Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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旧日本軍の毒ガス兵器に由来する神経障害

2004年11月06日 | その他
三塩化砒素誘導体でフェニル基を持つdiphenylchloroarsine(DA),およびフェニル基とシアンを持つdiphenylcyanoarsine(DC)は,嘔吐・くしゃみ性ガスとして知られ,とくにDCは旧日本軍が日中戦争中使用した赤筒(あか1号)として知られている(毒ガスとして使用する目的で製造.くしゃみ剤・嘔吐剤として使用された). DCに曝露されると,眼や粘膜の刺激,鼻汁,くしゃみ,咳,頭痛,吐き気など示すが,曝露から隔離されれば,30分から2時間で回復する.またdiphenylarsinic acid(ジフェニルアルシン酸; DPAA)は,DCの代謝産物である.
茨城県神栖町の井戸水から旧日本軍の毒ガス兵器に由来すると見られる高濃度の有機ヒ素化合物が検出されたが,その神経症状に関する調査結果が報告された.調査対象は,水質基準の450倍のヒ素が検出された井戸水を使用していた住民のうち,11家族32人(うち30人が協力).神経症状としては,小脳症状(失調歩行,構音障害,titubation),振戦(上肢)が主徴で,そのほか,筋力低下,体重減少,ミオクローヌス,記憶障害,睡眠障害(不眠・悪夢),視覚障害が認められた.また7人の子供のうち4人が精神発達遅延を呈し,1歳半と4歳の幼児にはMRI上の脳萎縮が確認された.
旧日本軍の毒ガスは戦後50年以上経った今も新たな健康被害や環境汚染をもたらしているのだと認識した.日本各地にはいまだ多くの化学兵器剤が埋蔵されているとも言われており,同様の神経症状を呈する場合には鑑別診断としてDPAA中毒の可能性も考える必要がある.

Ann Neurol 56; 741-745, 2004
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