日々・from an architect

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四国建築旅(12)  レーモンドの設計した旧広見町(現・鬼北町)役場の存続問題

2009-12-04 10:40:05 | 建築・風景

今回の旅は、保存・改修された日土小学校の見学、シンポジウムに参加することとともに、チェコに生まれ日本のモダニズム建築を率いたアメリカ人の建築家、アントニン・レーモンドの設計した旧広見町(現・鬼北町)役場を見るのも、大切な目的だった。
この役場が気になるから日土を訪れたともいえる。

名を知られた建築家は、日本の(今や世界の!)各地に隈なく建築を建ててきた。隈なく建てたから知られていくのだが、地方都市にあっての建築の様に影響を与え、良きにつけ悪しきにつけまちの様相を変えていく。それが建築家という存在を世に送り出した近代化というものかもしれない。
しかしこの旧広見町役場が、この地で生まれ育った建築家の手によって(担当して)つくられたということを、この地の人々に受け止めて欲しいと、この地に所縁(ゆかり)の無い僕は強く願う。

町村合併によって鬼北町役場と名称が変わったこの庁舎は、地元(広見町・旧三島町小松)に生まれた建築家、レーモンド事務所の社長を務めた中川軌太郎(なかがわのりたろう)が設計を担当して、昭和33年(1958年・)12月に完成した、鉄筋コンクリート造による3階建ての建築である。
優れたモダニズム建築が世に湧き出て若かった僕の心を震わせた時代だ。

そうであってもおおよそ50年を経た現在(いま)どこでも同じことがおこるのだが、建築の老朽化と機能が時代の要請に合わなくなったと取りざたされ、建築の建てられた経緯を省みないまま建て替え論議がなされる。
僕がこの建築の存在を知ったのは、設計者軌太郎のご子息のレーモンド事務所総務部長中川氏から電話があり、資料を送ってもらったからだ。中川氏からの相談は、町村合併による町長選挙でこの庁舎を使い続けたいと述べた町長が当選したものの、様々な問題が起きているというものだった。

八幡浜のJAZZ BAR「ロン」でコルトレーンを聴いた翌日、土佐清水に行く前に宇和島のホテルから鬼北町に向った。スケジュールの都合で日曜日になり、さすがにこの日に鍵を開けて内部を見せていただけないかと事前に町にお願いし難く、外からだけでも見ておこうと思ったのだ。
ところがこの建築に何か不思議な縁があるのかもしれないと思うようなことがおきた。

庁舎の外を歩きながら考える。なんだかしっくりと来る。
外壁の打ち放しコンクリートの柱が真壁のように表現されており、日本家屋の多いこの地に馴染むように考えているからだ。南側に回ると、各階の窓の上部にコンクリートの大きな庇取り付けられており、日差しをコントロールしていると藤本さんが感心した。

二人で通用口に設置されている部屋をのぞくと人がいた。日直だ。この庁舎問題の担当をされているという。名刺を差し出しお願いすると庁内の見学や点灯も撮影の許可も得た。
この庁舎は中央に階段がありその周囲を廊下がとりまいているセンターコア形式である。設計者の意図は明快だ。無駄は省くが人と人、つまり町民と役場の職員との交流を見据えている。
議場の屋根はシェルになっており、壁にはガラスブロックが埋め込まれている魅力的な空間だ。建築家は自分がやりたいことをやろうとしてやった。

お礼を述べこの建築の面白さやレーモンドの話をしていたら、松山の設計事務所に委託した分厚い耐震診断書と耐震計画書を見て欲しいと言われた。
耐震壁が沢山入って使いにくくなると困惑しているのだ。使い続けようという目的が明快でないまま耐震改修構造計画をやるとそうなる、これからスタートするのだと述べた。
木造であっても耐震改修をして新しい魅力を発見した日土小学校や、コンペによって耐震改修も含めて保存・活用されることになった千葉県大多喜町の今井謙次の設計した町役場の事例を話した。そして是非ヒヤリングするよう薦めた。

帰京してから中川さんに報告し、日土小保存に関わった愛媛の建築家に状況を伝えた。
鬼北町役場には、僕も委員として関わって建築学会が策定した「既存建築物の保存・活用ガイドライン」や日土小学校などの資料を同封し、50年前にこの庁舎が建った経緯と、レーモンドと地元の建築家中川軌太郎の存在をまず町民に伝えていただきたいと書き記した。


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2 コメント

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観てみたい ()
2009-12-07 08:12:51
これもpenkouさんの写真拝見しただけで観てみたくなる建築ですね。
庇の型枠跡を見て、以前に私のブログで紹介したパイロット平塚工場を思い出しましたが、つい先日この工場も取り壊し完了してしまいました。
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使い続けてほしい (penkou)
2009-12-07 09:38:00
mさん
背の高い庁舎ではないので、街の中にさりげなくたっているという感じでした。隣に町の施設が建っているのですが、やはり一味違うのです。様々な問題があるのでしょうけど、この建築の魅力を引き出したいい保存改修をして、いつまでも使い続けてもらいたいものです。
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