アルツハイマー病に対するレカネマブが注目されていますが,つぎに議論されるのがドナネマブです.脳アミロイド斑(老人斑)を除去できるようにデザインされた抗体です.このドナネマブの有効性と有害事象を評価したTRAILBLAZER-ALZ 2試験がJAMA誌に先月報告されています.この試験のポイントとして,①タウPETも施行し,タウの蓄積の程度による治療効果も評価したこと,②アミロイド斑の除去が基準に達した場合,ドナネマブ投与を中止していること,③副作用(ARIA)に対するApoE4遺伝子の影響を評価していること,を挙げたいと思います.以下,まとめですが,かなり複雑です.これを医療者やマスコミは正しく理解し,治療のメリットと危険性を,分かりやすく患者さん・家族に伝えることが求められます.
【ドナネマブとは?】
アミロイド斑にのみ存在するN末端第3残基がピログルタミル化されたアミロイドβ(N3pG Aβ)に直接結合し,ミクログリアを介した貪食作用によってアミロイド斑を除去する抗N3pG Aβ抗体である.
【試験デザイン】
多施設(8ヵ国277施設),無作為化,二重盲検,偽薬対照,18ヵ月間の第3相試験で,2020年6月から2021年11月(最終受診2023年4月)まで,アミロイドPETに加え,タウPETを併用し,低/中等度または高度タウ病変を有する初期アルツハイマー病(MCI/軽度認知症)患者1736人を登録した.
介入:ドナネマブ群(n=860)と偽薬群(n=876)に1:1で割り付け,4週ごとに72週間点滴静脈した.ドナネマブ群では,24週ないし52週の評価でアミロイド斑量が11センチロイド未満に低下し,投与完了基準を満たした場合,盲検下で偽薬投与に切り替えた.
主要アウトカムと評価基準 主要アウトカムは,ベースラインから76週までの統合アルツハイマー病評価尺度(iADRS:ADAS Cog13とADCS ADL MCIを統合したもの)スコアの変化とした(範囲,0~144;スコアが低いほど障害が大きい).CDR-SB(範囲,0~18;得点が高いほど障害が大きい)という副次的転帰を含め,24の転帰を確認した.
無作為化された1736人の参加者(平均年齢73.0歳;低・中タウ病変1182人[68.1%],高タウ病変552人[31.8%])のうち,1320人(76%)が試験を完了した.
【結果1:有効性】
76週時点のiADRSスコアの最小二乗平均(LSM)変化は,低・中タウ病変群のドナネマブ群で-6.02,偽薬群で-9.27であった(差,3.25;P<0.001).低・中タウ病変+高タウ病変を結合すると(全体)ドナネマブ群で-10.2,偽薬群では-13.1であった(差,2.92;P<0.001)(図1上).
76週時点のCDR-SBスコアのLSM変化は,低・中タウ病変群のドナネマブ群で1.20,偽薬群で1.88であった(差,-0.67;P<0.001).全体ではドナネマブ群1.72,偽薬群2.42(差,-0.7;P<0.001).(図1下)
偽薬群と比較して,タウ蓄積が軽度/中等度の群と全体で,iADRSではそれぞれ35.1%,22.3%,CDR-SBではそれぞれ36.0%,28.9%と有意な機能低下の遅延が認められた.
アミロイド斑除去が確認され投与完了した患者において,投与完了後も時間の経過とともに治療効果増大の傾向が見られた.また24週時にはアミロイド斑が除去されて投与完了した患者では,完了後5年にわたりアミロイド斑量の大きな増加は認められないとシミュレーションで推定された.
低・中タウ病変群において,脳アミロイド斑除去を達成した患者割合は24週時に34.2%,52週時71.3%,76週時には80.1%まで達した(図2).
興味深い副次評価項目として,p-tau217がある.ドナネマブによりタウ蓄積が軽度/中等度の群,および全体において有意な減少を呈している(図3).
タウ蓄積が軽度/中等度の群,および全体において,76週で,全脳体積は減少・脳室は拡大し,程度はそれより軽いながら海馬体積も減少する.
【結果2:副作用】
アミロイド関連画像異常(ARIA)は,ドナネマブ群で205人(24.0%;52人が症状あり),偽薬群で18人(2.1%;症状あり0人)に発生した.アナフィラキシーを含む注入時関連反応はドナネマブ群で74人(8.7%),偽薬群で4人(0.5%)に発生した.発現頻度が1%以上のその他の副作用として悪心,頭痛が認められた.
死亡例はドナネマブ群で3例,偽薬群で1例であった.ドナネマブ群で重篤なARIAのあった3人がその後死亡した(APOEε4ヘテロ接合体保有者2人,非保有者1人).抗凝固薬や抗血小板薬は処方されていなかった.1人は重篤なARIA-Eが消失した後に治療を再開したが,微小出血とヘモシデリン沈着を伴っていた. 1人はベースライン時に表在性シデローシスを有していた.
【結論】
ドナネマブは低・中タウ病変群,および低・中タウ病変と高タウ病変を結合した全体において,76週時点の臨床的進行を有意に遅らせた.
【感想】
①アミロイドPETのみならず,タウPETも行い,タウ蓄積が軽度の群でよりドナネマブの効果を認める点は興味深い.ただし実臨床でタウPETまで確認は困難なため,基本的に高タウ蓄積を加えた全体データを用いて評価するのが適当であろう.
②iADRSという統合スコアで検討しているが,一般の脳神経内科医でも馴染みがある指標ではないため,ドナネマブによる点数の改善が,どれほど日常で意義をもつのかが分かりにくい.またレカネマブといずれが効果が高いかは主要評価項目もinclusion criteriaも異なり,評価は困難である.
③p-tau217の低下がドナネマブにより生じた点は,タウリン酸化の上流にAβが存在することを示唆し興味深い.
④投与開始後,脳アミロイド斑除去を達成した患者ではドナネマブ点滴を中止するプロトコールである.またシミュレーションであるが,中止後もアミロイド斑量の大きな増加は認められないと推定している.よって「いつまで抗体治療を続けたらよいのか?」という疑問について,投与開始後にアミロイドPETを行うことで解決できることを示した点で重要な意義を持つ.
⑤長期的に脳萎縮やARIAの浮腫・微小出血が認知機能にどのような影響をもたらすのかがまだ分かっていない.
⑥ApoE4ホモ接合体保有者が58/143人(40.6%)存在し,非保有<ヘテ接合体保有<ホモ接合体保有の順に多くなる.アメリカの適正使用ガイドラインに記載されているように「ApoE4遺伝子診断は患者の安全を守るために行うべき検査」である(まさにプレシジョンメディシン).日本の診療ガイドラインでも適切にApoE4遺伝子診断を推奨されることを期待したい.
Sims JR, et al. Donanemab in Early Symptomatic Alzheimer Disease: The TRAILBLAZER-ALZ 2 Randomized Clinical Trial. JAMA. 2023 Aug 8;330(6):512-527.
【ドナネマブとは?】
アミロイド斑にのみ存在するN末端第3残基がピログルタミル化されたアミロイドβ(N3pG Aβ)に直接結合し,ミクログリアを介した貪食作用によってアミロイド斑を除去する抗N3pG Aβ抗体である.
【試験デザイン】
多施設(8ヵ国277施設),無作為化,二重盲検,偽薬対照,18ヵ月間の第3相試験で,2020年6月から2021年11月(最終受診2023年4月)まで,アミロイドPETに加え,タウPETを併用し,低/中等度または高度タウ病変を有する初期アルツハイマー病(MCI/軽度認知症)患者1736人を登録した.
介入:ドナネマブ群(n=860)と偽薬群(n=876)に1:1で割り付け,4週ごとに72週間点滴静脈した.ドナネマブ群では,24週ないし52週の評価でアミロイド斑量が11センチロイド未満に低下し,投与完了基準を満たした場合,盲検下で偽薬投与に切り替えた.
主要アウトカムと評価基準 主要アウトカムは,ベースラインから76週までの統合アルツハイマー病評価尺度(iADRS:ADAS Cog13とADCS ADL MCIを統合したもの)スコアの変化とした(範囲,0~144;スコアが低いほど障害が大きい).CDR-SB(範囲,0~18;得点が高いほど障害が大きい)という副次的転帰を含め,24の転帰を確認した.
無作為化された1736人の参加者(平均年齢73.0歳;低・中タウ病変1182人[68.1%],高タウ病変552人[31.8%])のうち,1320人(76%)が試験を完了した.
【結果1:有効性】
76週時点のiADRSスコアの最小二乗平均(LSM)変化は,低・中タウ病変群のドナネマブ群で-6.02,偽薬群で-9.27であった(差,3.25;P<0.001).低・中タウ病変+高タウ病変を結合すると(全体)ドナネマブ群で-10.2,偽薬群では-13.1であった(差,2.92;P<0.001)(図1上).
76週時点のCDR-SBスコアのLSM変化は,低・中タウ病変群のドナネマブ群で1.20,偽薬群で1.88であった(差,-0.67;P<0.001).全体ではドナネマブ群1.72,偽薬群2.42(差,-0.7;P<0.001).(図1下)
偽薬群と比較して,タウ蓄積が軽度/中等度の群と全体で,iADRSではそれぞれ35.1%,22.3%,CDR-SBではそれぞれ36.0%,28.9%と有意な機能低下の遅延が認められた.
アミロイド斑除去が確認され投与完了した患者において,投与完了後も時間の経過とともに治療効果増大の傾向が見られた.また24週時にはアミロイド斑が除去されて投与完了した患者では,完了後5年にわたりアミロイド斑量の大きな増加は認められないとシミュレーションで推定された.
低・中タウ病変群において,脳アミロイド斑除去を達成した患者割合は24週時に34.2%,52週時71.3%,76週時には80.1%まで達した(図2).
興味深い副次評価項目として,p-tau217がある.ドナネマブによりタウ蓄積が軽度/中等度の群,および全体において有意な減少を呈している(図3).
タウ蓄積が軽度/中等度の群,および全体において,76週で,全脳体積は減少・脳室は拡大し,程度はそれより軽いながら海馬体積も減少する.
【結果2:副作用】
アミロイド関連画像異常(ARIA)は,ドナネマブ群で205人(24.0%;52人が症状あり),偽薬群で18人(2.1%;症状あり0人)に発生した.アナフィラキシーを含む注入時関連反応はドナネマブ群で74人(8.7%),偽薬群で4人(0.5%)に発生した.発現頻度が1%以上のその他の副作用として悪心,頭痛が認められた.
死亡例はドナネマブ群で3例,偽薬群で1例であった.ドナネマブ群で重篤なARIAのあった3人がその後死亡した(APOEε4ヘテロ接合体保有者2人,非保有者1人).抗凝固薬や抗血小板薬は処方されていなかった.1人は重篤なARIA-Eが消失した後に治療を再開したが,微小出血とヘモシデリン沈着を伴っていた. 1人はベースライン時に表在性シデローシスを有していた.
【結論】
ドナネマブは低・中タウ病変群,および低・中タウ病変と高タウ病変を結合した全体において,76週時点の臨床的進行を有意に遅らせた.
【感想】
①アミロイドPETのみならず,タウPETも行い,タウ蓄積が軽度の群でよりドナネマブの効果を認める点は興味深い.ただし実臨床でタウPETまで確認は困難なため,基本的に高タウ蓄積を加えた全体データを用いて評価するのが適当であろう.
②iADRSという統合スコアで検討しているが,一般の脳神経内科医でも馴染みがある指標ではないため,ドナネマブによる点数の改善が,どれほど日常で意義をもつのかが分かりにくい.またレカネマブといずれが効果が高いかは主要評価項目もinclusion criteriaも異なり,評価は困難である.
③p-tau217の低下がドナネマブにより生じた点は,タウリン酸化の上流にAβが存在することを示唆し興味深い.
④投与開始後,脳アミロイド斑除去を達成した患者ではドナネマブ点滴を中止するプロトコールである.またシミュレーションであるが,中止後もアミロイド斑量の大きな増加は認められないと推定している.よって「いつまで抗体治療を続けたらよいのか?」という疑問について,投与開始後にアミロイドPETを行うことで解決できることを示した点で重要な意義を持つ.
⑤長期的に脳萎縮やARIAの浮腫・微小出血が認知機能にどのような影響をもたらすのかがまだ分かっていない.
⑥ApoE4ホモ接合体保有者が58/143人(40.6%)存在し,非保有<ヘテ接合体保有<ホモ接合体保有の順に多くなる.アメリカの適正使用ガイドラインに記載されているように「ApoE4遺伝子診断は患者の安全を守るために行うべき検査」である(まさにプレシジョンメディシン).日本の診療ガイドラインでも適切にApoE4遺伝子診断を推奨されることを期待したい.
Sims JR, et al. Donanemab in Early Symptomatic Alzheimer Disease: The TRAILBLAZER-ALZ 2 Randomized Clinical Trial. JAMA. 2023 Aug 8;330(6):512-527.