Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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レビー小体型認知症に対するドネペジルの効果:フェーズ2ランダム化比較試験

2012年08月01日 | 脳血管障害
レビー小体型認知症(DLB)はアルツハイマー病に続く2番目に頻度の高い認知症である.変動する認知機能障害に加え,パーキンソニズムや,幻覚・妄想といった神経精神症状を合併する点が特徴的である.さらに薬物過敏性も認め,治療薬剤によっては逆に症状の悪化・副作用を招くことがある.具体的には向精神薬に対する過敏反応や,抗パーキンソン病薬による幻覚の増悪等が問題になる.治療には難渋することが多く,介護者の負担も大きい.

DLBにおける認知機能障害,神経精神症状にはコリン作動性神経系の変性が関与すると考えられている.アルツハイマー病と異なりシナプス前の障害が考えられており,シナプス後のムスカリンおよびニコチン受容体は保たれていることから,アルツハイマー病で臨床応用されているコリンエステラーゼ阻害薬が有効である可能性がある.事実,症例報告やオープンラベル試験レベルで有効性が示唆されている.しかしエビデンスはリバスチグミンのランダム化比較試験(RCT)1つ,メマンチンのRCT 2つのみで,かつ試験結果も一定していない.

今回,レビー小体型認知症に対するドネペジル(商品名アリセプト)の効果を検証するフェーズ2探索的臨床試験(ランダム化二重盲検比較試験)が日本において行われ,Ann Neurol誌に報告された.非常に結果が期待されていた臨床試験である.

まず方法としては,2007年10月から2010年2月までの間に,日本の48施設から140名のDLB患者を集積し,偽薬群,ドネペジル3 mg群,5 mg群,10 mg群に割りつけ(各群順に35名,35名,33名,37名),2週間の観察期間を置いたのち,12週間の観察を行った(認知症発症の少なくとも1年前にパーキンソン病と診断された症例や,消化性潰瘍,気管支喘息・閉塞性肺疾患,低血圧,重症不整脈などドネペジルを使用しにくい症例は除外されている.さらに重症パーキンソン病Yahr4度以上は除外.観察期間中,L-dopaないしドパミンアゴニスト以外の薬剤治療は不可).治療症状の標的となる指標を明らかにするため,とくに主要評価項目は定めず,種々の指標を評価した.認知機能の効果はMini-Mental State Examination(MMSE)にて判定し,その他,複数の神経心理学的検査を施行した.行為への影響についてはNeuropsychiatric Inventoryを,介護者の負担についてはZarit Caregiver Burden Interviewを用いた.さらに全般的臨床症状の評価はClinician's Interview-Based Impression of Change-plus Caregiver Input(CIBIC-plus)を使用した.Unified Parkinson's Disease Rating Scale part IIIにてパーキンソン病への影響を確認した.

さて結果であるが,ドネペジル5 mgおよび10 mgは,認知機能(MMSE)を偽薬より有意に改善した.具体的には,5mgでは平均3.8の改善(95%信頼区間2.3-5.3;p < 0.001).一方,10 mgでは平均2.4の改善(95%信頼区間0.9-3.9;p = 0.001)であった.またCIBIC-plusも5 mgおよび10 mgともに有意に改善した(ともにp < 0.001).しかし3 mgではCIBIC-plusを改善したが(p < 0.001),MMSEでは有意ではなかった(p = 0.017).さらに行為(幻覚・妄想といった神経精神症状)に関する評価では5 mg,10mgとも有効で(p < 0.001),介護者への負担は10 mgで有意に改善した(p = 0.004).安全性についてはドネペジルに関する既報の通りの結果であり,各群間で同程度であった.

以上より,<font color="blue">ドネペジル5 mgないし10 mgは,少なくとも12週間の期間において,認知機能,行為,全般臨床症状を改善し,高用量の10 mgは介護負担を軽減した.またパーキンソン症状を悪化させず,安全性についても問題はなく,良好な耐用性を示した.

研究の問題点として,主要評価項目がないこと,症例数がまだ少ないこと,施設によっては1-2名の症例のみで評価者間不一致が問題になりうること,経過観察期間が短いことがあげられる.しかし,本研究は,ドネペジルはDLBに対し非常に有望な薬剤であることを示しており,今後の多数例での長期間の評価の結果が待望される.

Ann Neurol. 2012;72:41-52.

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