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Lang ist Die Zeit, es ereignet sich aber Das Wahre.

"Fauxliage" - Pre-Release Review on :: Delerium Maniax ::

2007-07-28 13:10:55 | delerium
Fauxliagea_1



>> :: Delerium Maniax :: "Fauxliage" - Exclusive Pre-Release Review

DeleriumのBill LeebとRhys Fulberが、Leigh Nashのヴォーカルを中心にフィーチャーしたプロジェクト、Fauxliage (8月14日発売予定)のSample盤が、日本唯一のDeleriumファンサイト、:: Delerium Maniax ::に、Nettwerkより提供されました。私も運営に関わっていることから、光栄にも、世界で最初のファンレビューを掲載させて頂く運びとなりました。

また、管理人のj.d.さんのご尽力により:: Delerium Maniax ::では試聴ファイルも用意してございますので、レビューと併せてお聞き頂いて、拙ながら少しでもこの作品の魅力を伝えることが出来ればと願っています。現時点で世界で最も速い情報を日本のサイトでお送り出来ることを嬉しく思います。

そして不肖私議ながら、:: Delerium Maniax ::に寄稿したレビューの、『未編集版』をここに掲載する許可を得ました。やや冗長となってしまいましたが、お付き合い頂ければ幸いです。




□ Fauxliage

>> http://www.myspace.com/fauxliage
>> http://www.nettwerk.com/productions/cd.jsp?cd=4706

Release Date; August 14. 2007
Label; Nettwerk
Cat.No.; 305662
Format: 1xCD


Disk 1

01. All The World
02. Someday The Wind
03. Draw My Life
04. Let It Go
05. Magic
06. Without You
07. Rafe
08. Vibing
09. All Alone
10. Rafe (Gabin Remix)
11. Rafe (Pacha Remix)

(参考)
>> lens,align.: Fauxliage Press Release.


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Fauxliage - Faux (偽りの) - Foliage(葉の束)

フランス語の単語の掛け合わせで慣用的に用いられる派生語であり、転じて「葉に擬態する」や「迷彩」のようなニュアンスとなる。Leigh Nashの歌声は、その名の指し示す如く、Bill LeebとRhys Fulberの奏でる精彩なサウンドに染まり、融け込んでいる。




□ PRODUCTION NOTES             .

詳細なクレジットが未着のため、
これまでに確認出来た情報のみを参照する。

プロジェクトの存在が明らかになったのは2005年、丁度"Extraordinary Ways"のリリースと前後する時期。以来、Nashの住むナッシュヴィル(カントリー&ウェスタンのメッカ)と、スタジオのあるヴァンクーバー間において、アイデアとヴォーカルをやり取りしながらレコーディングされた。マルチ・インストゥルメンタリストのRoy Salmondと、ベーシストのLeah Randi、そしてSarah McLachlanのバンドドラマー、Ash Sood、一部ストリングスアレンジにChris Elliotといった常連パフォーマーもフィーチャーされている。また、Kristy Thirskなどをヴォーカルにフィーチャーし、D:fuseとのコラボレーション等で活動しているエレクトロポップ・プロデューサー、DJ Mike HiratzkaがAdditional Productionを務めた。

サプライズなゲストとしては、国際的に活躍しているアメリカで最も優秀なグラミー賞エンジニア、Ted Jensenをマスタリングに起用している他、Nettwerk創設メンバーのMark Jowettがギター、プログラミングで参加していること。レーベルとしての力の注ぎようが窺える。カヴァーアートはConjure One等を手掛けるJohn Rummen(Artwerks)が手掛けた。


□ OVERALL REVIEW (総評)             .

『天使のような無垢の歌声』と評されるLeigh Nashの甘く胸の詰まるようなヴォーカルは、過去に"Poem"でフィーチャーされたように、Deleriumのようなethereal-popの素材としては非常に魅力があり、かつ、楽曲のピースとして重要なファクターとなる。摩訶不思議なサウンドの織りなす夢幻の世界にリスナーが求めるのは、聴覚的な刺激から得られる官能美の極致である。このジャンルにおける影響力を自認するBill Leebが世に送り出す"Fauxliage"は、アーティストとしての自己表現とリスナーへの訴求を折衷的に両立し、アピールする狙いがあるのだろう。


総じてLeigh Nashのソロ・アルバムという位置づけと捉えて間違いない。しかし、"Vibing"や"Magic"のようなインストゥルメンタル曲に顕著だが、Bill LeebとRhys Fulberによる、往年のトリップホップ/ニューエイジの作風に根ざしたシンセワークが主張し、寧ろ"Semantic Spaces"以来のワンスタンド・コンセプトアルバムと言っても良い。

だが、あの頃の重々しいサンプリング・コラージュは今や見る陰もなく、"Extraordinary Ways"や"Nuages Du Monde"の作風を正統に受け継いだ、生演奏向きのライトポップ様式の印象が色濃い。ヴォーカルラインさえも、"Blue on Blue"で見られたLeigh Nashのルーツであるカントリーミュージックが下地にあるらしく、"Innocente"で打ち出した、ブレイクビーツとトライバルサウンドの融合した、神妙で耽美な雰囲気は望むべくもない。

ただ、DeleriumとしてAude / "Vents Contraires"をプロデュースした時と同様に、あくまでサイドプロジェクトの一環として、FLAやDeleriumほど重点を置いていない、或はライブでの再現性をそれほど考慮していないせいか、ビートの節回しやギミック、ヴォーカルの処理がオーヴァーダブに偏重気味であり、これが幸いして立体的で厚みのある電子音響が実現され、重みの効いたドラムロールは"Nuages Du Monde"以上に鋭角的な印象を与える。

また、荒野を抜けるような独特の郷愁を伴った粗いパッド、張り上げるようなシンセのサイレンなど、上述の特徴と相まって、Deleriumの最新作よりも、Conjure One / "Extraordinary Ways"のイディオムに類似した点が多く挙げられることから、Rhys FulberのProducerとしてのウェイトの大きさが窺えるだろう。

以下、楽曲毎のレビューを並述していく。




1. All the World               .

幽玄かつ不気味なアトモスフィアと電子音が、エキゾチックで東洋的な世界観を演出する"All the World"は、おそらく最もDeleriumに通じるトラック。イントロと間奏では、アルバム全体に登場するエレピの2音の共通モチーフが呈示される。高音で歪みを生じさせる硬いアルペジオはBill Leebのトレードマークと言っても良い。前半の暗さから後半の抜けの良い爽やかなボーカルへの繋ぎが解放的。間奏部は今にも幽霊が出てきそうな暗鬱なサウンドで、ヴォーカルも終始どこか寂しげな響き。


2. Someday the Wind             .

アコースティックギターのリヴァースからの導入、濡れたパーカッション、はじめはマイナーブルース調に、そして抜けの良いサビでのびやかに歌う、スローテンポで舌足らずなLeighのシュガーヴォイスに、遠くで唸るように呼応するエレキギター。中盤以降ではAsh Soodの乾いたドラムが激しく響く。また、ここでもややソフィスティケイトされたアルペジオが特徴的に被されるが、これは"Nuages Du Monde"の"Lost and Found"よりコーラス部分を抜いた同じ素材を用いている。


3. Draw My Life               .

ヴィブラフォンがメルヘンチックに鳴り響く孤独の世界で、Leigh Nashが人生の儚さと希いを切々と歌い上げる。ボーカルはとても切なくて、しかし時折ポジティブな色を帯びる、コロコロと表情を変える心象を丁寧に反映した扇情的な曲。リヴァーブと生音のコラージュを幾重にも施したドラムは力強く、そしてどこか壊れてしまいそうな儚さも漂う。ヴァイブは例の共通モチーフ。間奏部分では、Leighのファルセットのレイヤーに甲高いシンセの白玉が、天上の響きと聴き紛う眩い光を放つ。


4. Let It Go                 .

ストリングス基調の艶やかな曲。濡れてきらめくピアノとドープなビート、切ない出だしからポジティブな色に転調するLeigh Nashの表情豊かなヴォーカルは、これまでのDeleriumには無いエスプリを感じさせるもので、Sixpence Non The Richerの頃の感触を喚起させる。ヴォーカルラインも独特で、類似フレーズの上昇、下降の段階的なシークエンスによって、聴覚を絡めとっていくようなフックが効いている。ドラムはライトなものに代わるが、ノイズやエスニックな音声の名残を臭わすハム音等が効果的に散りばめられ、Conjure Oneのサイレンが登場するなど、Rhys Fulberのキーボードが際立っている。


5. Magic                  .

インストゥルメンタル。
バロック的なローズ・ピアノと、ダブ処理によってどこか懐かしい響きを伴ったチェレスタのシンコペーション、華やかで煌めくような協奏で幕をあけ、オブキュアなプログラミング・ドラムが合流する。東欧風のオペラチックなソプラノコーラスの導入で、楽曲は朝露のようなアンビエンスからややトーンを落とし、異国への憧憬を嗅ぐわす淡々としたパートへ。Conjure Oneの"Pilgrimage"にアプローチが類似している。ブリッジで土底からこみ上げてくるように浮上するツヤのあるシンセ・ストリングスが束の間、高みから見晴らすような解放感を与えてくれるが、ギターのハウリングで締めくくられる描写は、やはりどことなく見知らぬ地を行く旅の心細さを物語るようでもある。


6. Without You               .

ダークなイントロに始まり、重いストリングスとジャジーな生音のコラージュ、質感豊かでトリッキーなビートセクションに、気怠いヴォーカルラインが哀愁を誘うブルージーなトラック。"Let It Go"と同じく、同じボーカルフレーズに差異を設けて繰り返すという、Leigh Nash独特のアンニュイなカラーを発揮させる技巧が印象に強く残る。切り込むようにオーバーダブされたドラムビートの噛み合わせも、楽曲の刺々しいイメージを加味している。一方で、中盤に登場するローズ・ピアノの演奏は、70年代~のサイケデリック・フュージョンを彷彿とさせ、実はここに至って、"Magic"、"Without You"、そして"Vibing"の三曲が同様の懐古的手法においてアルバムの軸を明らかにしているということに気付かされる。


7. Rafe                   .

出自はLeigh Nashが個人的な理由から書き上げたもの。出し抜けに明るいポップトラックであり、限りなく"Blue on Blue"の彼女のソロ曲に近いカントリー調アレンジ。しかしこれほどごくありきたりなバンドアレンジが、この作品においてはより精彩に聴こえるのも特徴的だと言えるだろう。とはいえ、ここでもギターとローズのシンコペーションによる共通モチーフに加え、味付け程度に身を潜めているBill LeebとRhys Fulberのシンセワークが効果を上げている。この"Rafe"、当初は6月にシングルカットされるはずであったが、こうしてRemixを含めてアルバムがリリースされてしまう以上は、中止となった可能性が高いと推測せざるを得ない。しかしDJ用にプロモ盤がリリースされることも考えられる。


8. Vibing                  .

彼らにとって全く新しいエレクトロニカ/フュージョンスタイルのインストゥルメンタル。私の知る限り、FLAやDelerium、Conjure One、その他のサイドプロジェクトにおいて、Bill LeebとRhys Fulberがこのような楽曲を手掛けたことはかつてないと思われる。打ち込みの精緻なリズムセクションが刻むマイナー調のクラブ・ジャズ風サウンド。"All the World"、"Draw My Life"、"Rafe"、"Magic"、"All Alone"にも共通するモチーフであるフェンダーローズのシンコペーションに、夕闇の冷気を感じさせる哀愁のギターやヴァイブが絡む。その一片を担うワウワウ・ギターは、Deleriumの"Til' the End of Time"や"Lost and Found"にあっても効果的にサンプリングされていたが、このように然るべき文脈において演奏されたのは初めてで、逆にDeleriumのアレンジの底流にあるルーツをここに辿ることが出来る。一方で、このメロウな楽曲を随所で力強く巻き込みながら引き上げて行く壮大なシンセ・ストリングスは、実に彼ららしいスピリチュアルな感情を呼び覚ます。弦の上昇音とローズピアノの下降音の交叉が、リアルと幻想の何とも言えない折衷感を織り成している。

過去の巨匠達、Bernard HerrmanやBurt Bacharach、John Barryが作り上げた、ストリングスの音色を前面に押し出す懐古的なジャズの方法論は、近年でもTelepopmusikやThe Cinematic Orchesteraなどによって再構築され、モダン・ラウンジ・ミュージックシーンにとっては既に定番と化した趣きもある。しかし"Nuages Du Monde"の"Tectonic Shift"の後半においてはJohn Barryへのオマージュを謳っている他、Rhys FulberがAndrei Arsenyevich Tarkovskyへのリスペクトを明らかにしたり、Bill Leeb自身が映画のスコアを書くことに関心を寄せていることを表明していることから、Deleriumの場合はもっと直接的なアプローチに根差していると言えるだろう。特にFauxliageのように、エスノ・アンビエント/インダストリアルの方面で培ったノウハウを基に、再び融合を試みた例は珍しいかもしれない。

もともと映画音楽とは、映像の連続性の与えるインスピレーションに即して感情面での記憶銘記の補完を行うものだが、そこに「ジャズ」と言う冗長性のあるイディオムを組み込むことで、この効果を映像のドラマツルギーから引きはがして反転することが可能になる。ジャズは現実を飾り恍惚感を得るもの、ストリングスは対照的にファンタジーを喚起させる相反の効果があるように思えるが、映像感覚のある音楽、あるいは散逸する『ドラマティックな』印象の集合を喚起させるという共通項の中にあって、Deleriumとラウンジミュージックは同じルーツを触媒として、危うい関係性と絆で結ばれているのだ。


9. All Alone                .

"Vibing"の流れを受ける形で、浮き沈みする欠けたビートのクラスター、連音のバスドラムとアコギで幕を開ける。タイトルは"All the World"と対になるイメージを狙ったもので、寂しげに響くヴォーカルは悲壮美すら感じさせる。マルチ・パーカッションがLeighのヴォーカルの節々に寄り添う如く絡みながら、パッドやコーラス、ピアノといった各パートを有機的に紡ぎ上げる。イントロの寂繆感は次第に薄れ、ポジティブなストリングスのウェーブでハーモニックな転調を迎えた後、元のトーンに戻り、Leigh Nashが再び奮い立つように孤高に歌い上げる。アウトロのローズ・ピアノとギターのシンコペーションは、"Magic"のイントロとリンクし、円環性を成している。


10. Rafe (Gabin Remix)           .

イタリアのFLIPPO CLARYとMAX BOTTINIによるクラブジャズ・ファンク系ユニット、Gabin。 アメリカーナなラジオ・エフェクトがイントロの、サルソウル系ガラージ風リミックス。Rafeのヴォーカルラインに息づくカントリーソウルを、見事にファンクテイストに調理している。


11. Rafe (Pacha Remix)           .

このPachaというRemixerの正体についてはついに特定できなかった。微細にダブ処理されたビートパーカッションがムーディなアフターアワーズ・リミックス。中盤でスペイン語のラップが上乗せされる。比較的邪魔にならずに聞き流せる良アレンジ。




以上11曲。

Fauxliageは、それぞれの曲が束ねられた葉の如く一体感の内に融け込んでおり、曲毎のインストゥルメントも流動的に繋がる良く纏まった構成を成している。また上述の通り、Leigh Nash、Bill Leeb、Rhys Fulberの3者のルーツを浮き彫りにし、かつ冒険的な試みも為された、一聴したよりも『新しい作品』と評価するに相応しいアルバムに仕上がっていると言えるだろう。Fauxliageとは偽りの虚飾ではなく、それぞれの音楽性の探求の道程で見出された、紛うこと無き真の音楽性の結晶に違いないのだ。


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