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新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(11月15日)  

2022年11月15日 | COVID-19
今回のキーワードは,感染回数に応じて急性期および急性期後の死亡/入院/後遺症リスクは増加する.パンデミックを終息させるための行動の提言,デキサメタゾン/レムデシビル/両者の併用療法は入院患者の神経合併症を抑制する,COVID-19を合併する急性虚血性脳卒中患者における再灌流療法は頭蓋内出血の合併率が高く転帰も不良である,COVID-19重症者の大多数に血小板第4因子抗体を認める,Long COVID患者では感染11月後に灰白質体積の減少を認め認知機能障害と相関する,COVID-19罹患後の腸内細菌叢の異常が血中への細菌の移行を起こし重篤な二次感染を引き起こす,SARS-CoV-2によるミクログリアのインフラマソームはα-シヌクレインにより著しく活性化する,です.

◆感染回数に応じて急性期および急性期後の死亡/入院/後遺症リスクは増加する.
SARS-CoV-2の再感染により急性期およびその後の死亡・後遺症リスクを増加させるかは不明である.米国退役軍人省のデータベースを用いた研究が報告された.1回感染44万3588人,2回以上感染4万947人および非感染対照533万4729人を比較した.再感染は死亡ハザード比で2.17倍,入院3.32倍の追加リスク,および肺/心血管/血液/糖尿病/胃腸/腎/精神/筋骨格/神経疾患を含む後遺症も増加させた.ワクチン接種の有無にかかわらずリスクは増加した.累積リスクは,感染回数に応じて増加した.再感染は,急性期および急性期後の複数の臓器系における死亡,入院,後遺症のリスクをさらに高めることが示された.
Nat Med. Nov 10, 2022(doi.org/10.1038/s41591-022-02051-3)

◆パンデミックを終息させるための行動の提言
科学的・医学的な進歩にもかかわらず,各国共通のコンセンサスや目標が欠如し,さらに政治的・社会経済的な要因によりパンデミックへの対応がうまくいかない状況が続いている.Nature誌に112の国と地域から,専門家386人からなる学際的なパネルを招集し,Delphi法を用いて,パンデミックを終息させるための行動の提言がなされた.「コミュニケーション,医療システム,ワクチン接種,予防,治療とケア,不平等」という6つの領域において,41の合意声明と57の勧告が策定された.数が多いので,個人的に重要と考えたものを紹介する.

ワクチン接種だけではパンデミックを終わらせるには不十分である(免疫回避現象,免疫力低下,アクセスの不平等,ワクチン躊躇等のため).すべての国は,ワクチン以外の予防措置,治療,場合によっては財政的インセンティブの組み合わせを含む,ワクチンプラス・アプローチを採用すべきである.

SARS-CoV-2は空気感染するウイルスであり,換気の悪い屋内での感染のリスクが最も高い.空気感染の性質を考慮し,政府は換気や空気ろ過などの構造的予防策を奨励すべきである.→ 日本において夏の感染者増加が南から起こり,冬の感染者増加は北から起こる傾向があるのは空調と窓の閉め切り(換気不足)が影響しているのだろう.

COVID-19ハイリスクの人は,他の人々の基本的な予防策(マスクの使用や陽性判明後の隔離など)にもはや期待できないため,室内の換気やろ過がより重要となる.

長期免疫原性ワクチンの開発を進めなければならない.またlong COVIDへの研究資金提供を優先すべきである.

インフォデミックと偽情報に対抗するために,政府は偽情報を監視し,偽情報のネットワークを暴露し,偽情報の発行者に責任を取らせることを検討すべきである.
Nature 611;332–345, 2022(doi.org/10.1038/s41586-022-05398-2)

◆デキサメタゾン/レムデシビル/両者の併用療法は入院患者の神経合併症を抑制する.
英国から,COVID-19急性期において,デキサメタゾン,レムデシビルまたはその併用が神経合併症に及ぼす影響を評価した研究が報告された.2020年1月から2021年6月に入院した18歳以上の入院患者を対象とした.8万9297人の入院患者のうち,6万4088人が重症COVID-19,2万5209人が非低酸素性COVID-19であった.神経合併症はそれぞれ4.8%と4.5%に認められた.重症COVID-19では,デキサメタゾン(2万1129人),レムデシビル(1428人)および併用療法(1万0846人)は,神経合併症の頻度を抑制し,オッズ比はそれぞれ0.76,0.69,0.54であった(図1).非低酸素症例では,デキサメタゾン(2580人)は神経合併症が少なく(0.78),併用(460人)も同様であった(0.63).以上より,デキサメタゾン,レムデシビル,および併用療法は,相加的に神経合併症を抑制する.つまりCOVID-19の神経合併症にステロイドと抗ウイルス薬が有効な病態が含まれていることを示唆する.
Ann Neurol. Oct 19, 2022(doi.org/10.1002/ana.26536)



◆COVID-19を合併する急性虚血性脳卒中患者における再灌流療法は頭蓋内出血の合併率が高く転帰も不良である.
COVID-19にともなう炎症,内皮障害,凝固異常は急性虚血性脳卒中患者における出血リスクを高め,血栓溶解療法や血管内治療の有効性を低下させる可能性がある.COVID-19を合併する急性虚血性脳卒中患者におけるこれらの治療の安全性と治療成績を評価した国際研究(多施設共同後方視的コホート研究)が報告された.2020年3月から2021年6月までに上記治療を受けた急性虚血性脳卒中患者1万5128例のうち,853例(5.6%)がCOVID-19と診断された.5848例(38.7%)が静脈内血栓溶解療法のみ,9280例(61.3%)が血管内治療を受けた.COVID-19患者では,症候性脳内出血(調整オッズ比[OR]1.53),症候性くも膜下出血(1.80),両者の併存(1.56),24時間死亡(2.47),3ヶ月死亡(1.88)が増加した(図2).また3ヵ月後のmodified Rankinスコアも不良であった(1.42).以上より,急性期虚血性脳卒中におけるCOVID-19罹患は頭蓋内出血の合併率が高く,治療介入後の臨床転帰も不良であることが示された.本研究はCOVID-19患者における再灌流療法の有効性について直接的な結論を出すものではないが.今後の治療や予後予測に有益と考えられる.
Neurology. 2022 Nov 9:10.1212/WNL.0000000000201537.(doi.org/10.1212/WNL.0000000000201537)



◆COVID-19重症者の多くに血小板第4因子抗体を認める.
COVID-19の重症例では,血小板減少を伴う血栓傾向がみられ,剖検例では肺などに微小血栓が認められる.米国から,中等症または重症の入院患者100人,救急外来を受診した急性期患者25人,回復期患者65人を対象に血小板第4因子(PF4)-ポリアニオン複合体に対する抗体を測定した.PF4抗体は,ヘパリン投与歴の有無にかかわらず入院患者95/100人(95.0%)に検出され,平均光学濃度値は0.871 ± 0.405で対照,救急外来受診,回復期,COVID-19以外の原因による呼吸不全患者と比較して高値であった(図3).IgG,IgM,IgAすべてのレベルが上昇していた.抗体レベルは女性よりも男性で高く,また最大重症度スコアおよび血小板数の減少と相関していた.回復した患者では,抗体レベルはほぼ正常値に戻った.以上より,重症者の大多数がPF4抗体を認めており,COVID-19の多臓器合併症に関与する可能性がある.
PNAS. 119 (47) e2213361119(doi.org/10.1073/pnas.2213361119)



◆Long COVID患者では感染11月後に灰白質体積の減少を認め,認知機能障害と相関する.
スペインから,long COVID患者における脳機能および脳構造の変化を評価し,認知機能障害と関連するかを検討した研究が報告された.Long COVID患者86人と対照36人を比較した.認知機能検査と神経画像検査は感染から11カ月後に実施した.全脳機能的結合解析では,患者群にて左右の海馬傍領域間,両側の眼窩前頭皮質と小脳領域間のhypoconnectivityが認められた(図4).灰白質体積を評価するためにVoxel-based morphometryを,白質変化を分析するために拡散テンソル画像を実施したところ,大脳皮質,辺縁系,小脳領域における灰白質体積の減少,白質の軸方向および平均拡散率の変化を認めた.さらに灰白質体積の減少は,認知機能障害と有意な相関を認めた.これらの認知機能および画像変化は,非入院患者に比べ入院患者でより顕著であった.ワクチン接種の有無との関連は認めなかった.以上より感染から11カ月後も脳の構造的・機能的異常が持続し,認知機能障害と関連することが示された.
Brain, awac384, Oct 26, 2022(doi.org/10.1093/brain/awac384)



◆COVID-19罹患後の腸内細菌叢の異常が血中への細菌の移行を起こし,重篤な二次感染を引き起こす.
米国からの検討で,SARS-CoV-2ウイルス感染が,マウスの腸内細菌叢の異常を引き起こし,それが小腸上皮細胞のパネート細胞および杯細胞の変化,およびバリア透過性のマーカーと相関することを初めて明らかにした研究が報告された.2つの異なる臨床施設で,COVID-19患者96人から採取したサンプルでも,抗菌薬耐性種を含むことが知られている日和見病原性細菌属のブルームを含む,かなりの腸内細菌叢の異常が確認された.二次的な血行感染について検討した血液培養とマイクロバイオームデータの組み合わせから,細菌が腸から全身循環に移行した可能性が示された.以上より,COVID-19によるdysbiosisが重篤な二次感染を引き起こす可能性が示唆された.
Nat Commun 13, 5926 (2022)(doi.org/10.1038/s41467-022-33395-6)

◆SARS-CoV-2によるミクログリアのインフラマソームは,α-シヌクレインにより著しく活性化する.
オーストラリアから,SARS-CoV-2ウイルスがミクログリアのNLRP3インフラマソーム(炎症反応を惹起するための細胞内タンパク質複合体)の活性化を促進することを示した研究が報告された.まずヒトACE2を発現するトランスジェニックマウスにSARS-CoV-2ウイルスを感染させる実験を行い,脳内にウイルスが移行し,ミクログリアの活性化およびNLRP3インフラマソームの活性化が生じることを示した.次にSARS-CoV-2ウイルスがヒト単球由来ミクログリアに結合・侵入できることを示した.さらにスパイクタンパクは,LPSでプライミングされたミクログリアにおいて,ACE2依存的にNLRP3インフラマソームを活性化することが分かった.注目すべきは,SARS-CoV-2およびスパイクタンパク質によるミクログリアのインフラマソーム活性化は,α-シヌクレインフィブリルの存在下で著しく増強され(図5),かつNLRP3阻害によって完全に消失したことである.最後に,SARS-CoV-2感染ヒトACE2マウスにNLRP3阻害剤MCC950を感染後経口投与すると,インフラマソームの活性化は著しく抑制され,生存期間が延長した.以上の結果は,COVID-19においてパーキンソン病に似た神経合併症が生じるメカニズムを説明できる可能性がある.
Mol Psychiatry. Nov 1, 2022.(doi.org/10.1038/s41380-022-01831-0)




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