非国民通信

ノーモア・コイズミ

洗脳教育の先を考えてみよう

2023-04-02 23:30:33 | 政治・国際

 先般も僅かに言及しましたが、1905年に日比谷焼打事件と呼ばれる暴動がありました。戒厳令が発され内閣の総辞職にも繋がる大規模な騒乱で、日露戦争後の講和条約に対する不満に端を発するものとされています。国民に向けては日露戦争の輝かしい勝利が喧伝されていた一方、実際にはそこまで有利な結果を取り付けられるほどの戦果はなく、日本人が望んだような形での領土割譲や賠償を得ることは出来なかったわけです。ロシアに大勝したはずが、得られた結果は微々たるもの──このギャップが国民の怒りに火を付けたのですね。

 この政府の宣伝と現実との差は、現代に至るも埋まっていないように思います。いわゆる北方領土を日本では「固有の領土」と呼び習わし、あたかも日本が領有権を持っているかのごときプロパガンダが流布しているのですが、現実と政府宣伝のギャップは日比谷焼打事件の当時と同レベルという他ありません。もちろん結論を出さなければならなかった日露講和条約とは異なり、北方領土に関してはいくらでも問題を先送りできます。永遠に国内向けの嘘を吐き続ける、というのが日本の選択になるのかも知れません。

 北方領土の「返還」という名の割譲は現実的ではありませんが、いつか北方領土が日本に「還ってくる」と信じる人々もいるわけです。巷の洗脳教育の中では最も成功した部類だな、と私などは思うところですが、では仮に領土割譲に成功した場合にどうするかを考えている人はいるのでしょうか。単純に領土の獲得を悲願にしているだけで、実際に支配地域が広がったら次は何が必要になるのか、という視点を持っている人は皆無に近い気がします。

 単純に日本側の都合だけを考えるとしても、そもそも北海道の東部ですら持て余しているのが現状です。インフラ維持が困難になっている地域よりもさらに遠方に位置する離島をどうやって運用するのか、というビジョンは当然ながら求められます。もちろん反ロシアのシンボルとして税金を注ぎ込む国策も可能ではあるのですが、「釣った魚に餌はやらない」よろしく領土を得るところまでは熱心でも、その先は冷淡になる国民の方が多いように思います。

 それ以上に私が疑問に思うのは、「今」北方領土に住んでいる人々をどうするのか、ということです。当たり前ですが日本が北方領土と呼ぶ島々にはロシア国籍を持つ人々が居住しています。もし南クリル諸島を日本に編入するのであれば、そこに住むロシア人の処遇も考える必要があります。多くの日本人は「北方領土は日本固有の領土」と無邪気にプロパガンダを信じているわけですが、自国の領土と言いつつも望んでいるのは仮想敵国から領土を奪うことだけで、「その先」に想像が及んでいないのではないでしょうか。

 昔年の大日本帝国の臣民には朝鮮半島や中国・台湾の人々も含まれ、それを含めて「進め一億火の玉だ」とのスローガンが唱えられていました。しかるに戦後は「朝鮮籍」や「中華民国籍」という日本国籍とは異なる扱いを受ける人々が作り出されました。同じ大日本帝国の臣民で日本に居住していてもなお、日本国籍が付与されなかった人がいたわけです。そして北方領土の問題も然りで、南クリル諸島が日本に割譲された場合に島民には日本国籍が付与されるのか、日本人と同等の権利が保障されるのか、疑問に思うところがあります。

 ソ連崩壊後の元・構成国の事例は参考になるかも知れません。例えばラトビアの場合、ロシア系住民には試験を課し、合格しない限りは国籍を付与せず、当然ながら選挙権も与えない姿勢を堅持しています。他にも教育現場でのロシア語利用を規制するなどあるわけですが、この辺は朝鮮学校を巡る我が国の扱いを見ればむしろ共感する人も多いでしょうか。人権という観点からはなんとも後進的と言うほかありませんけれど、アメリカ陣営、NATO陣営に服してさえいれば何をやっても民主主義国です。南クリル諸島が割譲された場合の住民の扱いも、ラトビアにおけるロシア系住民の扱いと同じぐらいが想定されます。

 ロシアの政治にも問題はありますが、一つ確実に肯定できるのは自国を「多民族国家」として意識していることです。結果としてロシア「連邦」内には複数の共和国が存在し、それぞれロシアとは異なる公用語や独自の憲法を有しています。一方の日本は、むしろ戦後になって単一民族神話が成立するなど自国を「日本人のもの」と捉える意識が強いです。しかし大日本帝国の時代から日本は多民族国家であり、今もなお日本にルーツを「持たない」人々が暮らしています。そこで北方領土を自国のものと主張するのであれば尚更のこと、「日本」の中の多数派ではない人々を公正に扱えているかどうかが問われるのではないでしょうかね。

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