Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

Twitter @pkcdelta
https://www.facebook.com/GifuNeurology/

プライマリーケア医が知っておくべき“治療可能な”2次性頭痛@第47回日本頭痛学会

2019年11月17日 | 頭痛や痛み
第47回日本頭痛学会(浦和)にて標題のシンポジウムを北海道大学矢部一郎先生とともに企画した.企画の理由は「もっと早く診断・治療ができたら良かったのに・・・」と思う二次性頭痛症例が少なからず存在するためだ.テーマとした疾患は,肥厚性硬膜炎,MELAS,脳アミロイドアンギオパチー関連炎症,自己免疫性脳炎,てんかん,慢性骨髄増殖性腫瘍と本学会のシンポジウムではほとんど議論がなされたことのないものだ.以下の点を認識する必要がある.

【認識すべき点】
① 肥厚性硬膜炎,MELAS,NMDA受容体抗体脳炎,真性多血症・本態性血小板血症は片頭痛様頭痛を呈しうる.
② MELASでは誤診によるトリプタンの使用で,脳卒中を来しうる.
③ 慢性骨髄増殖性腫瘍である真性多血症・本態性血小板血症に伴う頭痛は正しく診断し,アスピリンを使用すると著効する.


【各疾患のポイント】
A.肥厚性硬膜炎の頭痛:
慢性の強い連日性頭痛が主体だが,一部は前兆を伴う片頭痛に類似した頭痛を呈する.日本人に多いMPO-ANCA陽性例は硬膜に限局するのに対し,PR3-ANCA陽性例は軟膜にも及び,頭痛が重篤となるほか,脳神経麻痺等,多彩な症状を呈する.

B. MELASの頭痛:
片頭痛様の頭痛を呈する.診断を誤ってトリプタンが使用され,脳梗塞を来たした症例が報告されている(トリプタンは禁忌である).片頭痛患者で,既往歴,家族歴に糖尿病,難聴,卒中様発作,低身長,筋力低下があれば,(半年以内に保険収載され測定が可能となる)ミトコンドリア病診断マーカーGDF15(感度,特異度98%)を測定し,MELASを除外する.治療としてL-アルギニン療法が有効である.急性期ステロイドパルス療法は増悪を招くため行わない.

C.アミロイドアンギオパチー関連炎症の頭痛:
56%で頭痛を合併する.そのほか,認知機能障害,異常行動,痙攣を呈する.頭部MRIで大脳白質の異常信号,造影病変,髄液細胞数増多,蛋白上昇を認める.微小なクモ膜下出血ないし血管炎症が頭痛の原因と議論されている.

D.自己免疫性脳炎の頭痛:
自己免疫性脳炎のなかで頭痛を呈するのはNMDA受容体抗体脳炎である.前駆期に片頭痛様の頭痛を合併し,頭痛単独でも発症する.NMDA受容体は皮質拡延性抑制(CSD)に関わることから,抗体はおそらく頭痛を抑制する方向に作用している!頭痛の機序には無菌性髄膜炎が関与するという説がある.

E.てんかんの頭痛:
3つのタイプがあり,片頭痛前兆により誘発される痙攣発作(いわゆるICHD-2のmigralepsy),てんかん性片側頭痛(hemicrania epileptica),てんかん発作後頭痛(post-ictal headache)に分類できる.てんかんと頭痛には類似した特徴があり,視覚性前兆(ただし様式は異なる),抗てんかん薬(VPA,TPM,LEV,GBP)が有効であるといった点は共通する.

F.慢性骨髄増殖性腫瘍の頭痛:
JAK2V617F遺伝子変異に伴う真性多血症(PV)や本態性血小板血症(ET)は,約半数に片頭痛様頭痛を合併する.閃輝暗点も合併し,片頭痛との鑑別が難しい.病態としては血小板の活性化・凝集が指摘されており,治療もアスピリンが著効する.

多くの学会員が参加してくださり,有意義なシンポジウムだったとの感想をいただき,とても嬉しく思った.講師の先生方,どうもありがとうございました.

【講師の先生方】
血管炎・肥厚性硬膜炎 河内泉先生(新潟大学脳神経内科,総合医学研究センター)
MELAS 古賀靖敏先生(久留米大学医学部小児科)
脳アミロイドアンギオパチー関連炎症 坂井健二先生(金沢大学脳神経内科)
自己免疫性髄膜・脳炎 木村暁夫先生(岐阜大学脳神経内科)
てんかん発作による頭痛 高橋牧郎先生(大阪赤十字病院脳神経内科)
慢性骨髄性腫瘍と頭痛 長井弘一郎先生(日本医科大学脳神経内科)










この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« マギル大学臨床教育研修 “Te... | TOP | 進行性核上性麻痺の臨床診断... »
最新の画像もっと見る

Recent Entries | 頭痛や痛み