にトラブルがあった場合には融通しなければならない、その責任を負わされる電力会社にまで無責任な経営が許される新電力と同様の料金設定を求めるのは、それこそクレーマーの所行としか言い様がありません。

 日本では、代替的な補償のことを一般に特権と呼びます。日本人には認められていながら外国人には認められない様々な制度があって、それを補うべく自治体が代替的な措置を取っていることもありますが、これは特権と呼ばれています。あるいは民間企業の従業員には認められるけれど公務員には認められない権利もあって、そのトレードオフのような形で公務員に対して保障されているものもある、これもまた特権と呼ばれるものです。そして持て囃される新電力と違って「自由がない」既存の電力会社が占めている地位はどう扱われているでしょうか?

 ともあれ猪瀬の愚行に倣う自治体が増えれば、国全体の電力コストは逆に上がるものと考えられます。ワタミよろしく従業員の犠牲の下に安価なサービスを提供する、そういう事業者ばかりが生き残り、真っ当な事業者が追いやられた先はどうなることでしょう。新電力各社が東京電力を初めとした既存電力会社にケツを持ってもらう、そのコストを負担してもらう形で安価に電力を販売する、しかし増大したコストは結局のところ税金で穴埋めされるのなら、一部の安値を求める「自分さえ良ければ」の独善的な自治体(首長)のせいで国民が割を食うことにだってなりかねません。

 

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コメント (2)
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