Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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脳神経内科における燃え尽き症候群の状況(アンケート結果を踏まえて)

2020年09月06日 | 医学と医療
2020年9月2日,第61回日本神経学会学術大会@岡山において,シンポジウム「働き方改革:今,必ず押さえるべきこと」が行われ,武田篤先生(国立病院機構仙台西多賀病院),三澤園子先生(千葉大学)の座長のもと,下記の3つの講演が発表されました.

① 脳神経内科の状況(燃え尽き症候群のアンケート結果を踏まえて):下畑享良(岐阜大学)
② 女性脳神経内科医における働き方の現状と課題(バーンアウトのアンケート結果から見えてきたもの):饗場郁子先生(国立病院機構東名古屋病院)
③ 医師の働き方改革を巡る医療現場の実際:小野賢二郎先生(昭和大学)

私は以下のことを解説しました.
◆ 米国神経学会の燃え尽き症候群に対する取り組みは,2014年から開始され,主に医師のQOL改善,リーダーシップ教育,政治への働きかけの3つが行われていること.
◆ 日本神経学会も2018年から本邦における先駆的な取り組みを開始し,臨床系の学会としては初めて全学会員に対するアンケート調査を行った.この結果,自覚的バーンアウトは「なりそうなことがあった」も含めると 49.7% に認められ,20~40歳代で多く,その54.8% が複数回の経験をしたこと.しかし脳神経内科医は個人的達成感が高く,これがバーンアウトに対して抑制的に働いている可能性があること.
◆ 燃え尽き症候群の対策として,個人レベルでは労働負荷減少のみでなく,個人的達成感につながる仕事の質の向上を目標とする必要があること.組織,国レベルでは,働き方改革を着実に進めることが医師のバーンアウトの抑制につながるため,学会によるバーンアウトへのさらなる取り組みが求められていること.
◆ COVID-19の脳神経内科医療への影響を検討し,対策を迅速に打ち出す必要があること.


また饗場郁子先生は2018年に日本神経学会の神経内科女性専門医623人より回答を得たアンケート結果をもとに以下のことを解説されました.
◆ 女性脳神経内科医は年齢にかかわらず,週50〜60時間働き,特に年代の中で最も多い30〜40代の育児・家事労働負担が大きいこと.
◆ 脳神経内科女性専門医の64%が一つ以上のバーンアウトの症状を自覚的に経験し,バーンアウトを経験した約2割が休職・転職・退職していたこと.これは大きな損失であること.
◆ 日本神経学会の未来を見据え,女性脳神経内科医が活躍できるよう,個人,施設,政府レベルでの介入と共に学会マターとして継続的な取り組みが必要であること.

さらに小野賢二郎先生は,昭和大学病院で,2017年4月より先駆的に開始されたワーク・ライフ・バランスの実現のための医師の時間シフト制を紹介されました.
◆ 月単位で医局員が勤務時間を希望し,診療科長がシフトを組み,またエクセルの勤務実績を個々で入力して,クラウド上で全員が閲覧可能とした.
◆ この結果,医局員の勤務状況が日単位で把握できるようになり,時間外勤務の管理が行いやすくなった.子供を持つ女性医師にとって仕事と家庭の両立がしやすくなった.また,全体として時間外勤務の短縮につながったこと.
◆ 問題点としては業務が停滞しないだけのバックアップと人員確保が必要であること,医師の仕事は臨床業務にとどまらず,教育,研究もあげられるが,それらをどう扱うかが重要であること.

フロアからの意見や議論としては以下がありました.
◆ 脳神経内科医における燃え尽き症候群の一面だけ捉えられて誤解をされないようエビデンスを示す必要があり,その意味で今回の全学会員のアンケート調査とその論文化の意義は大きい.また他の学会とも連携して診療科間の比較を行う必要がある.
◆ 組織における燃え尽き症候群対策として,リーダーシップ教育を早急に開始すべきこと.
◆ 若手医師に大きな影響を及ぼしている内科専門研修プログラムの功罪について検討すべきであること.
◆ 医師の時間シフト制が各医師におけるモチベーションの向上につながるかの評価は必要である.

上述したようにアンケート論文の第1報が投稿中で,男女差について議論した第2報が現在作成中です.それらを踏まえた提言を行うこと,リーダーシップ教育を開始することが次の目標です.


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