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Lang ist Die Zeit, es ereignet sich aber Das Wahre.

Antinomie.

2005-11-11 23:43:48 | 日記・エッセイ・コラム
何処かとてつもなく高い処。
広大なガラス張りの空間の外は蒼く散した暗い星々に満ち、
透ける足元に向って徐々に闇を深め、幾層にも重なる
フロアの暗黒の顎へと光を吸い込んでいる。
そして私は、その底知れぬ深淵に堕ちる────

────夢。
携帯のアラーム音に呼び起こされた私は、咄嗟に昨日までの記憶の断片を掻き集め、現実世界に帰還する。AM7:23。起きるには少し早い時間だ。濃い目のコーヒーを一気に流し込み、信じてもいないTVの星座占いを気に留めながら(水瓶座はサイアクだ)、本日の講義資料のバインダーを片手に部屋を飛び出る。図書館への道筋には、遠回りだが海岸を選んでいた。堤防沿いの公園にある小道には、11月特有の鼻につく肌寒い風が吹き抜けている。待ち合わせ時間にはまだ余裕があった。開館時間までベンチでの居座りを決め込んだ私は、読みかけの小説に手をかける。栞を使う習慣がない為、頁を開いた瞬間に憶えのないセリフを読み取ることはしばしばだ。
『大切なことは何かを知ることではない、何かが出来ることだ。』
公園の子ども達の声が一瞬遠のく。海の薙いだ水面に映る朝陽は、水平線の彼方へとさざなみの収束を促していた。

□ Lisa Gerarrd & Pieter Bourke / "Duality"

The Human Game

「遅いぞ( ゜Д゜)ゴルァ!」
連れのお咎めはどことなく遠慮がち。この人には悪いが、既に冷めた気持ちで親しく接することは、それほど容易なことではない。暖房が少し効きすぎているのか、窓際の冷気に寄り添って憂鬱そうにしていると、様々な疑問と憤りが頭を擡げてくる。そのほとんどを要約するとこうだ。
(もう他人になる人にこんな態度を取られる謂われはない。)
「…悪いけど。」
徐に席を立つと、引きとめる言葉を遮って図書館を後にする。

どうしよう。先刻のルーフタイプベンチで泣きはらしていると、犬の散歩に通りがかったおばさんに怪訝な表情をされているような気がして、すぐに気を取り直した。落ちついて思考の整理を始める。別れは、それまでの自分自身を切り離す痛みを覚悟しなければいけない。それが受け入れられない人はいつまでも過去の自分の呵責に苛まれ苦しみ続けるしかないからだ。恋は何らかの目的を持って人間存在の中心軸を成しているから、自分が生きていく世界観を大きく左右するほど、最も強いエネルギーが費やされる。引き合う時も、離れる時も。私は幼稚で稚拙な、語られざる空想の世界と、現実世界の二重性を生きてきた。リアルでは満たされないもの、理想的な美と物語を、それは現実の生活での原動力でさえあったかもしれないのに、今の私には、この私の恥ずべき時間の浪費を否定することしか出来ないでいる。

ふと、この物語の先を考えてみた。現実の世界には記述されることがないであろう、語られることのない未来図だ。──心に留めた動機の離散。そのもうひとつの世界は、これから私が歩む道と分離を始めた。私には私の向き合うべき現実がある。深呼吸をして、空を仰ぐ。太陽はますます白く、蒼は濃さを増し、海鳥の声が風に乗って騒がしく響いていた。そうして日の光を手繰り寄せるように、流れる雲の輪郭を指でなぞるように、あの月を、あの星々を掴み取るように、まだ触れぬ愛に手を伸ばす。

Alejandro Amenabar / "A Good Mother"
Lisa Gerrard & Pieter Bourke / "The Unfolding"