Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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精神科の視点から学ぶ頭痛診療のBest practice@HMSJ2019

2019年07月14日 | 頭痛や痛み
日本頭痛学会が主催したHeadache Master School Japanが2019年7月14日,仙台で開催された.本会は頭痛診療の地域格差の解消を目指し,2014年より年2回開催され,今回で10回目となる.松森保彦先生(仙台頭痛脳神経クリニック院長)が委員長を務めたが,教育的,かつ魅力的なプログラムで,非常に勉強になった.個人的に興味深く拝聴したのは,東北医科薬科大学精神科山田和男病院教授による標題のご講演であった.精神疾患を背景にもつ頭痛患者さんの診断や治療に難しさを感じていたため参考になった.以下にご講演内容をまとめたい.

【精神疾患を背景にする頭痛の3タイプ】
精神疾患を背景にする頭痛には,国際頭痛分類第3版(ICHD-3)の本文に記載のある精神疾患,ICHD-3の付録にある精神疾患,ICHD-3の付録にすら記載されていない精神疾患に関連した頭痛の3つに分類できる.以下,順に提示する.

① ICHD-3の本文に記載のある精神疾患
ここには「身体化障害」と「精神病性障害による頭痛」の2つが含まれる.
A. 身体化障害
身体化障害は,30歳以前に発症する「身体表現性障害」の一つであり,圧倒的に女性に多い.さまざまな症状を呈し,そのなかに頭痛が含まれる.多くの診療科を受審し,ドクターショッピング状態になる.また以下の特徴がある.
・パーソナルティ障害(境界性パーソナルティ障害)を高率に合併する
・薬剤(ベンゾジアゼピン系,鎮痛剤)の乱用や依存が生じやすい(よって依存性のある薬剤は使用すべきではない)
・うつ病などの精神疾患を合併する
・予後が不良で,認知行動療法や集団精神療法は有効であるが,薬物療法が有効であるというエビデンスはない.

ちなみに「身体化障害」はDSM-Ⅳ-TRにおける病名だが,DSM-5では廃止された.そのDSM-5には「身体症状症」という病名があるが,他の病態も含み,疾患概念も異なる.「身体症状症」は身体疾患があっても診断して良いという点で明確に異なる.

B.精神病性障害による頭痛
「妄想」の1つとしての頭痛を呈する.代表的な疾患は「妄想性障害(身体型)」と「統合失調症」である.この診断に重要なのは「頭痛が妄想であること」を見抜くことである.統合失調症であれば比較的容易だが,「妄想性障害(身体型)」では容易ではないことがある,例えば「脳の血管が切れて頭が痛い」といった表現をする.診断後は,非定型抗精神薬で治療するが,本人の病識が欠如しているため,内服アドヒアランスが不良で,治療に難渋することが多い.

② ICHD-3付録にある精神疾患
「うつ病による頭痛」がこれに該当する.①のICHD-3の本文に記載のある精神疾患より,障害有病率が高く,臨床的に問題になることが少なくない.

A. うつ病による頭痛
頻度が高い.「うつ病」ないし「持続性うつ状態(軽い抑うつが2年以上)」を背景に認める.もともと一次性頭痛を有している患者にうつ病が合併した場合,頭痛はより増悪する.教科書的に有名なうつ病の症状である食欲不振や不眠は 8割程度に見られるが,頭痛はさらに多く 9割の患者に認める症状である.
ちなみにうつは生涯罹患率6%と頻度の高い疾患で,女性に多く(1:2),40-60歳代に多い.その半数強は再発性であるため,一度寛解しても注意が必要である.約15%が自殺を図り,自殺は男性が多いことも知っておく必要がある.

③ ICHD-3付録にすら記載されていない精神疾患
A. 双極性障害による頭痛

双極性障害の発症年齢はうつ病より若く,遺伝的要素が強い.生涯自殺率はうつ病より高い.以下の2種類がある.

A-1.双極Ⅰ型障害
少なくとも1回以上の躁病エピソードがある.うつ病相のみ見ているとうつ病と鑑別は困難である.家族歴を認める.
A-2.双極Ⅱ型障害
少なくとも1回以上の軽躁病エピソードと,少なくとも1回以上の軽躁病エピソードがある.

問診にて抑うつの有無を確認する必要がある.具体的には以下の手順で行う.
頭痛持ちでなかった患者に出現した頭痛 → 精神科疾患以外の二次性頭痛の除外・一次性頭痛の除外 → 抑うつエピソードのスクリーニング(うつ病,双極性障害)

抑うつエピソードのスクリーニングには「2質問法」に,もう1つ質問を追加する形で行うと良い.

2質問法:以下の質問のうち,1つを満たす
(1)この1カ月間,気分が沈んだり,ゆううつな気持ちになったりすることがよくありましたか?
(2)この1カ月間,どうも物事に対して興味がわかない,あるいはこころから楽しめない感じがよくありましたか?
うつ病の割合が5%の集団における感度96%,特異度57%,PPV(陽性反応予測値)11%.つまりいずれか1つが陽性である場合,うつ病である可能性が高いが高いが,特異度がかなり低い.このため,さらにもうひとつ質問を追加する.
(3)現在,それらに対して,助けが必要ですか?
これにより,感度はそのままに特異度が上がる.

また双極性障害に伴う頭痛の予防には,アミトリプチリンは使用しない(双極性障害に対する三環系抗うつ薬は躁転が多くなるというデータがあるため).

【片頭痛とさまざまな精神疾患は共存(Comorbidity)する】
片頭痛とさまざまな精神疾患の共存率は高い.片頭痛における精神疾患の共存については,うつ病に関してもっとも研究されており,6つの既報はいずれもオッズ比が約3である.反復性のうつ病では,前兆を伴わない片頭痛でオッズ比3.7,前兆を伴う片頭痛で5.6という報告がある.また不安症やパニック症患者においても片頭痛併存率は高い(後者では61.1%という報告がある).これらの症例では,片頭痛のみならず,共存する精神疾患の治療も必要となる.

【薬剤の使用過多による頭痛:medication overuse headache(MOH)と精神疾患】
うつ病,パニック症,双極性障害といった精神疾患患者ではMOH(とくに難治例)の併存リスクが高い.両者の併存で,患者のQOLが相乗的に低下する.MOHの難治例には境界性パーソナリティ障害の患者が多い.逆に難治のMOHをみたら,背景に何らかの精神疾患や境界性パーソナリティ障害がある可能性を考える.境界性パーソナリティ障害の特徴としては,感情不安定,衝動性,かんしゃく,自傷行為,過量服薬,頻回の救急受診がある.

【まとめ】
片頭痛と精神疾患は互いに親和性が高い.とくにうつ病や双極性障害において,頭痛はよく見られる症状であることを認識する必要がある.また片頭痛患者ではうつ病や双極性障害などのさまざまな精神疾患の共存を認める.難治例のMOHでは背景に精神疾患や境界性パーソナリティ障害がある可能性を疑う.結論として,頭痛診療において,精神疾患の見落としに気をつける必要がある.




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