Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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ついに繋がった,アミロイドβとタウとApoE ―鍵はミクログリアの脂肪滴にあった―

2024年03月24日 | 認知症
アルツハイマー病(AD)における遺伝的危険因子として,ApoEをはじめとする脂質代謝に関わる遺伝子が知られています.これらの遺伝子の多くはグリア細胞で高発現しています.しかしグリア細胞における脂質代謝がADにはたす役割は十分に解明されていません.Nature誌にこの問題をほぼ解明したように思われる論文がスタンフォード大学から発表されました.

まずAD患者(ApoE4/E4ないしE3/E3のいずれか)の脳組織を用いてsingle cell RNA sequencingを行い,単一の細胞でどのタンパク質が作られているかを検討しました.この結果,ApoE4/4を持つ患者のミクログリアにおいて,ACSL1 (Acyl-CoA Synthetase Long Chain Family Member 1)の発現が高いことが分かりました(図1cd,図2).このACSL1は遊離脂肪酸からAcyl-CoAを介して脂質滴を生成する酵素です(図1e).





この脂肪滴は,20世紀初頭,ドイツのアロイス・アルツハイマー博士によって初めて指摘されたものですが,その後,あまり議論されることはありませんでした.興味深いことにこの脂肪滴はApoE4/E4患者で増加していました(図3)



つぎにApoE4/E4患者のiPS細胞由来のミクログリアを培養しました.ここに線維性Aβを添加するとACSL1が発現し,トリグリセリドが合成され,脂質滴の蓄積が誘導されました(ACSL1以外の脂肪代謝に関わる分子や炎症に関わる分子も発現).つまりADで指摘されてきた脂肪滴を有する細胞は,ACSL1 陽性ミクログリアでした.さらにこの細胞の培養上清を培養神経細胞に加えるとタウのリン酸化が生じ(図4),細胞死を引き起こしました.また,脂肪滴をもつミクログリアの数と AD の症状とが比例することから,ミクログリアでの脂肪滴生成が AD の進行を決めると著者等は結論づけました.



以上より「ApoE4→ミクログリアACSL1→脂肪滴形成→LDL粒子の分泌→神経細胞への取り込み→タウリン酸化→神経変性」という分子経路があり,これに治療介入できれば,ADの発症を抑制できる可能性が出てきました.現在のレカネマブのようなAβ抗体が,脳アミロイドアンギオパチーを来たして,すでに老廃物除去システムが破綻している脳血管にさらなる負担をかける,もしくは血管壁Aβを引き剥がすリスクがあることを考えると,別の治療アプリーチも模索すべきと思われます.その一つとしてより早期の「ApoE4→ミクログリアACSL1→脂肪滴形成」を標的にした治療を検討すべきと思います.例えば脂肪滴形成に関与することが知られるPI3K(ホスファチジルイノシトール3キナーゼ)の阻害剤が創薬標的になる可能性があります.
Haney MS, et al. APOE4/4 is linked to damaging lipid droplets in Alzheimer’s disease microglia. Nature (2024). https://doi.org/10.1038/s41586-024-07185-7
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