日々・from an architect

歩き、撮り、読み、創り、聴き、飲み、食い、語り合い、考えたことを書き留めてみます。

建築文化って!なんだ

2005-08-12 10:57:57 | 建築・風景
トラックバックしてくれたSKIYOSEさんとOYABINさんのコメントは、結構重い課題を提示している。一見素朴に「なぜ」と問うSさんは、全てを消費物としてしか考えないのでは文化の蓄積ができないと慨嘆している。

僕は最近建築は、どうあれ経済行為を抜きにして論考できないと思いはじめている、というよりは,それ抜きにして論陣を張ると馬鹿を見ると少々開き直っているが、それでも腹に据えかねることがある。

その格好の事例が、東京と大阪の中央郵便局。
この建築は郵政の建築を率いた吉田鉄郎の代表作だが、公社化がなされ、さらに民営化をめぐってついに衆議院解散にまでになった争点を内在している。
日本の文化人、良識を代表していると自認( していないか?)しているI・N氏が、不良資産である郵政施設を取り壊して高層化すべし、その筆頭が東京と大阪駅前に建つ二つの中央郵便局であると、とうとうと自慢げにTVで話しているのを見ると、がっかりする。

郵政の建築はクオーリティが高く、他の建築の創り方に大きな影響を与え、日本の建築文化を率いてきた。確かに中央郵便局として機能はなくなったが、丸の内と梅田の風景として欠かせない文化遺産なのに・・・

実はそれに関連して気になる発言があった。
新しく就任した三菱地所の社長が、個人としての見解だが、と断ってのことだが、「東京中央郵便局が再開発されれば東京駅前が一段落して、とてもいい形になると思う」とコメントしたと7月7日、建設通信で報道された。これはどうも確信犯的な発言のような気がする。
では歴史的に評価の高い八重洲ビルや、社運をかけて建てた三菱商事ビルなどを取り壊して(建築文化を)復元しようという「三菱一号館」復元の理論構築はどうなるのだろうか。所詮建築は経済行為、消費物だといっていることにはならないだろうか。建築文化とは?と問いかけたい。

Oさんトラックバックの、改修、改築する場合の、その建築を設計した設計者とのコンタクトの問題は、更に現実的な、切実な問題だと、新たな課題を突きつけられたような気がする。
八王子大学セミナーハウスはこれからどうなるのだろうと、正直不安になるが、Oさんが事例としてあげた旧NCRビル。
外周のダブルスキンや2Fの光をコントロールする縦ルーバーなど、竣工時に高く評価された仕掛け!は厳しい現法規の中で新しい技術を駆使して継承したことを評価してDOCOMOMO100選に選定した。
しかし指摘されているように、ホールの階段はなくなったし、見学をしたときに感嘆したVIP階の木で造られた味わいのあるパーティションも取り壊された。
この建築がどのような役割を持ち、何を継承すべきかをこの建築の設計者を交えて検証すべきだと思うが、残念ながらコンタクトがなされなかったという。
この建築はコンペによって吉村順三がやることになったが、提出前日の夜、吉村さんから塔屋の向きを変える、ということはエレベーターの向きを変える大きな設計変更指示がされ、図面変更だけでなく模型の作り変えも必死で徹夜でしたと、設計を担当した奥村さんから聞いたことがある。そのこだわりが名建築を生んだのだが、それを聞かずして手をいれられるものだろうか。

課題はこの改修を担当した事務所が、日本をリードしていくべき大手事務所で、建築家集団であるJIAでも大きな役割を担っていることだ。改修設計に当ってはクライアントとの間でさまざまなやり取りはあるものだが、建築家として先達に敬意を持つことの大切さをクライアントに伝え、其れを具現化するのも建築家の大きな役割ではないだろうか。

村野藤吾の旧千代田生命本社を目黒区役所にコンバージョンしたときに、担当したI事務所は微妙な階段手すりを、村野さんのご子息と相談してディテールを検討し見事に再生した。こういう事例もある。それを一つ一つ積み重ねていきたいものだ。