非国民通信

ノーモア・コイズミ

ますます日本的になる大相撲

2009-11-06 23:12:32 | ニュース

仕事のはずじゃ…稽古した力士に報奨金!?(スポーツニッポン)

 日本相撲協会の大島巡業部長(元大関・旭国)が大相撲秋巡業最終日の1日、12月6日から始まる冬巡業で、稽古で頑張った力士には報奨金を与え、サボった力士からは罰金を徴収する仰天システムの導入を示唆した。秋巡業では朝稽古の出欠チェックを行ったこともあり、病欠を除けば全関取が連日土俵に姿を見せたが、その一方で出席しただけで稽古をしない力士が続出。異例の報奨金制度が事態の改善につながるかどうか。

 稽古で頑張れば金一封!そんな仰天プランが、秋巡業を終えた大島巡業部長の口から飛び出した。「稽古をやれる雰囲気づくりを考えている。あんまりやらないヤツは罰金を取るし(特に)やったヤツには報奨金を出す」。巡業における力士の自覚のなさを改善するために、出した答えは苦肉の策だった。

(中略)

 90年代から01年にかけては巡業のスポンサー企業が、活躍の目立った力士に報奨金を出すことはあった。しかし、協会が報奨金を出すとなればまさに前代未聞だ。力士にとって仕事である稽古をさせるために“臨時ボーナス”を出さなければならない現実…。角界の前途は決して明るくはない。

 案の定、力士側からは反発があるようですが、ともあれ稽古の出席に対して報奨金を出そうというプランが具体化しつつあるそうです。う~ん、どうなんでしょうね、引用元では「力士にとって仕事である稽古」と書いてありますが、稽古って仕事なんでしょうか? まぁ「国技」と称されるだけあって確かに「日本的」と言いうる部分を濃厚に体現している大相撲ですが、実は逆に日本的でない部分もあって、その辺が好きだったりしたのですけれど……

 大相撲の最も日本的な部分は、仕事を通じてその人の人格を支配しようとするところです。例えば頭髪や服装規定、勤務時間中に「制服」を着用しなければならないのは仕方がないにしても、職場の外では拘束される謂われはありませんよね。しかるにTシャツ姿で外出しただけで処分の対象になるのが大相撲の世界です。土俵という「職場」での行動だけではなく、勤務時間外の行動に関しても力士であることが要求される、雇用側がプライベートに干渉したがる姿勢こそ、まさしく日本の国技たる所以ではないでしょうか。

 勿論、上意下達の体育会系社会でもあります。親方の命令は絶対、親方が新弟子を金属バットでぶん殴れと言ったら躊躇わず鈍器で殴打するのが力士の心というものです。ただ、そこまでは極めて日本的でありながら、一方で日本的ではない部分もあるような気がします。正統派の体育会系であるならば先輩後輩の関係は絶対ですが、角界で絶対と呼べるのは親方と弟子の関係のみであり、偉いのは先輩ではなく番付上位の力士、全ては積み上げた白星の数次第ですから。強いものが偉い、道徳的な正しさ云々よりもよりもまず競技能力ありき、実はドライな世界なのです。

 積み上げた白星の数が何よりもモノを言う、成果主義とも呼ばれそうです。そして日本でも成果主義という言葉自体は受け入れられており、その言葉自体は好意的に受け止められるケースも多いような気がしますが、実態はどれほどのものでしょう。たしかに成果の不足を口実にした差別的待遇などは着々と普及しているかも知れません。ただ成果の不足も負の要因として扱われるものの、それ以上に重視されるのは「働く姿勢」の方ではないでしょうか。結果が出ないことでもマイナスの評価を受けるには違いありませんが、それ以上に働く姿勢が悪いことでこそ評価を下げるのが日本の労働環境のような気もします。やるべきことはやっていたとしても、仕事に全力で打ち込んでいるように「見えない」としたら、決して許されないのが日本の労働慣習というものですから。怠け者は(道徳的に)許せない、と。

 これが雇用主/株主と被雇用者の間柄であればまだしも、国民様と公務員の間柄となればどうでしょう? そこではもはや成果など問われず(少なくとも結果を出したからといって評価されるものではありませんよね)、ひたすら労働強化の度合いだけが追求されているのではないでしょうか。怠けていないかどうか、ちゃんと働いているかどうか、そうした観点でばかり測られているのが現状です。国民様が要求するのは「成果」であるよりも、「(公務員が)骨身を削って働く(働かせる)こと」の方にあるような気がします。

 ……で、稽古とは言うまでもなく相撲で強くなるための「手段」です。土俵の上で結果を出すための必要性から力士は稽古に励むわけで、稽古自体が目的ではありません。だから稽古で「強くなる」ことに対してニンジンをぶら下げるのであれば理に適ったことと言えますが、単に稽古に出席することに対して報奨金を出そうというのは本末転倒です。ただ、この手段の目的化こそ日本的ではないでしょうか。「結果を出すために」「一生懸命働け」と言うはずが、いつの間にか「一生懸命働く(働かせる)」ことに必死になる、仕事をさっさと済ませられるように効率化を図るのではなく、いかに労働を詰め込めるか(=労働強化)の度合いを競う、そうした主客転倒にこそ「日本的なるもの」を感じるのです。

 強くなるために稽古をするのではなく稽古自体が目的となり、稽古が「仕事」と呼ばれるのは、少ない労力で成果を上げることではなく反対に労働強化そのものを追求しがちな日本の労働環境が、並びにそうした労働環境を是認するばかりか後押しする日本的な労働観が大相撲の世界にも投影された結果のようにも見えます。それはそれで「国技」らしいのかも知れませんが……

 

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4 コメント

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Unknown (buhi)
2009-11-07 01:32:55
私なんざ、相撲は「色物」「出し物」として見てますから、何ですが、世間は妙に気真面目に相撲界を壟断しようとするもんですね。内館某とか、やく某とか。やってるもんもSなら、稽古つけるのもS、見てる者もS、これって異常じゃね?
あと、大麻の一件では、退職金の返上上等で世間一致したじゃないですか。労働法では、退職金は「賃金の後払い」が常識ですが、何か?師匠にどつかれて、やっと偉くなったら、出来心の大麻で退職金取り上げなんて、ぼったくりでわ?
でわ。
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Unknown (非国民通信管理人)
2009-11-07 13:57:12
>buhiさん

 やくみつるなんか、野球選手だったら日頃は不真面目なのにグラウンドでは結果を出す「豪傑タイプ」の選手が好きだったと思うんですけど、朝青龍に対しては私怨でもあるのでしょうかね。それとも単にダブルスタンダードなのかと。

 そして不当解雇に退職金返上など、ちょっとでも落ち度があるならあらゆる権利を剥奪してしまえと言う、その辺のノリも実に日本的でしょうか……
返信する
朝青龍なんか (ベースケ)
2009-11-08 14:30:11
一番反発しそう。あんまり興味ないんで本人どうなのか知りませんが。
ともあれなんじゃいな、て話ですよね。管理人さんおっしゃるとおりで、稽古なんて強くなるためのプロセスですから、出なくて番付を上がれなくてもそんなの「自己責任」。プロスポーツ(と言っていいのか意見は分かれるところでしょうけど)の世界なんだから。もし番付を上がりたい力士が減ってレベルが下がる、というならこの世界でやっていきたいと思わせる魅力を殺したのは力士ではなく、協会の責任でしょう。横綱の態度云々と言うならその任命責任は誰やねん、という。
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Unknown (非国民通信管理人)
2009-11-08 23:02:33
>ベースケさん

 プロなんですから、強くなりたければ練習するもの、稽古に出てくる力士が少ないということは、それだけ稽古がムダなものでしかなくなっているというフシもありそうです。野球で言えば、今時ウサギ跳びばっかりをやらせているようなものでしょうか、これだったら誰も参加したがりませんよね。協会側は力士の自己責任にしたいようですが、稽古が価値を落としている理由をもうちょっと考えてみるべきなのかも知れません。
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