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Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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「二日酔い頭痛」とは何か?

2020年11月11日 | 頭痛や痛み
二日酔いによる頭痛は,頭痛診療のバイブルである国際頭痛障害分類第3版(ICHD-3)では,8.1.4.2遅発性アルコール誘発性頭痛(Delayed Alcohol-induced Headache;DAIH)と正式に記載されている.そして診断基準には以下の項目が含まれる.

1)頭痛はアルコール摂取後5~12時間以内に発現する.
2)頭痛は発現後72時間以内に自然消失する.
3)頭痛は以下の3つの特徴のうち少なくとも1項目を満たす:a) 両側性,b)拍動性,c)身体的活動により増悪.
項目は経験的に作られたのではないかと思われる(笑).この頭痛は生涯有病率72%ともっとも頻度の高い二次性頭痛でありながら,研究する者はほとんどなく,謎に包まれた頭痛とも言える.ところが最新号のNeurology誌にDAIHの大規模研究が掲載されており非常に驚いた!スペインのグループが2018年に行った調査で,DAIHの臨床表現型を明らかにすることが目的であった.著者らは,DAIHが片頭痛ないし低髄液圧性頭痛の特徴を有するのではないかという仮説のもと研究を行っている.

方法は自発的に(笑)アルコールを摂取し,頭痛を経験した大学生を対象に横断的研究を行っている.臨床データ等を各自,調査票に記入するアンケート形式で行われた.さて結果だが,計1,108 名も参加している(女性 58%,平均年齢 23 歳,頭痛の既往歴 41%).頭痛出現前の平均アルコール摂取量は158gと,ビール中瓶8本,ワイン2本に相当し(!),蒸留酒は参加者の60%,ビールは41%,ワインは18%が摂取していた(100%を超えるのは一部の人は複数飲むため).ICHD3のDAIH診断基準を95%の参加者が満たしていた.頭痛の持続時間は平均6.7時間で,総飲酒量と相関していた(r = 0.62,p = 0.03).85%の患者で両側性であり,前頭部痛が多く見られた(42.9%).痛みの性状は圧迫性(60%)または脈動性(39%)で,83%で身体活動による悪化がみられた.仮説に関しては,ICHD3の低髄圧による頭痛の基準を58%で満たし,片頭痛の基準を36%で満たした.



以上より,DAIHは典型的には両側性,前頭部優位で,圧迫感を呈する頭痛であることが分かった.また片頭痛と低髄圧による頭痛の両方の特徴を持つこともわかった.面白かったのは,この論文の限界が「想起バイアス」と記載されていたことである.つまりどれだけ飲んだのかとか,どんな頭痛だったのかとか,酔ってきちんと覚えていないことが研究結果を歪める恐れがあるということだ.
Clinical characterization of delayed alcohol-induced headache: A study of 1,108 participants
Neurology. Sep 1, 2020(doi.org/10.1212/WNL.0000000000010607)


プライマリーケア医が知っておくべき“治療可能な”2次性頭痛@第47回日本頭痛学会

2019年11月17日 | 頭痛や痛み
第47回日本頭痛学会(浦和)にて標題のシンポジウムを北海道大学矢部一郎先生とともに企画した.企画の理由は「もっと早く診断・治療ができたら良かったのに・・・」と思う二次性頭痛症例が少なからず存在するためだ.テーマとした疾患は,肥厚性硬膜炎,MELAS,脳アミロイドアンギオパチー関連炎症,自己免疫性脳炎,てんかん,慢性骨髄増殖性腫瘍と本学会のシンポジウムではほとんど議論がなされたことのないものだ.以下の点を認識する必要がある.

【認識すべき点】
① 肥厚性硬膜炎,MELAS,NMDA受容体抗体脳炎,真性多血症・本態性血小板血症は片頭痛様頭痛を呈しうる.
② MELASでは誤診によるトリプタンの使用で,脳卒中を来しうる.
③ 慢性骨髄増殖性腫瘍である真性多血症・本態性血小板血症に伴う頭痛は正しく診断し,アスピリンを使用すると著効する.


【各疾患のポイント】
A.肥厚性硬膜炎の頭痛:
慢性の強い連日性頭痛が主体だが,一部は前兆を伴う片頭痛に類似した頭痛を呈する.日本人に多いMPO-ANCA陽性例は硬膜に限局するのに対し,PR3-ANCA陽性例は軟膜にも及び,頭痛が重篤となるほか,脳神経麻痺等,多彩な症状を呈する.

B. MELASの頭痛:
片頭痛様の頭痛を呈する.診断を誤ってトリプタンが使用され,脳梗塞を来たした症例が報告されている(トリプタンは禁忌である).片頭痛患者で,既往歴,家族歴に糖尿病,難聴,卒中様発作,低身長,筋力低下があれば,(半年以内に保険収載され測定が可能となる)ミトコンドリア病診断マーカーGDF15(感度,特異度98%)を測定し,MELASを除外する.治療としてL-アルギニン療法が有効である.急性期ステロイドパルス療法は増悪を招くため行わない.

C.アミロイドアンギオパチー関連炎症の頭痛:
56%で頭痛を合併する.そのほか,認知機能障害,異常行動,痙攣を呈する.頭部MRIで大脳白質の異常信号,造影病変,髄液細胞数増多,蛋白上昇を認める.微小なクモ膜下出血ないし血管炎症が頭痛の原因と議論されている.

D.自己免疫性脳炎の頭痛:
自己免疫性脳炎のなかで頭痛を呈するのはNMDA受容体抗体脳炎である.前駆期に片頭痛様の頭痛を合併し,頭痛単独でも発症する.NMDA受容体は皮質拡延性抑制(CSD)に関わることから,抗体はおそらく頭痛を抑制する方向に作用している!頭痛の機序には無菌性髄膜炎が関与するという説がある.

E.てんかんの頭痛:
3つのタイプがあり,片頭痛前兆により誘発される痙攣発作(いわゆるICHD-2のmigralepsy),てんかん性片側頭痛(hemicrania epileptica),てんかん発作後頭痛(post-ictal headache)に分類できる.てんかんと頭痛には類似した特徴があり,視覚性前兆(ただし様式は異なる),抗てんかん薬(VPA,TPM,LEV,GBP)が有効であるといった点は共通する.

F.慢性骨髄増殖性腫瘍の頭痛:
JAK2V617F遺伝子変異に伴う真性多血症(PV)や本態性血小板血症(ET)は,約半数に片頭痛様頭痛を合併する.閃輝暗点も合併し,片頭痛との鑑別が難しい.病態としては血小板の活性化・凝集が指摘されており,治療もアスピリンが著効する.

多くの学会員が参加してくださり,有意義なシンポジウムだったとの感想をいただき,とても嬉しく思った.講師の先生方,どうもありがとうございました.

【講師の先生方】
血管炎・肥厚性硬膜炎 河内泉先生(新潟大学脳神経内科,総合医学研究センター)
MELAS 古賀靖敏先生(久留米大学医学部小児科)
脳アミロイドアンギオパチー関連炎症 坂井健二先生(金沢大学脳神経内科)
自己免疫性髄膜・脳炎 木村暁夫先生(岐阜大学脳神経内科)
てんかん発作による頭痛 高橋牧郎先生(大阪赤十字病院脳神経内科)
慢性骨髄性腫瘍と頭痛 長井弘一郎先生(日本医科大学脳神経内科)











国際頭痛学会2019@ダブリン―新しい片頭痛治療の夜明け―

2019年09月07日 | 頭痛や痛み
2年毎に開催される国際頭痛学会の今回のテーマは「新しい治療の夜明け」です.標的はカルシトニン遺伝子関連ペプチド (calcitonin gene-related peptide: CGRP)シグナルです.知っておくべき知見は以下になります.

1)片頭痛発作中にCGRP放出は増加する.
2)三叉神経血管反射の中枢である三叉神経節は,通常,血管収縮に防御的に作用するが,片頭痛患者ではこのシステムがトリガーとなり,痛みを知覚する.
3)三叉神経節において,CGRPはC-fiberに発現し,CGRP受容体はAδ-fibereに発現する.
4)三叉神経節や硬膜は血液脳関門を欠くため,CGRPやその受容体を標的とした治療薬の可能性が生じる(CGRPは末梢で作用するため,血液脳関門を通過しない抗体薬が効果を発揮しうる).
5)実際にCGRP受容体拮抗薬に加えて,抗CGRP抗体(eptinezumab, fremanezumab,galcanezumab)あるいは抗CGRP受容体抗体(erenumab)が片頭痛発作の予防に対して有効,かつ副作用が稀であることを示す臨床試験が複数発表された.
6)片頭痛の慢性化は神経原性神経炎症,つまり三叉神経血管系における神経細胞,グリア細胞におけるプロテインキナーゼ活性化(CGRPシグナルの下流にあるcAMP依存性PKAの活性化)を介したサイトカイン放出により生じるという説が有力になりつつある.

CGRPカスケードと各種抗体薬の効果に関する図は以下になります(Nat Rev Neurol. 2018;14:338-50.より引用)



今回の学会は,プレナリーから教育講演にいたるまで,ほとんどがCGRP関連です.2年前の本会とは打って変わって,エキシビションでも多数の製薬企業のブースが並び,大きな変化を感じます(写真はAmgenのAimovig®とTevaのAjovy®のブース).日本でも臨床試験が進行中で,近い未来に片頭痛治療の新しい時代が来ることは間違いありません.




精神科の視点から学ぶ頭痛診療のBest practice@HMSJ2019

2019年07月14日 | 頭痛や痛み
日本頭痛学会が主催したHeadache Master School Japanが2019年7月14日,仙台で開催された.本会は頭痛診療の地域格差の解消を目指し,2014年より年2回開催され,今回で10回目となる.松森保彦先生(仙台頭痛脳神経クリニック院長)が委員長を務めたが,教育的,かつ魅力的なプログラムで,非常に勉強になった.個人的に興味深く拝聴したのは,東北医科薬科大学精神科山田和男病院教授による標題のご講演であった.精神疾患を背景にもつ頭痛患者さんの診断や治療に難しさを感じていたため参考になった.以下にご講演内容をまとめたい.

【精神疾患を背景にする頭痛の3タイプ】
精神疾患を背景にする頭痛には,国際頭痛分類第3版(ICHD-3)の本文に記載のある精神疾患,ICHD-3の付録にある精神疾患,ICHD-3の付録にすら記載されていない精神疾患に関連した頭痛の3つに分類できる.以下,順に提示する.

① ICHD-3の本文に記載のある精神疾患
ここには「身体化障害」と「精神病性障害による頭痛」の2つが含まれる.
A. 身体化障害
身体化障害は,30歳以前に発症する「身体表現性障害」の一つであり,圧倒的に女性に多い.さまざまな症状を呈し,そのなかに頭痛が含まれる.多くの診療科を受審し,ドクターショッピング状態になる.また以下の特徴がある.
・パーソナルティ障害(境界性パーソナルティ障害)を高率に合併する
・薬剤(ベンゾジアゼピン系,鎮痛剤)の乱用や依存が生じやすい(よって依存性のある薬剤は使用すべきではない)
・うつ病などの精神疾患を合併する
・予後が不良で,認知行動療法や集団精神療法は有効であるが,薬物療法が有効であるというエビデンスはない.

ちなみに「身体化障害」はDSM-Ⅳ-TRにおける病名だが,DSM-5では廃止された.そのDSM-5には「身体症状症」という病名があるが,他の病態も含み,疾患概念も異なる.「身体症状症」は身体疾患があっても診断して良いという点で明確に異なる.

B.精神病性障害による頭痛
「妄想」の1つとしての頭痛を呈する.代表的な疾患は「妄想性障害(身体型)」と「統合失調症」である.この診断に重要なのは「頭痛が妄想であること」を見抜くことである.統合失調症であれば比較的容易だが,「妄想性障害(身体型)」では容易ではないことがある,例えば「脳の血管が切れて頭が痛い」といった表現をする.診断後は,非定型抗精神薬で治療するが,本人の病識が欠如しているため,内服アドヒアランスが不良で,治療に難渋することが多い.

② ICHD-3付録にある精神疾患
「うつ病による頭痛」がこれに該当する.①のICHD-3の本文に記載のある精神疾患より,障害有病率が高く,臨床的に問題になることが少なくない.

A. うつ病による頭痛
頻度が高い.「うつ病」ないし「持続性うつ状態(軽い抑うつが2年以上)」を背景に認める.もともと一次性頭痛を有している患者にうつ病が合併した場合,頭痛はより増悪する.教科書的に有名なうつ病の症状である食欲不振や不眠は 8割程度に見られるが,頭痛はさらに多く 9割の患者に認める症状である.
ちなみにうつは生涯罹患率6%と頻度の高い疾患で,女性に多く(1:2),40-60歳代に多い.その半数強は再発性であるため,一度寛解しても注意が必要である.約15%が自殺を図り,自殺は男性が多いことも知っておく必要がある.

③ ICHD-3付録にすら記載されていない精神疾患
A. 双極性障害による頭痛

双極性障害の発症年齢はうつ病より若く,遺伝的要素が強い.生涯自殺率はうつ病より高い.以下の2種類がある.

A-1.双極Ⅰ型障害
少なくとも1回以上の躁病エピソードがある.うつ病相のみ見ているとうつ病と鑑別は困難である.家族歴を認める.
A-2.双極Ⅱ型障害
少なくとも1回以上の軽躁病エピソードと,少なくとも1回以上の軽躁病エピソードがある.

問診にて抑うつの有無を確認する必要がある.具体的には以下の手順で行う.
頭痛持ちでなかった患者に出現した頭痛 → 精神科疾患以外の二次性頭痛の除外・一次性頭痛の除外 → 抑うつエピソードのスクリーニング(うつ病,双極性障害)

抑うつエピソードのスクリーニングには「2質問法」に,もう1つ質問を追加する形で行うと良い.

2質問法:以下の質問のうち,1つを満たす
(1)この1カ月間,気分が沈んだり,ゆううつな気持ちになったりすることがよくありましたか?
(2)この1カ月間,どうも物事に対して興味がわかない,あるいはこころから楽しめない感じがよくありましたか?
うつ病の割合が5%の集団における感度96%,特異度57%,PPV(陽性反応予測値)11%.つまりいずれか1つが陽性である場合,うつ病である可能性が高いが高いが,特異度がかなり低い.このため,さらにもうひとつ質問を追加する.
(3)現在,それらに対して,助けが必要ですか?
これにより,感度はそのままに特異度が上がる.

また双極性障害に伴う頭痛の予防には,アミトリプチリンは使用しない(双極性障害に対する三環系抗うつ薬は躁転が多くなるというデータがあるため).

【片頭痛とさまざまな精神疾患は共存(Comorbidity)する】
片頭痛とさまざまな精神疾患の共存率は高い.片頭痛における精神疾患の共存については,うつ病に関してもっとも研究されており,6つの既報はいずれもオッズ比が約3である.反復性のうつ病では,前兆を伴わない片頭痛でオッズ比3.7,前兆を伴う片頭痛で5.6という報告がある.また不安症やパニック症患者においても片頭痛併存率は高い(後者では61.1%という報告がある).これらの症例では,片頭痛のみならず,共存する精神疾患の治療も必要となる.

【薬剤の使用過多による頭痛:medication overuse headache(MOH)と精神疾患】
うつ病,パニック症,双極性障害といった精神疾患患者ではMOH(とくに難治例)の併存リスクが高い.両者の併存で,患者のQOLが相乗的に低下する.MOHの難治例には境界性パーソナリティ障害の患者が多い.逆に難治のMOHをみたら,背景に何らかの精神疾患や境界性パーソナリティ障害がある可能性を考える.境界性パーソナリティ障害の特徴としては,感情不安定,衝動性,かんしゃく,自傷行為,過量服薬,頻回の救急受診がある.

【まとめ】
片頭痛と精神疾患は互いに親和性が高い.とくにうつ病や双極性障害において,頭痛はよく見られる症状であることを認識する必要がある.また片頭痛患者ではうつ病や双極性障害などのさまざまな精神疾患の共存を認める.難治例のMOHでは背景に精神疾患や境界性パーソナリティ障害がある可能性を疑う.結論として,頭痛診療において,精神疾患の見落としに気をつける必要がある.





国際頭痛分類 第3版(ICHD-3)日本語版の書評

2018年12月18日 | 頭痛や痛み
日本頭痛学会・国際頭痛分類委員会 竹島多賀夫委員長よりご依頼をいただき,標題の書評を執筆させていただいた.私は,病棟の若い医師に,頭痛の診断をする際には『国際頭痛分類 第3版』に則って診断をするように強く勧めている.書評には「その理由」や「頭痛診療の上達法」について記載した.ご一読いただければ幸いである.

頭痛専門医にとどまらず,全臨床医必携の書
書評者:下畑 享良(岐阜大大学院教授・神経内科・老年学)


 頭痛はさまざまな診療科の医師がかかわるコモン・ディジーズである。脳神経内科,脳神経外科,内科,小児科医,総合診療医のみならず,耳鼻咽喉科や眼科,ペインクリニックなどにも患者が訪れる。また救急外来においても多くの頭痛患者が来院する。よってこれらの医師は頭痛診療をマスターする必要があるが,頭痛の診断や治療は必ずしも容易ではない。それは,頭痛は非常に多彩な原因があるため,正しい診断にたどり着かず,その結果,正しい治療が行われないことがあるためである。頭痛は患者のQOLに直結し,かつ生命にもかかわることがあるため,正しい診療がなされない場合,患者への影響は大きい。また医師の立場からすると,自らの診断や治療による頭痛の改善の有無が明瞭にわかるため,改善が乏しい患者を複数経験した結果,頭痛診療を苦手と感じてしまう。その一方で,正しく診断,治療し,患者から「頭痛が良くなった」という報告を聞くときは非常に嬉しく,やりがいを感じる。

 私は,病棟の若い医師に,頭痛の診断をする際には『国際頭痛分類 第3版』に則って診断をするように強く勧めている。分類を暗記する必要はなく,病棟や外来に一冊置いて,必要に応じてその都度,辞書のように使用する。初めは億劫で,内容も複雑に思えるかもしれないが,継続して丹念に頭痛を分類に当てはめることにより,徐々に頭痛診療において重要なポイントがわかってくる。明白な片頭痛や緊張型頭痛であればこの分類は必ずしも必要はないが,診断がはっきりしないときや,その他の特殊な頭痛が疑われる場合には非常に有用である。治療については併せて『慢性頭痛の診療ガイドライン〈2013〉』を読み実践することで,頭痛診療の能力は飛躍的に向上する。そこまで到達したらぜひ日本頭痛学会の定める認定頭痛専門医にも挑戦していただきたい。

 本書は2013年以来の5年ぶりの改訂で,beta版が取れて正式な第3版になった。beta版を作成した目的の一つである実地試験の結果が盛り込まれ,エビデンスの精度が向上している。またもう一つの目的であったICD-11のコードの収録は,ICD-11の公表が先延ばしになったことで見送られたが,「全般的コメント」が整理されて箇条書きに変更された結果,とても読みやすくなった。さらに診断基準後に「注」が付されて,診断基準を補足する記述が追加され,日々の診療により役に立つものとなった。本書は頭痛専門医のみが必要とするものではなく,あらゆる臨床医の必携の書籍として強く推奨したい。また頭痛患者を対象とした症例報告,臨床試験,その他の研究においては,この診断基準を満たすことが不可欠となる。その意味でも本書は重要である。

国際頭痛分類 第3版(医学書院)





後頭部激痛発作の意外な原因 -臨床の場における観察の重要性-

2017年07月22日 | 頭痛や痛み
岐阜大学神経内科・老年内科の林祐一先生らが,後頭部の激痛発作を呈した3症例についてHeadache誌に報告している.非常に重要な指摘であるのでご紹介したい.

3症例とも頭痛を主訴に救急外来を受診し,頭部CTないしMRI検査が行われたが,頭蓋内に後頭部痛の原因となる病変を見出せず,診療医にとって「理解しがたい激しい頭痛」であった.くも膜下出血にも類似する激しい頭痛を呈する症例も存在し,まさに激痛発作という表現が当てはまった.

実は,これらの症例は視神経脊髄炎(NMOSD)の再発であった.林先生らは,2007年から2016年までの10年間で経験した3症例の臨床症状および画像所見について検討している.全例,AQP4抗体陽性のNMOSDで,頭痛歴のない女性であった.いずれもステロイド単剤による維持療法中(15-17.5mg/d)の再発であった.後頭部の激痛であるため,大後頭神経痛も鑑別に挙がったが,頸髄MRIでいずれもC2椎体レベルの脊髄の背側部分を含む病変がみられたため,再発と判断した.痛みに対してNSAIDsや抗痙攣薬は無効であったが,ステロイドパルス療法が有効であった.既報を渉猟したところ,NMOSDだけではなく,多発性硬化症や初発の特発性脊髄炎でも同様の症状を呈し,画像上,C2椎体レベル脊髄の背側高信号を認めた例が報告されている.偶然にも私たちは,同じ号のHeadache誌に頸原性頭痛の臨床像を報告しているが,これらの症例の頭痛は,頸原性頭痛として矛盾はないように思われる.
 
以上より,以下の2点を強調したい.
1)NMOSDの臨床症状として,後頭部激痛発作を認識する必要がある.
2)後頭部激痛発作を認めた場合,頭部に異常がない場合,頸髄MRIを確認する.


以下,林先生から頂いたコメントを転記しておく.
『10年前に文献検索をしたときには,NMOSDの症例で1例もこのような症例が報告されていませんでした.当時1例報告をしようと思いましたが,NMOSDなので脊髄に病変がおきるのは当たり前という意見もありました.しかし,なにか新しい現象かもしれないと思い,頭の隅に絶えずこの患者さんのことを思っていました.2例目,3例目と続く中で思いは確信に変わりました.神経内科医が不在の地域では診断の遅れにもなるため,世界中の多くの医師にこの現象を知ってもらう必要があると強く感じました.この論文は患者さんが教えてくれた診療の技かもしれません』

彼のコメントは東京大学神経内科初代教授の豊倉康夫先生のおっしゃられたことを思い起こさせる.
「臨床の場では,同じ性質の現象が繰り返し現れてくるが,それを見逃さないように」「一度見たことにあまり意味をつけるな.ただ良く覚えておけ.二度見たら何かあると思え.それは残念ながら,大体 99.9%は本に書いてあることが多いが,稀には誰も気付いていないこともある!三度見たら只事ではない.それは,常に何物かである!」
二人の言葉は,臨床の場における観察の重要性を示している.

論文アブストラクト



むずむず「口」症候群と口腔灼熱症候群

2017年06月20日 | 頭痛や痛み
レストレスレッグス症候群(RLS),別名むずむず脚症候群/Ekbom症候群は,不快感のため足を動かしたい衝動(urge to move the legs)を呈する疾患である.しかし足以外にも,自然経過もしくは治療によるaugmentationにより,症状が広がり,全身に及ぶことがある.しかし足に症状がなく,お腹にだけ,むずむず症状を来すということがあり,「むずむず腹症候群」として報告されている(Neurology 77; 1283-1286, 2011).これにはとても驚いたので,過去のブログにて紹介した.

驚きの・・・むずむず「口」症候群

今回,なんと口にだけむずむず症状が出現した症例が報告され,さらに,これまでburning mouth syndrome(口腔灼熱症候群)と呼ばれていた症例のなかに同様の症例が含まれているのではないかという指摘がなされているのでご紹介したい.

症例は60歳男性,主訴は口の不快感.転倒による頸部の外傷後,2-3ヶ月して口の不快感が出現した.部分的に腫れてしびれた感じであったが,痛みや灼熱感はなし.徐々に舌や両側頬の表面,そして口全体に広がった.リラックスし,口を開けている時には症状は悪化する.顎を動かしたい衝動が出現し(urge to move his jaw),実際に顎や舌を動かすと症状は一時的に改善する.ガムを噛んでも良くなるが,完全には消失しない.口を閉じていると改善しうるため,バンドで固定していた.日内変動があり,午前中に症状が出現し,夜になると悪化した.寝るときは枕で顎を固定すれば眠ることができた.三叉神経痛,頭痛,末梢神経障害,RLSの既往や家族歴なし.薬剤使用歴なし.口腔内乾燥を含め全身および神経診察に異常なし.検査所見(画像,脳波,針筋電図)でも特記すべき異常なし.

ガバペンチンとプレガバリン,オクスカルバゼピンは効果なし.食事や発語による顔面の症状の増悪は三叉神経痛で見られるが,本例では逆に改善がみられたことから,RLSが口にのみ出現している可能性を疑い,プラミペキソールの処方を開始.0.125mgを1日3回として外来で経過を見たところ,1ヶ月後に症状は軽減,ガムを噛まなくてもよくなった.5ヶ月後,1日0.5mg(0.125mg-0.25 mg-0.125mg)で改善は維持されている.

興味深いことに,過去に少なくとも12例のburning mouth syndromeで,ドパミンアゴニストにより症状が改善した症例が報告されている.12例中11例は夜に増悪し,10例は食事や会話などの口の運動で改善している.また一部の症例はRLSを併発している.国際RLS研究班(International restless legs syndrome study group:IRLSSG)による改訂診断基準を満たす症例がある.

1: 脚を動かしたくてたまらない衝動と不快感
2: 安静時に悪化
3: 脚の運動により不快感が軽減ないし消失
4: 夕方から夜に悪化
5: これらの特徴を持つ症状が,他の疾患・習慣的行動で説明できない

近年,RLSは四肢に症状を認めなくても他の身体部位に出現しうることが報告され,このような非典型例に関する総説もごく最近出版された(Sleep Med Rev. 2017 Apr 4. pii: S1087-0792(17)30080-1).これによると,会陰,腹部,膀胱の症状が,古典的なRLSを伴ったり,伴わなかったりで出現する.この総説で,とくに注目しているのがburning mouth syndromeと会陰部の症状を呈するrestless genital syndromeである.このような非典型的な部位であっても,RLS的な特徴を認めたら,まずIRLSSG改訂診断基準に当てはめること(ただし項目の1と3は身体部位によっては診断基準を当てはめにくいので工夫が必要),そしてドパミンアゴニストを処方し,治療的診断を行うことを提唱している.このようにいろいろな部位にRLS症状が出現しうることを知って,疑うことが大切である(マンガのように尻尾にもむずむずが出現して,動かさずにいられないこともある・笑).

Restless mouth syndrome. Neurology Clin Practice 2017









頸原性頭痛の臨床像は従来の報告とは異なるようだ

2017年06月05日 | 頭痛や痛み
頸原性頭痛は,1983年,Sjaastadが提唱した頸部疾患を原因とする頭痛で,慢性・非拍動性で,痛みの程度は中程度から重度と比較的重く,後頭部,前頭部,眼窩周囲といった特徴的な痛みの分布を示す(図A).このような分布を示す理由として,頸部疾患による上位頸神経の障害が重要と考えられている.つまり,三叉神経脊髄路はC3まで脊髄を下降するが,上位頸神経(C1-3)からの入力は,三叉神経脊髄路核尾側亜核において,三叉神経とともに収束する(図B).このため,頸部疾患により上位頸神経が障害されると,三叉神経脊髄路核を刺激し,後頭部痛だけでなく,三叉神経領域の前頭部や眼窩周囲に痛みが及ぶらしい.しかし,この説で説明できない中下位頸椎疾患による頭痛も過去に複数報告されていた.

今回,新潟大学,亀田第一病院,新潟脊椎外科センターは,手術を必要とする頸椎疾患患者における頸原性頭痛を,国際頭痛分類第3版βに基づいて診断し,その有病率,臨床像,危険因子,手術による効果を,前方視的に検討した.対象は,頸椎手術を施行した70症例(頸椎症性脊髄症53例,後縦靭帯骨化症7例,頸椎症性神経根症5例,頸椎症性脊髄・神経根症5例)である.

結果として,既報と異なる複数の新しい知見を見出した.第1に,頸椎疾患手術患者における頸原性頭痛の頻度は,80%台という2つの既報と比べると顕著に低く21.7%であった.しかしそれらの既報では国際頭痛分類に基づいた頭痛の診断が行われてなかった.第2に頸原性頭痛患者は,後頭部やこめかみの重苦しい頭痛が多いものの,程度は比較的軽度で,鎮痛薬を必要とする患者は1例のみであった.さらに全例がC4以下の中下位頸椎レベルでの障害を認め,上位頸神経の障害の患者は含まれていなかった.どうも既報の頸原性頭痛と異なる頭痛を観察している可能性が高い.第3に頸原性頭痛の危険因子として,頸部痛,頸部可動域制限,Neck Disability Indexスコア高値を見出した.これらは基礎疾患である頸椎疾患が重篤であることを反映している.最後に本研究は初めて,頸椎椎弓形成術が,多椎間に及ぶ頸椎疾患による頸原性頭痛の治療に有効である可能性を前方視的に示した.

一番の関心は,なぜ中下位頸神経障害で頭痛が生じたかである.一つめの説は,痛み刺激は神経根から脊髄後角を経て,反対側の前脊髄視床路を上行するが,一部の侵害刺激は同側のspinocervicothalamic tractを上行する.この同側の背外側索を上行する温痛覚求心路の一部であるspinocervicothalamic tractが,三叉神経脊髄路核と連絡があるため,下位頸神経からの刺激で頸原性頭痛を生じるというものである.もう一つの説は,中下位頸椎の可動域が減少し,代償性に上位頸椎の可動域が増加し,その刺激が三叉神経脊髄路核を介して,頸原性頭痛をひきおこすというものであるが,今後の検証が必要である.論文の査読者からは,頸原性頭痛の臨床学的概念を拡大して,下位頸椎疾患に伴う頭痛を,国際頭痛分類のappendixとして加えるべきかの議論が必要であるというコメントを頂いた.

Shimohata K, Hasegawa K, Onodera O, Nishizawa M, Shimohata T. The Clinical Features, Risk Factors, and Surgical Treatment of Cervicogenic Headache in Patients With Cervical Spine Disorders Requiring Surgery. Headache (on line) DOI: 10.1111/head.13123 



アイスクリーム頭痛研究の最前線 ―その遺伝と誘発法,そしてねこ―

2017年01月19日 | 頭痛や痛み
アイスクリーム頭痛(Ice cream headache:ICH)は,冷たいものを食べたときに生じる頭痛で,英語では「brain freeze」とも呼ばれる.国際頭痛分類第2版で,アイスクリーム頭痛は正式名称として使用されたが,第3版β版では「寒冷刺激による頭痛」と名称が変更された.自分もアイスクリーム頭痛があるため関心があり,過去2回ブログに取り上げ,そのメカニズムと対処法を記載した.

なぜアイスクリームで頭痛が起こるか?
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ただアイスクリーム頭痛は健康に害を及ぼさないことから,あまり研究意欲を掻き立てないようで(笑),論文は少ない.しかしドイツは頑張っていて,2016年の特筆すべき2つの研究もドイツのものであった.ドイツ人はアイスクリームが大好きで,その消費量は世界8位だそうだ(ちなみに日本は17位).

さて以下,2016年の注目すべき2つの研究を紹介する.

1.アイスクリーム頭痛の遺伝
10~14歳の生徒283名,その親401名,そして教師41名を対象として,自己記入式質問票を用いて,国際分類に基づいた頭痛の診断を行った.親子の頭痛の関連,そしてアイスクリーム頭痛とその他の頭痛の関連について検討した.

結果であるが,生徒におけるアイスクリーム頭痛の有病率は62%で,性差なし.しかし,成人では有病率は減少し,女性36%,男性22%と,女性に多く認められた(図左).
遺伝に関しては,両親にアイスクリーム頭痛を認めるとき,子供の有病率は増加した(オッズ比は母の場合10.7倍,父の場合8.4倍と高い).両親にその他の頭痛があっても,子供のアイスクリーム頭痛の有病率に影響はなし.
一方,アイスクリーム頭痛を認める生徒,成人とも,他の頭痛(主に片頭痛が多い)の有病率が増加した(オッズ比は生徒2.4倍,父6.8倍,母2.9倍).逆にその他の頭痛がない場合,アイスクリーム頭痛の有病率は減少した(オッズ比0.4未満).

以上より,(1)アイスクリーム頭痛は子供に多く,成人では少なくなること,(2)アイスクリーム頭痛には遺伝的素因があること,(3)アイスクリーム頭痛はその他の頭痛(主に片頭痛)の危険因子となることが明らかにされた.


2.実験的アイスクリーム頭痛
誘発方法としては,角氷,氷水,アイスクリームが知られている.しかしどの方法が良いのか,また異なる方法で頭痛のタイプが変わるのかは不明であった.このため,角氷と氷水という2つの誘発法を比較する研究が行われた.ひとつは角氷(-16℃)を口腔に入れて,舌と硬口蓋で90秒圧迫し冷却する方法,もう一つは氷水(0℃)200ccを一気飲みする方法である.

さて結果であるが,氷水のほうが角氷より頭痛をより高頻度に誘発した(39/77=51%対9/77=12%). また氷水で頭痛はより早く出現し(中央値15秒対68秒),痛みの程度も強かった.頭痛の出現場所は変わらなかった(図右).頭痛の性状は異なり,角氷では圧迫するような痛み,氷水では突き刺すような痛みであった.氷水による頭痛の26%に,最初の頭痛のあとに2回めの頭痛が出現した(アイスクリーム頭痛に2つの種類・機序が存在する可能性を示唆する.).流涙はアイスクリーム頭痛を認めた人で多く認められた(三叉神経・自律神経反射を示す).
以上より,氷水は角氷と比べ,高頻度に,出現潜時の短い,より強い頭痛を来すことが分かった.このことは温度より冷却される部位の広さや,冷却のスピードが重要であることを示している.

ちなみに自分でも試してみた.やはり角氷では誘発されず,氷水では軽度の痛みが出現した.角氷は局所的に冷却されるが,溶け出した氷水によって徐々に口腔内が冷却される感じがした.一方,氷水は,確かに一度に急速に口腔全体が冷却される感じがした.やはりアイスクリーム頭痛の誘発法は氷水が良さそうである.

3.ねことアイスの実験
アイスクリーム頭痛と片頭痛は関連する可能性が複数報告されている.アイスクリーム頭痛では,三叉神経や舌咽神経に対する寒冷刺激が引き金になること,寒冷刺激に伴い,血管の急速な収縮と拡張が起こり,血管周囲に分布する三叉神経が刺激され神経原性炎症が起こることなど,片頭痛の病態とオーバーラップがみられる.

そうであれば,きっとねこにもアイスクリーム頭痛があるはずだ.なぜなら片頭痛の実験にしばしばねこが用いられるためだ.このため以前から,我が家のねこのキキちゃん(あめしょー4歳)にアイスクリームやかき氷を何度も与えてみたのだが,ただ美味しそうに食べているだけだった(どうも大好物らしい).結果に納得がいかずネットを調べたところ・・・いくつもの動画がありました.ねことbrain freezeで検索するとたくさんある.一瞬,頭が痛くなり,びっくりするようである.当然,動画はドイツからのものである.

Cats gets brain freeze Compilationn


Zierz AM et al. Ice cream headache in students and family history of headache: a cross-sectional epidemiological study. J Neurol. 2016 Jun;263(6):1106-10.

Mages S et al. Experimental provocation of 'ice-cream headache' by ice cubes and ice water. Cephalalgia. 2016 May 19. pii: 0333102416650704. [Epub ahead of print]

三叉神経・自律神経性頭痛(TACs)の診かた@第44回日本頭痛学会

2016年10月23日 | 頭痛や痛み
第44回日本頭痛学会@京都に参加した.頭痛の診療は奥が深いとあらためて感じた.頭痛は有病率の高い疾患であるが,そのなかには診断を誤りやすいもの,難治性のもの,場合によっては命にかかわるものがあり,それらに適切に対処するため,医師は診療のレベルアップをはかる必要がある.そのためにはまずは頭痛の国際分類を理解し,正しく診断を行なうことが重要である.日本頭痛学会総会ではこのための充実したプログラムを多数組んでおり,神経内科だけでなく多くの診療科(脳外科,ペインクリニック科,小児科,精神科等)の先生方のレクチャーを聴くことができる.

さて日本頭痛学会総会(2016年10月21日~22日)の生涯教育セミナーで,TACsが集中的に取り上げられ,非常に勉強になったのでまとめておきたい.国際頭痛分類第3版(ICHD3beta)において,TACsに分類される頭痛は,通常一側性で,しばしば頭痛と同側で一側性の顕著な頭部副交感神経系の自律神経症状を呈するという共通の臨床症候を呈する.このなかには3.1群発頭痛,3.2発作性片側頭痛,3.3.1 SUNCT,3.3.2 SUNA,3.4 持続性片側頭痛などが含まれる.PETやMRSの評価で,これらTACsに共通するメカニズムとして,視床下部の活性化が報告されている.



A. 群発頭痛

(病態と診断)
発症機序については非常に多くの説がある(視床下部,メラトニン,オレキシン,CGRP,翼口蓋神経節).
悪心や体動での増悪が多く,片頭痛と診断される恐れがある.
慢性群発頭痛は日本人では少ない.
鑑別すべき二次性頭痛として下垂体腫瘍などがあるが,MRIを撮像すれば見逃しは防げる.
(治療)
ガイドラインに則って行なう.
1)急性期治療
Grade A;スマトリプタン皮下注(1日2回まで.キットが良い),酸素(7L/min 15分間;発作3回以上のときはスマトリプタン皮下注が使えなくなるので,併用すると良い)
Grade B;スマトリプタン点鼻,ゾルミトリプタン経口
反復性群発頭痛を,片頭痛と誤診し,トリプタン錠の処方が大量にされていることがある.
2)予防療法
Grade B;カルシウム拮抗薬(ベラパミル:ワソラン®),副腎皮質ステロイド,適応外使用.
アメリカ頭痛学会のガイドラインでは,後頭神経ステロイド注射がGrade Aとして推奨されている.また無効であり,使用を避けるべきものとして,バルプロ酸,スマトリプタン経口,DBSがある.とくにスマトリプタン経口は臨床現場で行われている可能性が高く,注意が必要.
(注意すべき点)
心疾患のない,若年者であれば,ベラパミルは240 mg/日から使用してよい(問題があれば120 mgから開始する). 順番は副作用の少ないベラパミルから開始して,予防が難しければ,ステロイドを併用する.ステロイドをやめるときは漸減し,中止する.


B. SUNCT/SUNA

(病態と診断)
Short-lasting unilateral neuralgiform headache attacksのサブタイプとして,「結膜充血および流涙を伴う短時間持続性片側神経痛様頭痛発作(SUNCT)」と「頭部自律神経症状を伴う短時間持続性片側神経痛様頭痛発作(SUNA)」が並記されている.SUNAはSUNCTと似た病態だが,自律神経症状のみ認め,結膜充血と流涙は伴わない.両者とも従来「痛みの持続時間は5〜240秒」とされていたが,ICHD3betaでは最長600秒となっている.
群発頭痛の1/10,女性がやや多い.あまり有効な治療がなく,難治に陥ることがある.
反復性と慢性のタイプがあるが,アジア人では慢性例が少ない可能性がある.
発作中は目を押さえ,ベッドでのたうち回るような状態になるが,1-2分で落ち着いてくる.
鑑別診断は後述する発作性片側頭痛で,鑑別にはインドメタシンを使用する.一部の症例では,三叉神経の血管による圧迫が見られ,治療としてdecompressionが有効な症例がある.
(治療)
1)急性期治療
リドカイン静注(1-4 mg/min)で改善する.この量は,日本で不整脈に使用される場合とほぼ同等.
4~7日間継続する.保険病名として難治性疼痛にすれば,リドカインは使用できる.
2)予防療法
第一選択はラモトリギンで,25から200mgへ漸増する(皮疹に注意).ただし,ガイドラインではグレードCである.その他,トピラマート,ガバペンチンが使用される.


C. 発作性片側頭痛(paroxysmal hemicrania; PH)
(病態と診断)
発作(側頭部・後眼窩の痛み,流涙,結膜充血,鼻閉,鼻漏)が20回/日以上ある.2-30分持続するが,インドメタシンで寛解する.40歳前後の発症で,誘因としてアルコールが知られる.
三叉神経第1枝が多い(三叉神経痛との鑑別が重要で,移行例もある).
反復性,慢性のタイプがある.
頻度は群発頭痛の2割程度で,SUNCT/SUNAよりは多い.
夜間発作もある.REM期に生じる(群発も夜間に多い)
1日5回以上が多い.1日8回を超えると群発頭痛の可能性が減り,PHやSUNCT/SUNAを疑う必要がある.

(治療)
1)急性期治療
Grade A;インドメタシンで寛解する.150 mg/日を3-6回に分けて内服する(1週間以上ためす.即効錠,徐放錠いずれがよいということはない).筋注で効果があるか,テストも行なってもよい.


D. 持続性片側頭痛(hemicranias continua)
(病態と診断)
もともとは群発頭痛の亜型として報告された.
頭痛増悪時に片側性に結膜充血や流涙,鼻閉,鼻漏,眼瞼下垂,縮瞳などの自律神経症状が発現する.他のTACsは持続時間が極めて短時間であり,数秒~数分で消失するが,PHは数カ月から数年間続く.ICHD3betaからTACsに追加されたが,他のTAC同様に自律神経症状が極めて著明であることと,インドメタシンが治療に有効であることが理由である.HCはTACsと片頭痛の病態がオーバーラップしていると言われている.鑑別診断は,慢性片頭痛,新規発症持続性連日性頭痛,MOHで,インドメタシン反応性で鑑別可能である.
(治療)
インドメタシンで完全寛解する(効果は初回投与の72時間以内に見られることが多い).ただし,二次性頭痛でインドメタシンが効く症例もあり,注意を要する.日本ではインドメタシンの上限は75mgになっている(25 mgを1日2-3回で試す).胃薬を併用する(プロドラッグであるインフリー250 mgは,インドメタシン25mgに相当する).徐々に減量する.

図はBritish J Pain 2012;6(3);106-123より引用