日本でナショナリストの影響力が拡大―領土問題受け(ウォール・ストリート・ジャーナル)
中韓との緊張の高まりを受けて、日本でナショナリストの影響力が強まっており、野田佳彦首相にとって頭痛の種になっている。
(中略)
また中国政府は、この3カ月だけでも中国から海外に逃れた亡命ウイグル人による「世界ウイグル会議」が5月に東京で開催されたことと野田首相が尖閣諸島(中国名・釣魚島)の国有化方針を打ち出したことに対し正式に抗議している。
こうした中で日本の保守派政治家は最近、伝統的な街頭での抗議行動から脱し、ソーシャルメディアなどを使って若い世代の支持をつかもうとし始めている。各種のブログやツイート、インターネット動画などでは、日本の主流メディアでは取り上げられないナショナリスト的な意見が掲載され、保守派政治家と国民との距離を近づけている。
ナショナリストの主張が影響力を増していることは、野田首相の苦悩を深めている。野田氏は近隣諸国との対立激化を避けようとしている。だが、民主党の代表選挙を控え支持率低迷に見舞われている。日本政府は、ナショナリストからの圧力を受けて領土問題で強硬な姿勢を強めざるを得なくなっており、李大統領の竹島訪問に対し、駐韓大使を日本に一時帰国させ、14日には来週に予定されていた日韓財務相会合を延期すると発表した。
野田だって本来は右翼に分類して問題ない政治家のはずですが、それでも昨今のナショナリズムの盛り上がりは歓迎できないものなのでしょうか。確かに極右層の希望の星であった安倍晋三にしても、首相在任中は特に目立ったことは何もしなかったわけです。責任を負わなくて済む立場からなら威勢の良い発言を連発できても、実際に最高責任者たる首相の座に立ってみると、そう軽はずみなことはできないことに気づくのかも知れません。野田だって首相でなければ、特に野党であったならば嬉々として「毅然とした対応」なりを訴えていたであろうと思われますが、今はそれが許されない立場と言うことです。
先日も軽く触れましたが(参考、内政問題でなければ何だというのだ)、近年は外交問題の内政化が顕著です。何か他国との間で問題が発生したとき、当事国同士で交渉を重ねて落としどころを探るというよりも、国内の有権者に向けて「強い姿勢」をアピールすることの方が重要になっているわけです。このような振る舞いは外交問題を悪化させるばかりですが、隣国との関係を悪化させればさせた分だけ国内での支持はむしろ強まるのですから、政治家にとってはナショナリズムとはまさに依存性のあるクスリのようなものと言えます。
ただし、その人が負うべき責任に比例したリスクもあります。野党議員なり地方自治体の首長なりであれば、身勝手な言動で周辺国の反感を買おうとも、その「結果」に対する責任を問われることは希です。だから東京の都知事が沖縄の土地を買おうとするみたいなこともある、首相時代は意外におとなしかった人が野に下った途端に元気を取り戻したりすることもあるのでしょう。しかし、首相となると流石に難しい、外交関係の悪化に伴って生じた「結果」の責任から無縁ではいられません。
そうは言っても、外交関係を重視して「強い姿勢」を求める国内の声を無視してしまえば支持率の凋落に繋がる、将来的な失脚にも繋がるわけです。だから外交面ではなく内政面でこそ行き詰まった結果として、李明博大統領のような一線を踏み越えた行動が出てくるとも言えるでしょう。外交上の問題はしばしば、外交上の理由ではなく国内事情にこそ促されて発展するものなのかも知れません。野田が何か「ぶち切れた」行動で韓国に張り合うことが出てくるとしたら、それはたぶんお隣さんではなく国内の世論に対応するためでしょうね。
中国、反日デモ抑制の構え ネット呼びかけ次々削除(朝日新聞)
尖閣諸島に上陸して逮捕された活動家ら14人が強制送還される見通しになったことで、中国政府は「事態の複雑化は避けられる」(日中外交筋)と判断し、高まりつつあった市民の反日感情が暴走しないよう引き締めを図る構えだ。
北京の日本大使館前には16日朝から10~30人前後のグループが断続的に現れ、日本に対する抗議の声を上げた。上海や山東省青島の日本総領事館でもそれぞれ20人余りが抗議に集まったが、いずれも多数の警察官が取り囲み、過激な動きを抑えた。
中国のネット上では2010年の一連の反日デモの皮切りとなった四川省成都市など各地で抗議集会や反日デモの呼びかけが広がっているが、これも次々と書き込みが削除されている。
さて韓国との間に軋轢が生まれている真っ最中に、敢えて中国を刺激しに行った人がいるわけです。これを日本では「内政問題」として片付けたがっているのは周知の通りで、まぁ色々な意味で外交以前に内政の問題なのだなぁと痛感させられます。一方で日本と違って「民意」を無視しやすい体制である中国には一定の引き締め姿勢もまた見られるところ、強制的な鎮圧という日本では難しい「奥の手」があるからでしょうか。それもどうかと思うところではありますが、しばしば外交問題を解決するためには相手国よりもまず、国内世論をどうにかしないといけない場面が出てくると言えます。こういうときにこそ「リーダーシップ」が必要になるはずなのですけれど、なかなか資質のある政治家には恵まれません。
先日の記事でも書いたことですが、時に経営者よりも「世間」の方がリストラや労働条件の不利益変更に好意的だったりはしないでしょうか。公務員なり電力会社なり、槍玉に挙げられやすい業界に対しても顕著ですが、正社員全般、中高年全般に対しても同様に人員削減や給与カットなど労働条件の不利益変更を求める声は少なからず存在します。経営側がそれを求めるならまだ理解できなくもないですが(巡り巡って国内の購買力低下、国内の景気低迷にも繋がるというのはさておき)、むしろ経営者でも何でも無い普通の国民の方が、より先鋭化したリストラ論者になっているケースも目立つように思います。もちろん民意とは無視されるべきものではないのですけれど、民意に引きずられる形で色々なものがダメになっているな、という印象がどうしても拭えないのです。本来なら外交上の問題であるはずのものが、国内事情によって翻弄されている辺りはまさに象徴的と言えます。
中国や台湾が尖閣諸島の領有を主張して、不法上陸をしているのは今回に限ったわけではないのに、やたら議員までがパフォーマンス的に上陸しているのは、韓国との領土紛争に便乗したというほかはありませんね。
こんなパフォーマンスしか能のない政治家を見ると(最近こんな連中ばかりですが)、日本にも韓国にも失望させられます。
まぁ昔から床屋政談という言葉があるくらいで、まぁ「市民」が無責任なことを言うのはご愛敬なんでしょうけれど、それに政治家が媚びる、週刊誌のゴシップレベルの記事を世間が本気にする辺りに、色々と良からぬものを感じますね。
>プチ左派さん
要するに日本で色々と騒いでいる人は、中国なり韓国なりではなく、まず何よりも日本国内に向けて「強い姿勢」をアピールしていると言うことなのでしょうね。これを本気で外交上の問題と捉えているなら、韓国との問題が大事な時期にわざわざ中国にまでけんかを売りに行ったりはしないところですから。李明博の政治生命も長くなさそうですが、それに張り合う有象無象の日本の政治家も、先行きに明るいものは感じさせません。
今回は難を免れたものの、橋下の様な人間を望む声が大きい以上、いつ李明博大統領同様の人間が日本側だって登場してもおかしくありません。
韓国も日本と同様かそれ以上の格差社会になっているため、ナショナリズムの拡大に歯止めがかかりにくいんでしょうね。
韓国と日本は最早鏡に映った姿同然で、同じ事をすれば同じになるといういい例を提示してくれているのに、格差拡大は止めず、さらに批判しているはずの李明博大統領と同じ人間を懲りずに選ぶ流れを変えないとはもうどう言ったらよいのか分かりません。
自分達だけは違うとでも思っているのでしょうか。
今日の野田の記者会見なんかを聴くに、まぁ野田も橋下に蹴落とされまいと、いくらかパフォーマンスを優先させてきた感じがしますね。トップが橋下でなくとも、橋下への対抗として暴論を競う事態はありうるかも知れません。世間的には、韓国のナショナリズムは悪いナショナリズムで日本のナショナリズムは良いナショナリズム、日本は正当なことを主張しているだけという扱いが主流でしょうし……
まぁ「ウケが大事」なTV業界の方々は穏便に済まそうとすると弱腰とか対応が甘いとかそーいう台詞回しを多用しますけども
日々の生活の中で領土問題なんてそんな重要な問題になってる感じがしない。領土問題で強さをアピールしたところで何か世間に影響があるのかと思わざるを得ません。TV業界の人間がエキサイトするだけじゃないでしょうか。
石原とかは一体何を期待してアピールしているんでしょう。私にはよくわかりません。
そこが、あくまで内政問題たるゆえんですね。強硬姿勢を見せることで失われる支持など微々たるもの、逆に理性的な態度を続けた方が大きく支持を失う可能性がある、社会そのものへの影響は小さくとも、政治家の得票には結構な影響がある、それが日本の政治を導いているように思います。
たしかに大統領の竹島訪問に関しては韓国側に少し頭を冷やして欲しいところですが、「天皇発言」に関して、日本側が文句を言う立場になどありません。他国のトップに対して、このような発言など、アメリカとイスラムや南米諸国の間では頻繁にありますが、いちいち文句をねじ込んだりしません。
竹島問題で過剰なまでに頭に血が上る韓国と同様に、日本もまた天皇に関する発言を受けるとすぐ頭に血が上るのをやめるべきです。
ちなみに私、今の天皇は結構好きだったりします(笑)
天皇の政治責任については、ずっと日本は避けてきたわけで、これは他の国に言われるまで向き合ってこなかった日本に反省が求められるところでもありますからね。隣国を咎めるよりもまず、自国はどうなのかと思うところです。でも天皇もまた、自衛隊と並んで信仰の対象になっている気がします。どちらも、当人の望みと周囲の望むことが微妙にずれている感じですけれど……