Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

Twitter @pkcdelta
https://www.facebook.com/GifuNeurology/

視床下核を見る

2006年01月21日 | その他
 視床下核(STN)は直径が2-4 mmぐらい(20-30 mm3)の小さな核で,フランスの神経学者Luys, Jules Bernard (1828-1898)にちなんでLuys体とも呼ばれている.脳の断面の肉眼観察の際にも目立つ神経核で,核の境界は明瞭,前頭断面では両凸レンズ形を呈し,矢状断面ではほぼ円形である.位置については多少,個人差があると言われている.STNが臨床的に話題になるのは,DRPLAにおける淡蒼球ルイ体路の変性とか,ヘミバリスムの責任病巣といったところであろうか?もちろん,1994年に,同じくフランスのベナビッドらにより報告されたパーキンソン病などの治療法としての連続電気刺激(脳深部刺激療法)も忘れてはいけない.
 おさらいだが,大脳皮質からの行動指令は主として線条体に入るが,線条体には大脳基底核の出力部である淡蒼球内節(GPi)および黒質網様部へ直接投射するニューロンがある(direct pathway).一方,淡蒼球外節(GPe)に投射するニューロンもあって,そこからSTNを経て出力部(GPiと黒質網様部)に至る経路もある(indirect pathway).このふたつのpathwayの活動が出力部でどうぶつかり合うかが,基底核の神経回路モデルの中核をなしている.そしてSTNに関しては,パーキンソン病ではその活動が亢進しているのではないかと考えられている.
 さてSTNを電気刺激するとどうなるのか?話は複雑になるが,STN自体はGPeとGPiに興奮性投射をしている.さらにGPeはGPiに抑制性投射をしているので,GPiはSTNから単シナプス性・興奮性(Glutamatergic)の作用と,GPeを介した2シナプス性・抑制性(GABAergic)の作用を受ける(二重支配).霊長類を用いてSTNを電気刺激した実験では,単発刺激の場合はGPeとGPiの両者が一過性に興奮し,引き続いて抑制されるのみだが,連続刺激してやると,STN-GPe-GPi路による抑制性作用がSTN-GPi路による興奮性作用に打ち勝ち,その結果,GPiが抑制されるらしい.すなわちSTNの連続電気刺激は,活動が亢進したSTNを逆に抑制することで症状の改善につながっているようだ.ならばSTNを破壊しても効果が得られるはずだが,その場合,バリスムを引き起こす可能性があったり,正確に部位を同定できず他の脳組織を損傷する可能性もあったりして,現在,行われていない.要は活動が亢進したSTNを適度に抑える必要があるわけだ.
 話は長くなったが,ここからが本題.話題にしたかったのは深部刺激の機序ではなくて,ふと「MRIで視床下核を見たことないな?どうやって刺激電極の位置を決めているのだろうか?」 ということ.術中に微小電極を用いた電気生理を行うとか,CTとMRIを組み合わせるとかいうなんて記載は見つかったが,WEBでシークエンスをうまく調節すればMRIだけで見えるなんて記載もあった(詳しい脳外科の先生がいらっしゃったら実際を教えてください).
 さて今回の論文は,術前に脳定位的3 Tesla-MRIを行ってSTNの描出に成功したという報告.条件は high-resolution T2-weighted fast spin-echo images.13例に施行し,STNはhypointenseのアーモンド形の構造物として全例で描出された.術中電気生理でも一発でSTNを示唆する所見が得られ,無用な検査時間の延長や脳組織の損傷を避けられたという(ただし実際の論文の画像はいまひとつといった感じがしないでもない).
 そもそも3T MRIの人体への安全性が確立されたとは言えず,日常診療に簡単に使えない状況ではあるが,それでも自分なら3T MRIを撮ってもらってから手術してもらいたいかなあ?

AJNR 27:80-84, 2006
Comments (2)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 抗ヒスタミン薬によるジストニア | TOP | シャロン首相の主治医はどう... »
最新の画像もっと見る

2 Comments

コメント日が  古い順  |   新しい順
あまり詳しくない脳外科医 (hshichi)
2006-01-21 17:54:05
久しぶりにコメントさせていただきます。



私自身は脳血管傷害班なので門外漢ですが、以前勤めていた病院では、脳深部電気刺激療法がさかんにおこなわれていました。たしか、先生のご指摘のようにCTとMRIを重ね、脳の微細なアトラスを含んだ専用ソフトを用いて位置決めをしていたようです。詳しくはPubMedでKitagawa, Murata, stimulationで検索してみてください。



問題点としては、やはり個人差で、本当に万人にアトラスをあてはめていいのか(特にアメリカのソフトを日本人にあてはめること)ということで、実際に日本人でのアトラス作りが試まれているようです。ご存知かもしれませんが。



こんなんで、いいですか?
返信する
ありがとうございます (pkcdelta)
2006-01-21 19:31:40
hshichiさん,コメントありがとうございます.たしかにCT-MRI fusion 法という言葉を見かけたのですが,ImageFusion(Radionics)というソフトを使っているのですね.今度,どこかに見学に行ってきます.勉強になりました.
返信する

Recent Entries | その他