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Lang ist Die Zeit, es ereignet sich aber Das Wahre.

E.S. Posthumus / "Makara"

2010-02-04 19:23:38 | music10
Makara


□ E.S. Posthumus / "Makara"

♪ <script type="text/javascript" src="http://mediaplayer.yahoo.com/js"></script>Manju
Indra

Release Date; 02/02/2010
Label; Wigshop Records
Cat.No.; 807207064824
Format: Downloads and 1xCD

>> http://www.esposthumus.com/
>> CD Baby (to buy CD or downloads)
>> iTunes

>> tracklisting.

01. Kalki
02. Varuna
03. Unstoppable
04. Durga
05. Manju
06. Kuvera
07. Ushas
08. Lavanya
09. Vishnu
10. Indra
11. Arise
12. Saint Matthew Passion
13. Krosah
14. Anumati
15. Moonlight Sonata

Related Link:
>> lens, align.: e.s. posthumus / "Cartographer" Review.


考古学者である兄Helmut Vonlichtenと、弟Franzによる音楽ユニット、"e.s. posthumus"の3rd Album。今作はデビューアルバム"Unearthed"より構想8年を経て醸成された、"true vintage e.s. posthumus experience." (by posthumus)なのだとか。


元々は"Deciphered"とタイトルされていた今作は、2001年の"Unearthed"を継ぐ正当なナンバリング作品として企画されていたものの、楽曲制作の試行錯誤や様々な事情により延期を続け、その合間のサイド・プロダクションとして2nd"Cartographer"をリリース。(当初はLuna Sansのみの起用で、混声合唱は付与されていなかったという。)

8年に及ぶ制作段階で書き起こされた楽曲は膨大で、それだけでBox-setが出来る程だとか("Unstoppable"や"Arise"など、既リリースのシングル曲を含む)。その中から厳選されたマテリアルに更なる精錬を重ねられたのが、インド神話に登場する怪魚の名を冠したこのアルバム、"Makara"(摩迦羅魚)である。



ジャケットのシンボルは黄道十二宮のCapricorn(山羊座)を表すものであるが、このカプリコーン(磨羯宮)の「磨羯」とは怪魚マカラ(直接的なモデルはワニ)のことであり、ギリシアに起源を持つインド占星術の象徴の一つとして世界各地に伝播した。日本における『シャチホコ』のルーツともされている。


楽曲それぞれがヒンドゥー教の神々に因んだタイトルを施されているが、例外である"Saint Matthew Passion"は、その名の通りバッハのマタイ受難曲からコラール「われら涙を流しつつひざまつき (Dess sollen wir uns trösten)」の引用であり、"Moonlight Sonata"もベートーヴェンの有名過ぎる同名曲のカヴァーとなっている。



"Makara"において目を見張る変化は、殆どの楽曲においてハリウッド的アクション・スコアの扇情的な書法がふんだんに用いられていることだ。無編集でそのまま映画の予告編に適用できそうな構成がなされ、あからさまにTrailer用途を意識したと思われる曲が多くを占める。特に終曲部、クレッシェンドから小休止を経たリリースまでの流れるような構成には、予告編のクライマックスから暗転してのクレジット提示部が目に浮かぶほどだ。



大規模なオーケストラと混声合唱、デジタルビートとトライバル・パーカッションの織り成すスペクタクル・ミュージック。全体として過去2作品に比べると狭隘な作風ではあるものの、サウンド・コンストラクションはより洗練されて合理的になったとも言える。

人の感情の奥底に眠る本能を突き動かし、悠久の大地を踏みしめる原体験を揺さぶり起こすような刺激と魔法に溢れた今作。ならば『マタイ受難曲』と『月光』に反映されているのは、私たちが太古から背負って来た罪の哀しみと憂いの韻律なのかもしれない。



上述のように、"Unearthed 2"と謳われた"Deciphered"のコンセプトは、この"Makara"に至る過程で大きく変遷を遂げ、過去のアルバムとは大きく異なった趣を見せている。これには嘆く向きも多いと思われるのが、コーラス・システムの変化だ。


混声合唱が歌詞付きでメーンを担うのは"Saint Matthews Passion"のみであり、それ以外では殆どバック・コーラス的なポジションに退いている。その傾向は"Cartographer"から顕著であったが、e.s. posthumusが強烈な個性を打ち出した"Unearthed"とは比べようもない。

ただ、今作では要所要所での混声合唱の効かせ方が巧みで、クレッシェンドに絡めた攻撃的で壮大なコーラスの響きは、このアルバム自体が、彼らの人気を決定づけた名曲"Menouthis"の方法論をエンハンスしたものだとも捉えられる。



ややもすれば、この手の楽曲の作り手は今や音楽市場には溢れかえっていて、セールス戦略から安易な手法に走ったとも受け取られかねないだろう。しかし忘れてはならないのは、e.s. posthumus自身が「その手の書法」の第一人者であったということだ。実は、"Makara"は紛れもなくe.s.poshumutsに求められていたものの昇華された形、かつて"Unearthed"によって掘り起こされた可能性と需要に対する一つの解答なのだ。