Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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認知症の脳を観る(日本認知症学会学術集会@横浜)

2014年12月01日 | 認知症
第33回日本認知症学会学術集会が横浜で行われた.新潟大学脳研究所病理学の高橋均教授による「認知症の脳を観る」という特別講演がとくに印象に残った.非常に示唆に富むご講演であったが,とくに重要な点は以下の2点のように思われた.

1)認知症は加齢に伴い出現する疾患であるため,加齢を克服するぐらいの意気込みで研究をしなければいけない!

神経細胞は1秒間に1~2個,1日に直すと8万6400個~17万2800個も減っていく.これが脳の加齢である.この他にも,老人斑や神経原線維変化も出現する.これらは正常でも起こるし,病的に増えるのがアルツハイマー病(AD)である.ADでは運動皮質では軽度で,海馬で高度という特徴がある.1994年のNeurology誌のeditorialに書かれたIf we live long enough, will we all be demented? という有名な質問があるが,この答えはyesだと思う.ADに限らず,すべての認知症を来す疾患は,加齢と密接なつながりがあるのだろう.

2)剖検から様々なことを学ぶことができる.剖検例を増やし,学問をさらに発達させるべきだ!

多数の認知症患者さんの病理所見を通して,臨床から背景病理を予測することがいかに難しいかを示していただいた.以下,具体例を示す.

・ Corticobasal syndrome(CBS)の臨床診断で,剖検はAD.通常のADと異なり,一番傷害されているのは運動皮質で,海馬は軽かった.
・ DLBの臨床診断で,剖検はやはりAD.一番傷害されているのは運動皮質で,グリアにtauがたまっているという点が極めて非典型的だった.
・ 認知症はないにもかかわらず,Pick小体が見られた症例を経験した.
・ 進行性核上性麻痺(PSP),大脳皮質基底核変性症(CBD)のような4R tauopathyは各々,tufted astrocyteとastrocytic plaqueを病理学的特徴とする.両者は共存することはないと言われるが,共存した症例を2例経験した.
・ FTDとUpper MNを主徴とする症例で,astrocyteにglobular astrocytic inclusion(Gallyas染色では染まらない)を認めた.
・ ALSD(ALS+dementia)症例で,astrocyteがtau, TDP43dで染まり,globular astrocytic inclusionを認めた(ALSではアストロサイトにTDP43が蓄積することはない).
・ FTDやPick病で,運動症状を認めなくても,運動ニューロンにTDP43が蓄積する症例を経験した.

臨床と病理は従来考えられてきたほど単純なものではない.しかし,将来,病態特異的な治療法を行うには,これを克服することが不可欠で,そのためにも剖検脳を用いた病理・生化学的解析は必要である.

さて,高橋教授がご講演の最初に出されたスライドは,脳研究所ではとても有名な写真である.昭和46年6月に撮影されたもので,亡くなった患者さんの脳を肉眼的に検討するブレインカッティングの様子だ(ブレインカッティングは,今も脳研究所で行われている).中央が中田瑞穂初代所長,その右隣で覗き込んでおられるのが植木幸明脳外科教授,左で標本を説明しているのが前神経病理学教室教授(現新潟大学脳研究所名誉教授)の生田房弘先生である.脳の研究に取り組む先達の姿を見て,身の引き締まる思いがする.このような学問の積み重ねが現在につながっているのであり,今後もつなげていく必要がある.

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