Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

Twitter @pkcdelta
https://www.facebook.com/GifuNeurology/

アミロイドβ抗体療法に関連して知っておくべき2論文

2024年03月13日 | 認知症
アルツハイマー病(AD)に対するアミロイドβ抗体療法を開始した施設は徐々に増えているようです.ARIAという副作用の出現リスクを推定できるApoE遺伝子検査については,研究レベルで施行している施設が少なくないという話も耳にします.一刻も早い保険適応が望まれますが,検査ができるようになった場合も,さまざまな臨床倫理的問題が生じます.そのなかには,親の診断結果から,その子がε4キャリアであり,将来,ADを発症するリスク推測できてしまうという問題があります.1つめの論文はそのようなケースにおいて有用な情報です. 

【スタチンはε4アレルを有する人においてAD発症リスクを低下させる】
米国からの報告で,ApoE遺伝子とスタチンによる認知症発症の抑制効果の関連を検討した研究です.参加者は4807人(年齢は72歳,女性63%)で,研究期間中1,470人(31%)がスタチン(コレステロール値を低下させる薬物の総称)内服を開始しました.スタチン開始群では非使用群と比較してAD発症リスクは低下しました[HR 0.81].そしてこの関連は,ε4アレルをもつ群[HR 0.60]では,もたない群[HR 0.96]と比較して有意に低いことが分かりました.ε4アレルを持つ群において,全般的な認知機能およびエピソード記憶の低下も,スタチン開始群では大幅に遅いことが分かりました.しかしこれらのスタチンの効果はε4アレルを持たない患者群では有意ではありませんでした.



以上より,65歳以上の高齢者で,ε4アレルを有する人において,スタチン開始がAD発症リスクを低下させるというクラスIIエビデンス(ランダム化されていない比較的大規模なコホート研究)が示されました.今後,ランダム化した臨床試験でさらに検討する必要がありますが,ε4アレルを有することで落胆する人にとって朗報と思います.
Rajan KB, et al. Statin Initiation and Risk of Incident Alzheimer Disease and Cognitive Decline in Genetically Susceptible Older Adults. Neurology. 2024 Apr 9;102(7):e209168. (doi.org/10.1212/WNL.0000000000209168

【診断バイオマーカーAβ42/40に影響を及ぼす心不全治療薬がある】
もう一つの論文は,ADの診断に行うAβ42/40比を検討する際の注意点です.それは2020年8月に新規心不全治療薬として発売されたサクビトリル/バルサルタン(商品名エンレスト)の使用歴です.これはアンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)です.ネプリライシン阻害により,ナトリウム利尿ペプチド(ANPやBNP)などの有益なペプチドの分解を減少させ,これらのペプチドの心血管に対する有益な効果を強化することが可能な薬剤です.しかしネプリライシンは同時にアミロイドβを分解する主要な酵素の一つでもあります.サクビトリル/バルサルタンはバルサルタン(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)単独と比較して,血漿中のAβ42とAβ40濃度を増加させ,Aβ42/Aβ40を約30%減少させました.



他のAD血漿バイオマーカーは影響を受けませんでした.脳脊髄液に関するデータの記載はありませんでしたが(先行研究では影響なしの記載もある),早晩,ADのバイオマーカーはPET,脳脊髄液から血漿に移行すると思われますので,この薬剤を内服している患者では注意が必要と思われます.
Brum WS, et al. Effect of Neprilysin Inhibition on Alzheimer Disease Plasma Biomarkers: A Secondary Analysis of a Randomized Clinical Trial. JAMA Neurol. 2024 Feb 1;81(2):197-200.(doi.org/10.1001/jamaneurol.2023.4719

この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 頸動脈の動脈硬化性病変の58... | TOP | 「認知症の現在と未来」 VOO... »
最新の画像もっと見る

Recent Entries | 認知症