Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

Twitter @pkcdelta
https://www.facebook.com/GifuNeurology/

多系統萎縮症における突然死は気管切開では防げない

2008年09月01日 | 脊髄小脳変性症
 本邦より多系統萎縮症(multiple system atrophy; MSA)における突然死の頻度や特徴,予防的治療の効果についての検討が報告された.対象はGilman分類におけるprobable MSA患者47名であり,5年間の経過観察が行われた.予防的治療は,①睡眠中の高度の低酸素血症(CT90>10%;検査中にSpO2が90%を下回る割合が10%を超す),②声帯外転麻痺,③繰り返す誤嚥性肺炎を認める場合に行っている.具体的な方法としては,①②に対しては非侵襲的陽圧換気療法(NPPV)を行い,③に対しては気管切開術を行っている.最終的に,上記の基準を満たし,同意を得られた25名に対し予防的治療が行われた.

 結果としては,NPPV は適切な圧設定により,いびきや喉頭喘鳴をほぼ消失させ,さらに睡眠中の低酸素血症を改善することができた.死因に関する検討では,5年間の経過観察中の死亡者は10名,うち7名が突然死(!)で,6名が睡眠中に死亡していた(残りは肺炎,窒息,肺癌が1名ずつであった).既報と比べ(誤嚥性)肺炎による死亡者が少ないが,本研究は嚥下造影検査などで嚥下障害に対し早期から介入を行い,適宜,胃瘻造設を行っており,十分な嚥下対策を行えば,誤嚥性肺炎を減少させられる可能性を示唆してる.

 また驚くべきことに,突然死例7名のなかに気管切開術施行例が2名,NPPV施行例が3名含まれていた.すなわち,気管切開術やNPPVでも突然死を完全には防げないこと,言いかえれば上気道閉塞以外のメカニズムでも突然死が生じうることが明らかになった.今後,どのような機序で夜間の突然死が生じるのかを明らかにすることが,突然死の予防法を確立する上で重要であるが,少なくとも気管切開を行ったあとも夜間の睡眠呼吸障害(おそらく中枢性無呼吸やCheyne-Stokes呼吸)の出現に注意する必要がある.

J. Neurol 2008 e-pub ahead of printing 
Comments (6)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 学規 | TOP | 足底反射は,何を調べるのが... »
最新の画像もっと見る

6 Comments

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (神経内科勤務医です。)
2008-09-01 21:39:33
循環器内科医から 
 MSAの突然死につきまして
 早朝の血圧が高い 患者さんは突然死が多いので
 脳出血や心筋梗塞の血管障害が多いはずだ
 突然死が多いのは当然だ
との指摘を受けたことがあります。

起立性低血圧のために 血圧を上げているもので
早朝の血圧は ただでも 高い患者さんがいるのに さらに上がっていることがあります。
たいがい 突然死の患者さんは 入院中ではないので
剖検もできていませんし 運ばれた先でも 死体検案のみで終わっていることが多く 原因は不明です。

血管障害は 気管切開していても 防げないので ありうると思っていましたが 対策が現実にはありません。血圧を丁度良くする画期的な治療法があると良いのですが。。。。。

返信する
Unknown (勤務医です。)
2008-09-02 00:27:55
追加です。
NPPVでは 声帯開大不全の進行には 有効性が乏しいことがあるのは 都立神経病院の先生方が報告したように思います。

先生の所では 突然死には 剖検がなされていましたか?
返信する
Unknown (追加です。)
2008-09-05 17:33:33
正確には BiPAP使用でも その設定条件が問題であるようです。
返信する
Unknown (Y県の勤務医)
2011-06-02 16:53:59
先ごろ、気切すみのMSA-Pで、夜間に中枢性の無呼吸を経験しました。手動でアンビューを続け、本当に自発呼吸がないのか何度も手を止めて確認しましたがありません。循環動態はよいのに、ほうっておくとSaO2が70以下になっても自発呼吸のトリガーがかかりません。人工呼吸を着け、2時間ほどで自発呼吸は再開しました。窒息はなく、これこそがMSAの突然死だろうと考えました。
返信する
Unknown (下畑 享良)
2011-06-02 17:09:06
 コメントありがとうございます.学会でも,まったく同様の経験を教えていただいたことがあります.自験例でも循環動態は良いのに呼吸が止まってしまって,結果として無酸素脳症になった症例も含まれています.
 どこまで治療を行うかは患者さんのお考え次第ではありますが,私どもは本当に突然死を防ぐためには,気管切開術を行い,PSGでCheyne-Stokesや中枢性無呼吸があれば人工呼吸器装着と考えています.
返信する
Unknown (Y県の勤務医)
2011-06-02 17:14:20
続きです。
アンビューをしながら、家族を呼び出し、アンビューを外して「今心臓は安定して動いていますが、息をしていない」ことを説明、無呼吸を皆で確認しました。そのうえで、人工呼吸をつけるかどうか意向を確認して機械を装着しました。
残念ながら低酸素脳症になってしまいました。
現在、自発呼吸は安定していますが。無呼吸時は機械の起動が必要と考え、BiPAPの加圧はゼロでつなぎっぱなしです。
返信する

Recent Entries | 脊髄小脳変性症