非国民通信

ノーモア・コイズミ

同一労働同一賃金にも2種類あるらしい

2009-01-29 22:55:52 | ニュース

いまさら出てきた「ワークシェアリング」論 7年間ぶりの“復活”に感じる違和感(DIAMOND Online)

 このようににわかに注目を集めている「ワークシェアリング」だが、これを考えるにあたっては、どこからどこまでがワークシェアリングなのかをまず考えなければならない。そこで、現在、日本で定義されている「ワークシェアリング」は、大きくいうと下記の2つである。

1)多様就業型ワークシェアリング(雇用創出型ワークシェアリング)
2)緊急対応型ワークシェアリング(雇用維持型ワークシェアリング)

 1)は、多様な業務の短時間労働を組み合わせることで雇用機会を増やす、というもの。オランダをはじめヨーロッパなどで普及している制度がこれにあたる。近年いわれている“ワークライフバランス”を実現するためのシステムとして、ヨーロッパでは一般的になってきている。

 2)は、不況などで企業業績が悪化したときに、1人あたりの労働時間を短縮する(その分、賃金を切り下げる場合もある)ことで全体の雇用を維持する、というもの。最近、自動車メーカーなどの製造業を中心に行なわれている、工場の操業停止と一部賃金カットなどのケースがこれにあたるとされている。

 今日も週刊ダイヤモンドからの引用です。先日の記事はジャーナリストによるものでしたが、今日のは弁護士が書いています。橋下徹や稲田朋美の同業者さんですね。まぁ、冒頭に引用した箇所は至って普通の現状分析でして、一口にワークシェアと言っても方向性が異なるものがある、雇用創出のためのワークシェアもあれば、雇用維持を名分に掲げつつ賃金カットを推し進めるようなワークシェアもあるわけです。その辺の意図を曖昧にしたまま、「雇用を守るため」を称して経営側主導でワークシェアが導入されると、オランダとはまるで別物の日本独自のワークシェアが出来上がるわけでもあります。

 というのも、「ワークシェアリング」を導入するためには、正社員の既得権益にメスを入れなければならないからだ。痛みを伴う改革であり、その前に「同一価値労働、同一賃金」という考え方を浸透させなければならない。

(中略)

 そして、評価によっては、その職務において正社員の付加価値が認められれば、その分賃金が高くなるということがあってもおかしい話ではない。いま一番問題なのは、ただ「正社員である」というだけで、非正規社員と比べて大幅な待遇格差が生じてしまっていることである。時代が、その格差是正を求めるのであれば、「整理解雇の4要件」とセットにして、正社員の既得権益を見直す議論をすべきではないだろうか。「ワークシェアリング」が本格導入されれば、派遣活用の必要もなくなるはずである。

 で、至って普通の現状分析の後は週刊ダイヤモンドらしい妄言が披露されます。この人はまるで呪文のように「既得権益」という言葉を連呼していますが、未だに小泉/竹中路線を信奉しているか、あるいは「新しい小泉」を待ち望んでいる人にありがちな傾向ですね。それはさておくにしても、随分とツッコミどころに満ちた文章です。なんでもワークシェア実現のためには「同一労働同一賃金」の浸透が必要だと説くわけですが、そこで言及されている「ワークシェア」とは①オランダ型と②日本型のどちらなのでしょうか。引用しなかった箇所を含めて何度読み返しても、その辺は明言されていません。目指すべき到達点を曖昧にぼかしたまま話が進められているわけです。

 まぁ「同一労働同一賃金」は良しとしましょう。しかるに同一労働同一賃金を実現させるためには、「正社員の既得権益にメスを入れなければならない」そうです。う~ん、一口にワークシェアと言っても、実は全く正反対の方向を向いた2種類のワークシェアがあるように、同一労働同一賃金にも正反対の方向を向いた2種類があるみたいですね。その片方は、日本にしか存在しないものかも知れませんが。

 問題なのは「正社員」というだけで、非正規社員との待遇格差が生じていることだと、そう引用元の論者は説くわけです。ふむ、なんだかんだ言って右翼層と小泉/竹中支持層が被る理由がわかるような気がします。彼らは自説を正当化するためなら、物事の順序を都合良く入れ替えることに躊躇いがない、考え方が似ているのでしょう。言うまでもなく、近年で顕在化したのは「非正規雇用」というだけで正社員とは異なった待遇、大きく「劣った」待遇を強いる動きであって、正社員を厚遇するようになったわけではないのですが。

 正社員と非正社員の格差を語っている点では同じかも知れませんが、事実認識に根本的な違いがあります。もし仮に、この10年で正社員の待遇が大幅に引き上げられた結果として非正社員との格差が拡大したなら、正社員の待遇にメスを入れるべきとする意見にも部分的な合理性はあります。しかし、正社員の待遇は横這い、というより漸減傾向にある中で、非正社員の待遇が急速に悪化して生じた格差にはどう対応すべきなのでしょうか? 言うまでもない、悪化した部分を回復させるしかないはずです。

 同一労働同一賃金を目指すなら、非正規というだけで劣悪な待遇におかれた人々の待遇を引き上げることが求められます。しかるに日本の御用学者の語る同一労働同一賃金とは、正社員の待遇を引き下げることで非正規との差をなくそうとするものです。たしかにそれでも「格差」は消えますが、代わりに「貧困」が増えます。そんなものを歓迎できるのは、まぁ親の金で暮らしていけるから低賃金は苦にならない、しかし自分より稼いでいる連中から見下されるのは我慢ならない云々とか考える人ぐらいでしょうか、若く貧しい小泉支持層には意外と多いタイプかも知れません。ともあれ、ワークシェアにもヨーロッパ型とは別の「日本型」があるように、同一労働同一賃金にも「日本型」があるようです。引用文の著者がその点に触れないのは、自覚がないからなのか、それとも読者を欺こうとしているからなのか……

 そもそも戦後最長の景気回復の結果、正社員の取り分は微減、非正規の取り分は激減しました。じゃぁお金はどこに消えたのかと言えば、それなりに増えた役員報酬であり、大幅に増えた株主配当であり、圧倒的に増えた内部留保です。メスを入れる余地があるとしたら、正社員の既得権益なる脳内仮想敵ではなく、こうした本物の権益者でしょう。ただこうした本物の権益者を守るために、別の「敵」を用意して矛先を逸らす、聖域を守ろうとする手口は小泉時代から全く衰えていません。「雇用維持」の美名を掲げて給与削減を図り、「格差解消」の美名を掲げて労働者全体の待遇引き下げを図る、そして「改革」を掲げて実は現状の上下関係をより強固に保とうとする、そうした動きは未だに健在です。

 

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13 コメント

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こりゃセーフティネットを作った方がよさそうですね (ふみたけ)
2009-01-30 00:27:55
ワークシェアリングは言葉歩きが過ぎた感があるので、これ以上ビジョンが無いまま実施を求めるのは危険かなと思います。
個人的には先にセーフティネットの整備よろしく、雇用形態を問わず労働者が何らかの際に資金を貸し出せる基金創設を目指した方がよさそうな印象です。
もっとも、金をどこから出すか?については難しいところなんですけどね。(苦笑)
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Unknown (Gl17)
2009-01-30 01:29:08
これ、昨日だかのビジネス番組で、城ナントカいう人がそっくり同じ対処を主張してました。どうも業界のテンプレになってるみたいですね。
派遣が格差に喘いでいる。じゃ待遇を向上させなきゃ・・・と、常識では思うところ、逆に正社員の待遇を下げろと。
なんかこういう論理の転倒は、読売や産経の社説で以前からよくお目にかかる気がするんですが。
最近のビジネスコンサル業界ってのはナンですかね、詐術の専門家を養成するとこになったんですかねえ。(昔からそうなのかは知りませんが)

これで問題は解決するかと言えば、そんなわきゃないです。でも、経営者はこっちの方が耳に優しい。
結局は顧客の心地よいことを言ってあげるのがコンサルタントという商売で、問題が解決するか否かは二の次なのかもしれません。
受入れてくれたら、指導さえ済ませばカネは取れます。結果が明確になるのは数年先、後でダメでも責任取れとか言われませんからね。
以前流行った「成果主義」って奴も、大半の会社で全然ダメだったような話が最近出ているし。(でも給与削減の口実には格好だったから、そこだけは経営側に美味しかったかな)
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分けてくれても (介護員)
2009-01-30 22:00:49
生活出来ない、雑用お断りします
正社員楽させる為の 正社員に優越感与え、それに依り正社員が自分達が低賃金労働に甘んじている事実を黙認させ 何等不満をださせないように飼い馴らし 揚句の果てバワハモラルハラスメントを起こさせ 労働者が更に弱い労働者を見て見ぬ振りをし労働者が労働者を精神異常にし
結果自分自身をサービス残業に追いや「ハラスメントにより人材が足りなくなり」又うつ病を病み人と時間と金を無駄にする‥医療費用等‥労働環境が正常なら、本来は要らない等
そんな事の繰り返し
馬鹿みたいだ
労働者よ目覚めよ
ナチスと同じだ 労働者よ ワークシエアリングで生活出来ない賃金なら仕事しないで生活保護を求めましょうだ 生活出来て余裕の出来る賃金の仕事が見つかるいや奪う時迄
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Unknown (非国民通信管理人)
2009-01-30 23:31:13
>ふみたけさん

 >金をどこから出すか?

 まぁ、非正規の取り分が減ったのと同時期に、取り分を増やした人や組織から拠出させるしかありませんね。投資家だけではなく、むしろ貧しい人が多いはずの小泉/竹中支持層は絶対に受け容れないでしょうけれど。

>Gl17さん

 ある意味、ネット上のコピペと同じですよね。同じことの繰り返しです。一方で大手メディアは「顧客重視」とばかりに読者及び視聴者に迎合するような勧善懲悪の報道に終始していますが、コンサルタントというのもそうなんでしょうね。「お客様」である会社経営者をいかに喜ばせるか、それも「顧客重視」なのでしょう。

>介護員さん

 別に正社員を楽させるためではないですよ。正社員の待遇は悪くなることはあっても良い方向には向かっていませんから。介護員さんの待遇が悪くなった分だけ、イイ思いをするようになったのはもっと別のところです。
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根性で不況は乗り切れるか (ノエルザブレイヴ)
2009-01-31 10:05:14
例えば老舗(私は嫌いですが老舗な分Wなどの新興勢力よりはわずかばかりまともに見えなくもない今日この頃)の右月刊誌であるところのSの派遣観は「若者は甘えすぎ」「経営者はサムライ精神を忘れたか?」だそうで、まあどちらにも矛先を向けているだけほんの少しだけマシとも思えるもののとてもスピリチュアルかつ道徳万能主義的で困りますね。右の人の主張と思えば別に驚くに値しませんが。
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キャンペーン張ってるわけですよね (ベースケ)
2009-01-31 12:26:52
「正社員が節約するのはけしからん云々」という発言もありましたし。「内部留保」報道の火消しに躍起になってる、という見方もできるかも。
そんな中で全国ユニオンの見解ってのはちょっと微妙ですね。この議論に大々的に乗っかっちゃうのは得策で無いような気もするんですが・・・
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20090123/183720/?P=2
どう思われます?
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Unknown (非国民通信管理人)
2009-01-31 13:37:53
>ノエルザブレイヴさん

 雇用の問題を雇用主を除外して考える御用経済誌よりは、相対的にまともかも知れませんね。もっとも、企業のモラルに期待するばかりで「企業とは利潤を追求するもの(だから法的な「強制」が必要)」ということに気付かない道徳主義では何もなしえないでしょうけれど。

>ベースケさん

 まぁ内需拡大のために節約より浪費が欲しいような気もしているのですが、まぁそれはセーフティネットの拡充も必要ですからさておくとして、ユニオンの見解にもちょっと限界の見えるところはありますね。経営側にとって「受け容れやすい」ものを目指そうとしているのでしょうか、どうも経営者と労働者の間ではなく、労働者の間だけで格差や貧困を調整すべきとする輩と同じ前提に立っているようにも見えます。例によって企業のモラルに期待するところもちょっと……
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Unknown (w.t)
2009-01-31 13:51:10
記事とは関係の無いコメントでスマン。

日本人の相撲取りが大麻をやってたらしいね。
何かさ、『外人はモラルが無いから相撲界から締め出せ~!』みたいな事をほざいてた連中がいたけど、今頃奴らは涙目だろうなあ プププ

何かにつけて『日本人→モラル高 外人→モラル低』と主張したがる輩が多いのにも困ったもんだ。キモイんだよ全く。

ちなみに俺は、必ずしも大麻がモラルに反するとは思わんけどね。
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w.tさんへ (ノエルザブレイヴ)
2009-01-31 19:37:08
それは少し違うと私は思います。

w.tさんの指摘も確かに有りですけどそれ以上に「昔の日本人→モラル高、今の日本人→モラル低」という主張が罷り通っているように思います。

ですから道徳家たちはこれをおかずにスパークすることでしょう。それもやはり困ったものです。
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Unknown (小林)
2009-02-07 23:09:05
同一賃金同一労働を採用した場合

既得権を持った人の権利を剥奪することが
必要になる 

いま考えなければいけないのは既得権の保護
よりも、格差の下層にいるひとの生活権の保護のほうが大切であるということだと思う

既得権剥奪に対し、一番最初に取り組まなければいけないのは、国民に対する社会保障の拡大だと思います
返信する

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