Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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熱ショック蛋白と運動ニューロン; 新しいシャルコー・マリー・トゥース病

2005年08月18日 | 末梢神経疾患
Charcot-Marie-Tooth病(CMT)は進行性の四肢遠位部の筋萎縮と筋力低下を主徴とする遺伝性末梢神経疾患で,電気生理学的所見および神経病理学的所見によって二つのタイプに大別され(CMT1およびCMT2;伝速は38m/dsを境界とする),さらに原因遺伝子の種類に基づいて種々のサブタイプに分類されている.このうち末梢ミエリン蛋白PMP22をコードする遺伝子の異常に関係するものはCMT1Aと呼ばれ,欧米ではCMT全体の半数以上を占める.次いでCMT1X(connexin 32 mutation),myelin P0 mutationの頻度が高い.CMTは臨床的にも遺伝学的にも極めてheterogeneousな疾患であり,これまで分かっているだけで18の原因遺伝子が知られている.
今回,取り上げるのは軸索型CMT(CMT2)のひとつCMT2Fである.2001年に優性遺伝を呈する6世代に及ぶCMT2家系がロシアから報告された.14名の患者が同様の表現型を呈し,発症年齢は15~25歳.下肢優位の筋萎縮・筋力低下を示し,foot dropやsteppage gaitが認められた.上肢の症状は数年遅れて出現する.感覚障害も認められるが,進行は緩徐で,life spanがこの疾患により短縮することはない.遺伝子座が7q11-q21と判明し,2004年には原因遺伝子heat-shock protein 27(HSP27)が判明した(Nature Genet. 36: 602-606, 2004).実はこのHSP27は損傷を受けた末梢神経の生存に必要であることが2002年に報告されていた(Hsp27 Upregulation and Phosphorylation Is Required for Injured Sensory and Motor Neuron Survival Neuron, 36, 45-56, 2002)
 さて,今回,中国からCMT2Fの頻度に関する研究が報告されている.互いに関連のないCMT患者114例について遺伝子診断を行い,C379Tというこれまでに報告のない変異を4家系において認めた(患者数で計算した頻度は0.9%).ハプロタイプ解析の結果から,これら4家系における創始者効果の存在が示唆された.臨床像については比較的高齢発症(36-60歳)であり,従来の報告例と異なっていた.結論としては中国では頻度の高いCMTではない,ということになる.
ではHsp27はどんな働きをしているのであろうか?HSP27は多くの組織で普遍的に発現しており,熱ショックや各種サイトカインの刺激に反応して MAPKAPK-2 によりリン酸化される.通常は8~40個のモノマーHsp27 からなるオリゴマーとして存在しており,分子シャペロンとして働く.さらにHSP22とともにneurofilamentの重合に関与したり(HSP22変異も優性遺伝性の末梢神経障害を来たすことが報告されている),cytochrome c依存的にprocaspase-3の活性化を抑制するという機能も見出されている(アポトーシスカスケード抑制).またグルタチオンの産生を促し,細胞の酸化ストレスに対する防御機構にも関与しているとされる.いずれがCMT2の発症に重要なのか分からないが,neurofilament light chainの遺伝子変異で同じCMT2が生じることを考えると(CMT2E),おそらくneurofilamentの重合障害が病態機序として重要なのであろう.いずれにしても,答えはHSP27 transgenic mouseを作り,その病理像を見れば分かるはずである.今後の展開として気になるのはHSP27の運動神経保護作用であり,ALSでHSP27がどうなっているか,また遺伝子治療など治療応用が可能かということであろう(PubMedを見たところ,すでにSOD1 Tg miceでHSP27がup-regulateされているという論文と,同マウスをHSP27で遺伝子治療したという論文があった).

Arch Neurol 62; 1201-1207, 2005
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