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Lang ist Die Zeit, es ereignet sich aber Das Wahre.

Holophonicsの効果とまやかし。[改訂版]

2007-11-09 06:09:07 | Science
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(Virtual Barber Shop:ヘッドフォンでお聴きください)



>> http://www.holophonic.ch/newsite/index.php


昨年辺りからYouTubeを中心に世界中で話題となった立体音響技術、ホロフォニクス。ステレオ合成における左右間の音像だけでなく、観測者の前後上下に距離感を伴って定位する仮想現実的な音が、何の変哲もないヘッドフォンスピーカーで再現可能。日本でも某動画サービスに音源が紹介され、一週間で20万近い再生数を稼ぐなど、再び旋風を巻き起こしています。


20年以上前にアルゼンチン出身の神経生理学者、Hugo Zuccarelli氏によって開発された技術で、その原理については長年秘匿されたままだとか。実は何年も前に文献で読んだことはあったのですが、当時はどうせ疑似科学か何かの延長だろうと全く関心を寄せませんでした。。メディアでの表層的な扱いや紋切り型の解説、また技術的、専門的な考証は省いて、ざっと関連・言及している科学文献を検索してみた時点での予測をいくつか簡単に。


・音の回折とデリファレンス

一番気になるのは、開発当時のプロセッシング技術の程度による音源加工で、ほぼリアルタイムな変換を可能にしているということ(※スタジオ収録の映像資料より→完全にアナログデバイスだから当然)。これは立体音響が何か複雑な処理を経たエンハンスによるものではなく、処理されるソースの最低限な計算、ファンダメンタルな操作で実現されていることを示しています。やはり集音装置自体にもキーがあるものと思われます。

モニタリング・デバイスとプロセスの特許(ズッカレリ)


耳の発する参照音(リファレンス・トーン)と外部の音の干渉を何らかの仕方で認識させているとのことなのですが、この「参照音」が現代で言う「耳音響放射」(蝸牛内の外有毛細胞の振動現象)と同一のものなのかどうかわかりません。全くの憶測ですが、もしかしたら「参照音」は仮想的に定義したものに過ぎないのかも。

ホロフォニクスは、ホログラムの原理を聴覚上に置き換えたものだと説明されます。ホログラムが光学的に立体像を描くのは、被写体の部分から放射された光と、任意の光源(参照光)の干渉縞を透過した回折光が、空間全体の光学情報を保存する為ですが、これを時間展開的に捉えると、ホロフォニクスの仕組みが見えてくるかもしれません。(情報の一部分は全体の様相の反映であり、「全体」の再現性を内包しうる。)


問題は、全ての録音された音について、その無数の音色それぞれが「いつ、どこで」鳴らされたかという判断をするための情報をどう記録し、人間の脳が刺激からそれを認識する為に、その音色からどういうプロセスで情報を抽出する(デリファレンスする)かという部分。

仮説は無数に立てられますが(ex.逆位相の「壁」で仮想的に回折効果を得ている?or不可聴領域で空間構成を把握させる→ある基準音に対して音像を絶えず移動(定位を固定する為に補正処理)させれば単入力でも立体感が得られるor単純に入力や反響の時間差からの算出と増幅or聴覚刺激を認識する前の段階で、それが生の音でないと自覚する為の信号を相殺するに相当する何か。または何れかの複合。)、ズッカレリが既に確立した手法で得られたデータを普遍化すれば、特殊な録音装置を用いなくても、逐次音源に対するデジタル補正を行うことで立体音響効果が得られるでしょう。(Holophonicsの録音装置自体も、今ではヘッドフォン型マイクというシンプルな形に集約されています。)非常に大きな可能性を秘めた技術であることには違いないです。

※・・・他には、録音装置自体が参照音を発信できる構造の可能性。または、外耳道共鳴や頭部伝達関数を考慮して、音源の位置によって反応する脳の信号を固有な曲率を持つ平面上にマッピングして、それぞれに対応する信号を引き出すパターンを即時的にモジュレートするフィルターも有効かもしれない。

※・・・耳音響放射は「耳鳴り」との関連が研究されていますが、耳鳴りの治療の為の脳への電気刺激で幽体離脱を体験したという有名な臨床例(あくまで本人の主観でしか捉えられない)が報告されています。もしかしたら、ホログラムに共通する原理で、人間の意識は自身と空間の客観像を仮想的に構成しているのかも。

※関連?→人間は自分が予期した触覚、つまり自分自身の身体の部位に触れる場合に、信号を一部相殺して刺激を和らげるという処理が脳内で行われることが近年の研究で指摘されています。知覚認識における「表」と「裏」、「図」と「地」の概念。(→何かを思いだせないと感じられるのは、忘れたものを知っているから。)



しかし一方で、ズッカレリ自身による非常に哲学的な示唆に富んだ暗示が引き寄せる疑似科学めいた先入観が、この技術の可能性をスポイルしている様相も。ホログラフィー周辺で良く引き合いに出される体系的な思索、たとえば宇宙の非実在論、特に内在観(知覚できる外宇宙は自分の内に存在する等)などは、古くはヴェーダンタ哲学をはじめ、有史以前から人類が抱き続けて来たと思われる普遍的な発想ですが、近代の多くの科学者が、量子物理や化学に関する創造的な発見に際して、その東洋回帰的な啓蒙を、さも有り難みのある再発見のように評しました。

「現実」が「完結した時空」の一側面の投影だというシュレーディンガーの手記(※)は、フラクタル理論にも通じる尊敬に値する本質的な要素が感じられますが、ホログラフィー哲学も系統的にはこれとほとんど同じ想定に基づき、ズッカレリの考えも似たようなものだと発言から計り知れます。しかしそういう啓蒙は、科学が自身の論拠とすべき基礎研究とその目的にとってはどうでも良いことなのです。

実在と知覚の捻れがどうあれ、人間が一般化された方法で定量的に干渉できる世界は、その実在と等価であるはず(これを前提としなければ、内在観自体の論拠も崩壊する)の宇宙しかありません。これは個人が如何なるバイアスを通した世界観・教条を抱いていようと同様で、パースペクティブの切り替えは、任意の文脈(手段)の可干渉な階層間でのみ有効であり、その混用はナンセンスなまやかしでしかないのです。


※(→数学的には目新しい発想ではない。『空間上の振る舞い』は認識の形容であり、他の次元系にも変換可能。前後左右に移動するという概念をパラメータで定量化すると、例えば任意の系で「空間上を前に歩く」→「平面で右に回る」と等価なパースペクティブを構築できる(時間軸についても同様)。この世界も同時に他の次元に重畳的に実在し、(連結ならば)ある観測者にとって関係性を保存しながら、異なる振る舞いを見せているのかもしれない。しかし、社会的な人間にとっては「前に歩く」ことは空間上を前進することだという認識を共有して問題ない。どちらも真性(本質)は等価である。)



何が言いたいかというと、特定の発想や技術が「社会にマイナスを齎す(ズッカレリ)」かどうか、あろうことか「思想的なインパクト」の害悪について判断するには開発者といえど僭越かつ早計であって、そんなことを理由に可能性のある技術が停滞したままだとしたら非常に残念だということです。

あるいは、そんな四方山は置いておいて、研究は進んでいるが軍事機密に関わるとか、単に実用の目処が立たない(外部の音を空間を介して録音することしか出来ない制限)、応用のメリットの少なさで引き算されているとか。。ここまでヒントがあって、いくつかの同様の技術が追随しているにも関わらず、現在も実際の応用例をほとんど目に出来ないのは、本当は実利的な要素が強いのかもしれませんね。


(補足)
Wikipediaによると、球体表面におけるwave field synthesisという原理を利用した"Holophony"という全く別の3-D音響技術があるらしい。

>> http://en.wikipedia.org/wiki/Holophony
>> http://en.wikipedia.org/wiki/Wave_field_synthesis

これこそが「ホログラムの原理を利用した技術」で、「バイノーラルの一様体であるHolophonicsと混同してはならない」との但し書きがあるが、当該箇所には編集者の作為が感じられてならない。Holophonicsこそ、(ズッカレリの説明によるとバイノーラルとは全く違う)よりシンプルで基本的なホログラム原理に基づいているのに対し、(→編集者が明らかにHolophonicsについて説明されていることを知らない。或は信用していない。)HolophonyはHuygens?Fresnelの理論を経由した、より複雑な仮想音源音響の構築技術だと見受けられる。しかしどちらにせよ、ズッカレリがHolophonicsをオーバーテクノロジーだと言うのは過大評価かもしれないし、何らかの意図(単なる権利保持かエンジニアとしてのライフワークの確保)を伴ったブラフか牽制であるとすら思えます。(大昔と比べて人間の何が変わったかということ。文明の更改が世界観を一律に支配しているようには、今のところ見えません。)



□ clip.

量子情報:現実直視
Quantum information: Reality check pp175 - 176
Published online 7 November 2007
It will be a long experimental haul before the great potential of quantum effects can routinely be exploited for technological ends. A sense of practical purpose among researchers will encourage progress.

When the citizens of Geneva cast their votes in the Swiss federal elections on 21 October, they could be confident that their ballots were safe ? thanks to the rules of quantum mechanics. The poll results were sent down an optical fibre from the counting station to a government data centre, and their integrity was safeguarded by a quantum encryption key transmitted through the same fibre.

Liesbeth Venema
doi:10.1038/450175a
Standfirst: http://ml.emailalert.jp/c/abs1ad1gdq7lb8aB
Article: http://ml.emailalert.jp/c/abs1ad1gdq7lb8aC




□ Monster black holes power highest-energy cosmic rays

>> http://space.newscientist.com/article/dn12897

19:00 08 November 2007
Enormous black holes in galaxies millions of light years away are pelting us with energetic particles. The finding, from a telescope array 10 times the size of Paris, solves a long-standing mystery about the origins of the most energetic cosmic rays that strike the Earth's atmosphere.

Supermassive black holes that lie at the centres of galaxies and are devouring their surroundings act as cosmic peashooters, firing energetic charged particles through space.

NewScientist.com news service
Hazel Muir


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