Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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低血糖脳症に対する神経保護薬開発の取り組み

2012年08月01日 | その他の変性疾患
昨日(2004年7月31日付け)の日経新聞朝刊で,低血糖脳症の治療薬開発を目指した新潟大学脳研究所神経内科の取り組みを取り上げていただきました.

低血糖脳症は極度に血糖値が低下すると発症します.原因はインスリン注射や血糖降下薬内服など,糖尿病治療薬の誤用が多いですが,下痢や食事量低下,アルコール依存症,拒食症,インスリン産生腫瘍などでも生じます.血糖値の正常値は空腹時であれば,100~110 mg/dl未満ですが,これが低下し,60mg/dL前後になると空腹感,ふるえ,動悸,冷や汗が出現します.さらに低下すると,頭痛,目のかすみ,思考力低下などが出現し,30mg/dL以下では意識障害を来たし,場合によっては昏睡,死に至ることがあります.

注意すべき点として,高齢者や低血糖発作を繰り返している患者さん,重度の糖尿病性自律神経障害のある患者さんでは,上記のような低血糖症状が乏しく,突然,意識障害を呈することがあります.

治療は多くの場合,上記の症状に気がつき,早めに糖分を摂取したり,重篤でも病院にてブドウ糖の静脈注射をすれば症状は改善します.しかし低血糖の程度が高度であったり,発見されず長い時間放置されてしまった場合には,運動麻痺,認知機能低下などの後遺症を引き起こすこともあります.また後遺症が明らかでなくても,重い低血糖症状を繰り返すと,回数の増加に従い,認知症の発症リスクが増加することも判明しています(Whitmer et al. JAMA 2009).糖尿病患者数は,今後さらに増加することが予測され,また糖尿病治療ではより厳密な血糖値コントロールが推奨される風潮がありますので,低血糖脳症患者さんは増加すると考えられています.

しかし残念ながら低血糖脳症の治療薬はブドウ糖のみで,その他,神経を保護する薬剤はありません.また重要な疾患であるにもかかわらず,世界的に見てもあまり治療薬開発に向けての研究が行われていない領域でもあります.

新潟大学脳研究所神経内科の脳循環代謝チームでは,以前より低血糖脳症の臨床研究を行なっており,並行して治療薬の開発を目指した基礎研究も行なっております.今回,報道していただいたのは低血糖脳症の治療薬の効果を判定する新しい研究モデルを作成し,ブドウ糖静脈注射後に脳内において生じる酸化ストレスをAlda-1という薬剤で抑制したというものです(低血糖に伴う低エネルギーはブドウ糖や乳糖により補うしかないですが,ブドウ糖投与時に生じる酸化的ストレスによる二次的な神経細胞変性をある程度抑制するものと期待しています).神経を保護する薬剤の開発に向けてまだスタートを切ったばかりですが,この領域の治療薬に関心にある方々と協力し,治療薬の開発実現を目指してまいりたいと思います.


新潟大学新技術説明会(2012年6月5日)での発表
(産学連携,共同研究など関心のある方はご参照ください)

新潟大学脳研究所神経内科脳循環代謝チーム(もしよろしければ「いいね」お願いします!)

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