Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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小脳型進行性核上性麻痺(PSP-C)の画像所見の経時変化

2011年12月10日 | その他の変性疾患
近年,病理学的に診断が確定した進行性核上性麻痺(progressive supranuclear palsy: PSP)の臨床像が詳細に分析され,臨床病理学的に分類する試みが行われている.その結果,非定型的PSPは,‘cortical predominant’atypical PSPと‘brainstem predominant’atypical PSPに大別できる可能性が提唱されている(Dickson DW, et al. Curr Opin Neurol 2010;23:394-400.).われわれは病理学的に診断が確定した日本人PSP症例22名の臨床像を検討し,病初期から小脳症状を認め,かつ主徴とする一群が少なからず存在することを報告した(Mov Disord. 2009 Jul 15;24:1312-1318.).

この小脳症状を呈するPSP亜型は,欧米においてはきわめてまれである.一方,日本においては自験例を含め,少なくとも21例が症例報告されている(学会発表抄録を含む).21例の臨床像を検討すると,①男性に多いこと,②罹病期間はさまざまであること,③失調歩行を呈する症例が多いが,四肢失調を呈する症例も存在すること,④四肢失調に左右差を認める症例が存在すること,⑤ミオクローヌスを合併する症例が存在することが特徴である(Annual review神経2012, in press).病理学的には私どもが報告した小脳皮質のプルキンエ細胞のタウ陽性顆粒状封入体のほか,歯状核や上小脳脚の変性などが報告されており,これらの所見が小脳症状の出現に関与するものと推測される.一方,画像所見については,とりわけ経時変化に関する報告は乏しい.もし小脳型PSPの画像所見の特徴が分かれば臨床診断に役に立つ可能性もある.今回,小脳型PSPと診断した1例のMRIの経時変化を報告をしたので紹介したい.

症例は歩行時のふらつきにて発症した70歳代の男性.発症1年後の神経学的所見では,四肢・体幹失調を認めたが,MRIでは明らかな小脳や中脳の萎縮は認めなかった(臨床的に脊髄小脳変性症と診断された).頻回に転倒するようになった発症2年後のMRIでは,橋小脳槽の拡大,上小脳脚の萎縮を認めた.4年後では,さらに橋小脳槽の拡大が進行したが,第4脳室の顕著な拡大はなかった.PSPに特徴的な中脳被蓋の萎縮(humming bird sign)を認めたが,小脳・脳幹の信号変化はみられなかった.剖検では,歯状核の高度の変性所見とプルキンエ細胞内のタウ陽性構造物を認めた.

今回,報告した症例のMRIの特徴は,第4脳室の顕著な拡大を認めないものの,小脳・脳幹はproportionalに萎縮し,橋小脳槽が経時的に拡大していた.類似の画像所見は本邦の既報(饗場ら.神経内科 2002;56:230-233)と類似していた.以上より,まず脊髄小脳変性症が疑われながら小脳萎縮がないとき,PSPは考えるべき鑑別診断の1つであるといえる.そして橋小脳槽拡大がPSP-Cと脊髄小脳変性症の鑑別のポイントになるかもしれない.ただし,高度のOPC病変を反映し,脊髄小脳変性症類似の第4脳室拡大を呈する症例の報告もあり,画像所見は単一ではない可能性もある.今後,多数例での検討を行う必要がある.

また今回の論文では小脳型PSPをPSP-Cと記載し認めていただくことができた.今後,日本発のこのような病型をPSP-Cと呼称することを提案したい.

Masato Kanazawa, Takayoshi Shimohata, Kotaro Endo, Ryoko Koike, Hitoshi Takahashi and Masatoyo Nishizawa. A serial MRI study in a patient with progressive supranuclear palsy with cerebellar ataxia. Parkinsonism and Related Disorders: 10.1016/j.parkreldis.2011.11.011 


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