今回のキーワードは,新規抗ウイルス薬パキロビッドは多くの併用薬剤に影響を与える,long COVIDの神経・精神症状の有病率は高く,とくに精神症状は時間の経過とともに増加する,11~17歳の青年においても感染3ヵ月後の評価でlong COVIDを認める,子供へのワクチン接種の推奨と,子供を対象とする臨床試験の実施が必要である,です.
一昨日,厚労省は,ファイザーの抗ウイルス薬パキロビッド(パクスロビド)を特例承認したと発表しました.軽症者向け内服薬の承認は,メルクの「モルヌピラビル」についで2つめです.日本でもすでに約4万人分が納入済みで,早ければ14日から医療現場に供給を始めると報道されています.ただし重要な問題があります.本剤(nirmatrelvir錠/リトナビル錠併用)は,リトナビルでCYP3Aにおける薬物代謝を阻害して薬剤の血中濃度を保つ薬剤であるため,CYP3Aで代謝される薬剤の血中濃度をほとんどの場合で上昇させます.代表的な薬剤はカルシウム拮抗薬,スタチンですが,とても多くの薬剤が影響を受けます.このため併用薬の確認は厳密に行う必要があります.
その他,今回ご紹介する論文はいずれもlong COVIDに関するものです.小児にもlong COVIDが生じる可能性を議論する論文が複数出ています(図1).とくにNature誌は,小児は重症化しにくいと言って,小児におけるワクチン接種を推進せず,感染拡大を容認する国々に対して厳しい批判を行っています.
◆long COVIDの神経・精神症状の有病率は高く,とくに精神症状は時間の経過とともに増加する.
成人のLong COVIDに関するメタ解析が報告された.発症後3~6か月(中期)および6か月以上(長期)で比較を行った.2020年1月~2021年8月に発表された1458論文のうち,19論文(患者数1万1324名)が対象になった.神経症状の有病率は,疲労37%,ブレイン・フォグ32%,記憶障害27%の順に多く,さらに注意障害22%,筋痛18%,嗅覚障害12%,味覚障害11%,頭痛10%と続いた.精神症状は睡眠障害31%,不安23%,抑うつ12%の順に多かった(図2).
また精神症状は,中期と長期の比較で,いずれも時間経過とともに有病率が大幅に増加した(図3).
入院した患者は,入院していない患者と比較して,感染後3カ月,またはそれ以上経過した時点で,嗅覚障害,不安,抑うつ,味覚障害,疲労,頭痛,筋痛,睡眠障害の有病率は減少した.しかし入院は記憶障害の頻度が高いことと関連した(オッズ比1.9).以上より,long COVIDの主要な神経症状は,疲労,認知障害(ブレイン・フォグ,記憶障害,注意障害),睡眠障害で,精神症状の頻度も高い.さらに経時的に増加する.これらを改善する治療を確立するためのランダム化比較試験が求められる.
J Neurol Sci. 2022 Jan 29;434:120162.(doi.org/10.1016/j.jns.2022.120162)
◆11~17歳の青年においても感染3ヵ月後の評価でlong COVIDを認める.
ロンドンから,非入院の青年におけるlong COVIDを検討したCLoCk研究が報告された.2021年1月から3月の間にPCR陽性となった11~17歳の青年で,質問表に回答した3065人と,陰性の3739人と比較した.それぞれ1084名(35.4%)および309名(8.3%)に症状があり,かつそれぞれ936名(30.5%)および231名(6.2%)が3つ以上の症状を有していた.3ヵ月後,陽性者のうち2038名(66.5%),陰性者のうち1993名(53.3%)が何らかの症状を呈し,また各群928名(30.3%)および603名(16.2%)に3つ以上の症状があった.陽性群で最も多かった症状は,疲労感(39.0%),頭痛(23.2%),息切れ(23.4%)で,陰性群では疲労感(24.4%),頭痛(14.2%),その他(15.8%)であった.PCR陽性群は,陰性群に比べて,長期にわたるCOVID症状を持つ確率が高く,3つ以上の症状を訴える割合が陽性群で29.6%,陰性群で19.3%であった(リスク比1.53).以上より11歳から17歳の青年でも,感染の3ヵ月後,long COVIDを呈する可能性が示された.
Lancet Child Adolesc Health. 2022 Feb 7:S2352-4642(22)00022-0.(doi.org/10.1016/S2352-4642(22)00022-0)
◆子供へのワクチン接種の推奨と,子供を対象とする臨床試験の実施が必要である.
Nature誌が子供のlong COVIDに関連する論評を発表した.まず上述のCLoCk研究を取り上げ,英国だけでも数万人の子どもや若者がlong COVIDに罹患する可能性を議論している.子供の感染が増えれば,子供のlong COVIDが増えるだけでなく,多くの人に感染が拡大することになる.よって子供たちの大半がワクチンを受けていない国において,子供は重症化しにくいからと言って感染拡大を容認することは,政府は責任を放棄していると言える.
また子供のlong COVIDの研究に関して,10代の子供を対象としたものは少なく,11歳以下の子供を対象としたものはさらに少ない.また現在進行中のCOVID-19関連の臨床試験のうち,10代や青年を対象としたものはない.これは医学界では一般的に認められる.大人が先に研究され,子供は後回しにされるのは,安全上の理由もあるが,治療を子供で試す前に大人で試すことができるためである.しかし,今後,臨床試験に若い世代を参加させる必要がある.もちろん,11歳以下の子どもたちのデータを得るのは難しく,また,保護者からのインフォームド・コンセントの取得といった課題もある.それでも,もしこのまま何もしなければ,long COVIDをきたす子どもたちは今後も増えつづけ,そして治療もなく取り残された存在になるであろう.
Nature. 2022 Feb;602(7896):183.(doi.org/10.1038/d41586-022-00334-w)
一昨日,厚労省は,ファイザーの抗ウイルス薬パキロビッド(パクスロビド)を特例承認したと発表しました.軽症者向け内服薬の承認は,メルクの「モルヌピラビル」についで2つめです.日本でもすでに約4万人分が納入済みで,早ければ14日から医療現場に供給を始めると報道されています.ただし重要な問題があります.本剤(nirmatrelvir錠/リトナビル錠併用)は,リトナビルでCYP3Aにおける薬物代謝を阻害して薬剤の血中濃度を保つ薬剤であるため,CYP3Aで代謝される薬剤の血中濃度をほとんどの場合で上昇させます.代表的な薬剤はカルシウム拮抗薬,スタチンですが,とても多くの薬剤が影響を受けます.このため併用薬の確認は厳密に行う必要があります.
その他,今回ご紹介する論文はいずれもlong COVIDに関するものです.小児にもlong COVIDが生じる可能性を議論する論文が複数出ています(図1).とくにNature誌は,小児は重症化しにくいと言って,小児におけるワクチン接種を推進せず,感染拡大を容認する国々に対して厳しい批判を行っています.
◆long COVIDの神経・精神症状の有病率は高く,とくに精神症状は時間の経過とともに増加する.
成人のLong COVIDに関するメタ解析が報告された.発症後3~6か月(中期)および6か月以上(長期)で比較を行った.2020年1月~2021年8月に発表された1458論文のうち,19論文(患者数1万1324名)が対象になった.神経症状の有病率は,疲労37%,ブレイン・フォグ32%,記憶障害27%の順に多く,さらに注意障害22%,筋痛18%,嗅覚障害12%,味覚障害11%,頭痛10%と続いた.精神症状は睡眠障害31%,不安23%,抑うつ12%の順に多かった(図2).
また精神症状は,中期と長期の比較で,いずれも時間経過とともに有病率が大幅に増加した(図3).
入院した患者は,入院していない患者と比較して,感染後3カ月,またはそれ以上経過した時点で,嗅覚障害,不安,抑うつ,味覚障害,疲労,頭痛,筋痛,睡眠障害の有病率は減少した.しかし入院は記憶障害の頻度が高いことと関連した(オッズ比1.9).以上より,long COVIDの主要な神経症状は,疲労,認知障害(ブレイン・フォグ,記憶障害,注意障害),睡眠障害で,精神症状の頻度も高い.さらに経時的に増加する.これらを改善する治療を確立するためのランダム化比較試験が求められる.
J Neurol Sci. 2022 Jan 29;434:120162.(doi.org/10.1016/j.jns.2022.120162)
◆11~17歳の青年においても感染3ヵ月後の評価でlong COVIDを認める.
ロンドンから,非入院の青年におけるlong COVIDを検討したCLoCk研究が報告された.2021年1月から3月の間にPCR陽性となった11~17歳の青年で,質問表に回答した3065人と,陰性の3739人と比較した.それぞれ1084名(35.4%)および309名(8.3%)に症状があり,かつそれぞれ936名(30.5%)および231名(6.2%)が3つ以上の症状を有していた.3ヵ月後,陽性者のうち2038名(66.5%),陰性者のうち1993名(53.3%)が何らかの症状を呈し,また各群928名(30.3%)および603名(16.2%)に3つ以上の症状があった.陽性群で最も多かった症状は,疲労感(39.0%),頭痛(23.2%),息切れ(23.4%)で,陰性群では疲労感(24.4%),頭痛(14.2%),その他(15.8%)であった.PCR陽性群は,陰性群に比べて,長期にわたるCOVID症状を持つ確率が高く,3つ以上の症状を訴える割合が陽性群で29.6%,陰性群で19.3%であった(リスク比1.53).以上より11歳から17歳の青年でも,感染の3ヵ月後,long COVIDを呈する可能性が示された.
Lancet Child Adolesc Health. 2022 Feb 7:S2352-4642(22)00022-0.(doi.org/10.1016/S2352-4642(22)00022-0)
◆子供へのワクチン接種の推奨と,子供を対象とする臨床試験の実施が必要である.
Nature誌が子供のlong COVIDに関連する論評を発表した.まず上述のCLoCk研究を取り上げ,英国だけでも数万人の子どもや若者がlong COVIDに罹患する可能性を議論している.子供の感染が増えれば,子供のlong COVIDが増えるだけでなく,多くの人に感染が拡大することになる.よって子供たちの大半がワクチンを受けていない国において,子供は重症化しにくいからと言って感染拡大を容認することは,政府は責任を放棄していると言える.
また子供のlong COVIDの研究に関して,10代の子供を対象としたものは少なく,11歳以下の子供を対象としたものはさらに少ない.また現在進行中のCOVID-19関連の臨床試験のうち,10代や青年を対象としたものはない.これは医学界では一般的に認められる.大人が先に研究され,子供は後回しにされるのは,安全上の理由もあるが,治療を子供で試す前に大人で試すことができるためである.しかし,今後,臨床試験に若い世代を参加させる必要がある.もちろん,11歳以下の子どもたちのデータを得るのは難しく,また,保護者からのインフォームド・コンセントの取得といった課題もある.それでも,もしこのまま何もしなければ,long COVIDをきたす子どもたちは今後も増えつづけ,そして治療もなく取り残された存在になるであろう.
Nature. 2022 Feb;602(7896):183.(doi.org/10.1038/d41586-022-00334-w)