Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

Twitter @pkcdelta
https://www.facebook.com/GifuNeurology/

脳梗塞においてt-PAによる血栓溶解が有効であるかMRIで鑑別する方法

2006年12月09日 | 脳血管障害
 血栓溶解薬t-PAはプラスミノゲンを限定分解し、プラスミンに活性化する。 プラスミンはフィブリンを分解し、線溶反応を担う。t-PAはフィブリンヘの親和性が高く、ストレプトキナーゼなど他の血栓溶解剤に比ベプラスミン活性化が血栓表面に選択的に行われるため、副作用である出血が生じにくい。しかしながら、出血合併症は皆無ではなく、t-PAの投与により血流が3時間以内に回復すれば虚血性神経細胞死が抑制されるものの、それ以降であれば虚血性の血管障害などに起因すると考えられる頭蓋内出血により死亡率が増加してしまう。このため、t-PAでは発症後3時間以内しか使用できないという制限がある。

 しかし発症後3時間以降の患者では有効例がいないかと言うとそうではない。ECASS-I、ECASS-II、ATLANTISといった大規模studyの結果を検証してみると、有効例が約40%、増悪例が約10%、効果も悪化も見られない例が約50%と3つのグループに分けられると推定される。では、どのような症例において有効性が見込まれるのであろうか?
 
 Stanford大学脳卒中センターのGreg Albers教授らは、発症後3~6時間におけるt-PAが有効である症例の特徴を、MRIを用いて見つけ出すことを目的とした研究を行った。彼らの仮説は、虚血性ペナンブラ(脳梗塞の周辺領域で、血流が低下しているものの、神経細胞は生存している部位)を有する症例ではt-PAによる血流再開が有効であり、虚血性ペナンブラがない症例はt-PAは無効(手遅れ)であるというものである。具体的には、虚血性ペナンブラを、「PWI(灌流画像)により評価した血流低下部位とDWI(拡散強調画像)による高信号領域(不可逆的な部位)の差」と定義し、PWIによる血流低下部位の体積がDWIによる高信号領域の体積の20%以上大きい場合、「PWI-DWI ミスマッチ陽性」と定義した。以上より、①ミスマッチ陽性群、②ミスマッチ陰性群、さらにPWIやDWIによる評価で、血流低下部位ないし高信号領域がきわめて大きい症例をMalignant MRI pattern群として3群に分類し、その予後を調べた。対象は北米および欧州の大学脳卒中センターに入院した連続する脳卒中患者74例で、症状発生3-6時間後のtPA静注による治療の直前および3-6時間後にMRIを撮像した。この研究はDEFUSE study (DWI / PWI Evaluation For Understanding Stroke Evolution)と名づけられた。

 結果としては、発症30日後の修正Rankinスケールを用いて各群の予後の比較を行うと、ミスマッチ陽性群ではt-PAによる血栓溶解は予後を有意に改善することが示された(オッズ比5.4、p=0.039)。一方、ミスマッチ陰性群では、t-PAによる血栓溶解は予後に影響しないか、むしろ悪化させること、さらにMalignant MRI patternを示す症例では血栓溶解により重篤な出血合併症を来たす可能性が高いことが判明した。
 
 以上の結果は、発症後3-6時間の症例でも、PWI-DWIミスマッチ陽性群ではt-PAが有効であることを示すとともに、PWI-DWIミスマッチ陰性群・Malignant MRI pattern群では、t-PAは再灌流障害を引き起こすことで予後を増悪させる可能性が考えられた。つまりペナンブラ領域が存在する患者を見つければ、たとえ発症後3-6時間の症例であっても治療効果が極めて良好である可能性を示している。やはり将来的には、脳卒中センターや病院では、現在の評価の標準であるCTスキャンを用いるのではなく、MRIにより脳卒中患者を評価することを考えるべきであろう。さらに血管を開通させるべきか、させないべきかという判断を考えながら治療を行うことが今後、重要になるものと思われる。つまり、Malignant MRI patternを示す症例では血栓溶解以外の方法(神経保護薬や低体温療法)を考えていかねばならないということであろう。

Annals of Neurol. publish on line; 25 Oct 2006
Comments (2)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ALSにおける神経保護薬の現状... | TOP | 脳血管病変を伴うアルツハイ... »
最新の画像もっと見る

2 Comments

コメント日が  古い順  |   新しい順
おひさしぶりです (Unknown)
2006-12-27 13:44:56
ご無沙汰してます。いつも貴重な文献をご紹介いただきありがとうございます。特に、今回のご紹介には感銘を受けました。私もようやく東京に落ち着いてきました。春頃にでも、ぜひご家族で遊びにいらしてください。社交辞令でなく本心からお待ちしています。それではよいお年を。
返信する
こちらこそご無沙汰しています (pkcdelta)
2006-12-28 06:04:34
お手紙ありがとうございます.この記事については先生が何とコメントされるか少し気にいたしておりました.
東京にはぜひ遊びに伺いたいと思います.それでは来年もどうぞ宜しくお願いいたします.
返信する

Recent Entries | 脳血管障害