Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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本当にパーキンソン病においてレストレスレッグス症候群の合併は多いのか ―どうもNoらしい―

2011年12月13日 | パーキンソン病
パーキンソン病(PD)とレストレスレッグス症候群(むずむず脚症候群;RLS)は,臨床症候はまったく異なる疾患であるが,ドパミン系を刺激する薬剤が有効であるという共通点がある.近年の研究の結果,「特発性RLSを罹患することは,将来,PDを発症する危険因子ではない」と考えられている.一方,「PDでは健常者と比較し,RLSの有病率が高い」という報告が世界各国より相次いだ.PD患者におけるRLSの有病率を紹介すると,アジアでは3~16%,ヨーロッパでは11~24%,米国では約20%と報告されている.しかし,この理由については議論があり,単純にPDでは症状としてRLSを合併しうるという可能性と,L-DOPAやドパミンアゴニストを内服した結果,augmentation(決まった日本語訳はないが,薬剤を内服しているうちにむずむず症状が増強してくる現象)が生じ,潜在的なRLS患者が症状を呈するようになる可能性の2つが指摘されている.いずれが正しいのか明らかにするためには,抗パーキンソン病薬の影響の除外が不可欠であり,抗パーキンソン病薬内服開始前の症例を対象として,RLSの頻度を検討することが有用と考えられる.しかし既報の研究はいずれも進行期の症例を対象としたため,すでに抗パーキンソン病薬を内服している症例を対象とした報告であった.今回,紹介するノルウェーからの論文は,抗パーキンソン病薬内服前の患者と,年齢・性別をマッチさせた対照群におけるRLSの有病率の頻度と,その影響因子を検討したもので,上記問題に重要な示唆を与えるものである.

方法は,抗パーキンソン病薬未服用のPD症例200名と,173名の対象群に対して,むずむず症状に関する問診・診察,血液検査を行った.対象は全例白色人種であった.RLSの診断はIRLSSGの診断基準(urge to move legs, worse at rest, worse at night, motor reliefの4項目のすべてを満たす)に従った.またurge to move legs(下肢の不快感により,下肢を動かしたいという衝動を呈する状態)を認めるものの,診断基準を満たさない場合をleg motor restlessness(LMR)と定義し,これについても検討した(この点がこの論文のミソである).

さて結果であるが,PD群では対象群と比較し,LMRの頻度が有意に高かった(81名,40.5% 対 31名,17.9%;p < 0.001).次にRLSの診断基準を満たした症例については,PD群で対照群と比較し多かったが(31名,15.5% 対 16名,9.2%),有意差は認めなかった(p = 0.07).RLSの診断基準を満たした症例からRLS mimics症例(RLSに似た症状を呈しうる他の疾患が原因である症例のこと;例えば,抗うつ薬・抗精神病薬内服,フェリチン低値,ポリニューロパチー,神経根症,関節炎など)を除外すると,RLSはPD群で21名(12.5%),対照群で12名(6.9%)となり,やはり有意差を認めなかった(p = 0.08).このことから2つの疾患は偶然合併したという結論になる.またLMRについてはPD群で26名,対照群で10 名という結果になった.RLSに関しては,PD罹患は相対危険度は1.76(95% 信頼区間;0.90-3.43, p = 0.089)で有意差なし,しかしLMRについては2.84(95% 信頼区間;1.43-5.61, p = 0.001)で有意差が見られた.PD症例で,RLSないしLMRを認める群と認めない群を比較すると,睡眠障害やうつは有意に多かったが,血液検査や運動症状,認知機能に関しては差を認めなかった.以上より,薬剤非内服の発症初期PD症例は対照群と比較し,RLSの危険率には有意な増加は見られないが(!),LMRについては危険度がほぼ3倍増加することが分かった.


ではなぜRLSには差がないにもかかわらず,LMRでは差が生じたのか?つまり,この乖離は,RLSとLMRは同一のものではないということを示唆する(同一であれば,RLSも増えるはず).つまり可能性として,LMRの原因はRLSとは限らず,PDに伴う下肢の異常感覚やアカシジアが含まれているのではないかということになる.PDに伴う異常感覚(paresthesiaやdysesthesia)はoff時に起こり,内服によるon時に軽快する特徴がある.すなわち,筋トーヌス亢進や痛みに対するドパミン作動性の制御が病態に関与している可能性が指摘されている.事実,進行期PDにおけるRLS有病率を研究したオーストリアからの報告では,RLSを認める症例の61%では,urge to move legsと異常感覚はoffに生じていた.すなわち,wearing offを認める症例のurge to move legsや異常感覚は,offで動けないことによりRLS症状が増悪する可能性(worse at rest)と,RLSとは無関係のPDに伴う異常感覚がoff時に増悪した可能性の両者があるわけである.両者の鑑別は難しいが,RLSでは特徴的な行動(動きまわるなど)を示すため,ビデオモニタリングが鑑別に有用である可能性はある.

Increased risk of leg motor restlessness but not RLS in early Parkinson disease. Neurology 77; 1941-1946, 2011

http://www.neurology.org/content/77/22/1941.abstract

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