日々・from an architect

歩き、撮り、読み、創り、聴き、飲み、食い、語り合い、考えたことを書き留めてみます。

はばかり文庫

2006-02-10 11:29:08 | 日々・音楽・BOOK

事務所のトイレの壁にカルメンとホセを描いたエッチングがあり、腰掛けると目の前に日経アーキテクチュアから送られたカレンダーが掛かっている。今月の写真は羽田の東京国際空港第二旅客ターミナルビルだ。
左下の床に紙のBOXが置いてあり、そこに建築ジャーナルの数冊のバックナンバーとか建築士会の機関紙やカード会社のTHE GOLDというなかなか面白い月刊誌が収まっている。
これを僕は密かに、「はばかり文庫」と言っている。若者には、はばかりと言ってもわからないだろう。そこがエヘヘヘ、おしゃれだと思うのだけど。

僕のバックボーンになっているJIAや建築学会の機関紙はちょっとここには置きにくいのだが、溢れる本の中でさっと流し読みした冊子を置いておくと、思いがけない発見もあって結構刺激を受けるのだ。

例えば「建築東京」と言う東京建築士会の機関紙には、写真家増田彰久さんの「近代化遺産 カタチ」、下村純一さんの「建築虫眼鏡」と言う見事な写真となんとも魅力的なエッセイが収録されている。
お二人とも面識があり、特に下村さんは高崎にあるレーモンドの「音楽センター」のDOCOMOMOシンポジウムでパネリストになっていただき、コーディネータをやった僕と意気投合したことがあるのでなんとも楽しい。その記述を`はばかり`で読んでいるとは、申し訳ないような、充実した一時を共有しているような不思議な気持ちがする。

今朝BOXから今年の一月号を取り出して開いてみた。増田さんは「フォース橋」というスコットランドにある巨大な橋だ。「初めてこの橋を眼にしたときの感動は今でも忘れられない」とその魅力を余すところなく捉えた写真と共に書き、近づいて橋を見上げて「おお、これぞ産業革命」と訳のわからないことばを発してしまった、とある。思わず丸顔で柔和な増田さんのにやりとした顔を思い浮かべる。

下村さんの論考は更に興味深い。
ライトの帝国ホテルを捉えて<ライトは背が低い?>
大谷石のレリーフが床にまで達しいるのに対する反応。思わずトイレ,いや `はばかり` でうなずく。さらに<写真は、身体を刻印する>とある。二川幸夫、村井修、増田彰久、多くの写真家は概して背が低く、「低い目線は、その分空間の堂々とした拡がりを感知しやすく、結果、建築に魅せられやすい」のだという。

そうか僕の写真が素晴らしいのは背が低いからだ。建築に魅せられやすい?僕のことを言っているのではないか!密度の濃い一時。僕は村井さんとも親しく、二川さんとも縁がないでもないのだが、お三人より僕のほうが背が低いのだ。でも残念なのは、そういう不遜なことは`はばかり`を出るとすぐに忘れてしまうことだ。

昨秋のTHE GOLD10月号をパラパラとめくっていてオヤッと思った。この冊子には建築雑誌とは違う視点で住宅が紹介されていて刺激を受けるのだが、気がついたのは、読者のアンケートを取った「子どもの頃の思い出の本、子どもに読ませたい本」という特集である。

思い出の本の10位にランクされた「フランダースの犬」の、ねじめ正一さんのコメントが秀逸だ。
<おじいさんが死に、放火と盗みの濡れ衣を着せられ、困窮の中、ネロが犬のパトラッシュと共に死んでいく最後のシーンは悲しくてたまらなかった。うちのオクサンは子どもができて子どもたちに読み聞かせていたが、いつも必ずおじいさんが死ぬ場面から後半でオクサンが泣き声になり、そのうち子どもたちは、オクサンの泣き声の読み聞かせが面白くて「フランダースの犬」だけを何度もせがむようになった。
おじいさんの死ぬ場面になると、オクサンの泣き顔を見るのを楽しみにしている子どもたちのワクワク顔を,今でもはっきり覚えている>とある。
ねじめさんはなんと素敵なオクサンを貰い、こどもたちはなんとも素敵なお母さんを持ったものだ。

ちなみに一位は「ちびくろ・さんぼ」だ。これには僕も思い出がある。
この絵本は人種差別だとして一時姿を消したが昨年岩波から復刻された。僕は愛妻と共に何度娘に読み聞かせたことか。幼稚園に入る前の娘はついに覚えてしまい、僕たちは、ぐるぐるぐるぐるまわってバターになってしまうトラの有様を娘が舌足らずで言うのが面白くて繰り返し言わせ、とうとう録音までした。探せばテープが出てくるだろう。

ねじめさんの子どもはオクサンが面白く、僕と愛妻は娘が面白い。その娘も大きくなってお正月になると僕たちにお年玉をくれるようになった。僕は密かに涙しているのだ、よ!
ところで同じ欄に作家柴田ふみの「龍の子太郎」の思い出が書かれている。お乳の代わりに自分の目玉をくりぬいて赤ん坊の太郎にしゃぶらせた龍。龍の目玉ってどんな味なのだろう!だって。
いやあ、こわいなあ!
狭い`はばかり`で僕は思考する。

ちゃんと読もうとはばかりから持ち出すこともあるのだが、僕の文化論考の源は,はばかりにあるのだ。


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5 コメント

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はばかりながら・・・ (遊行七恵)
2006-02-10 12:56:16
思わずニヤリとなりました。



随想ですね、想のおもむくまま心に随うまま。

いいですねえ。



ところでわたしはあんまりカメラワークがうまいとは言いがたいのですが、もしかして長身のせいかな、と焦りました。どきどき。

増田ファンたるわたくし、少しでも近づけたらと思っていたのですが、どーも▲▲▲・・・



フランダースの犬はアニメでずっと見てました。カラオケではその絵が出るので、歌う度にツレ皆で泣いてしまいます。



ちびくろサンボは幼稚園のとき大好きで小学一年生の学習発表会では朗読しましたが、真冬だからか、マッチ売りの少女を朗読した子は褒められて、わたしは季節感がない奴だと言われましたヨ。でも、寒いからせめて暑い国の話を、と思ったのですけどね。



『いやいや園』と『おにたのぼうし』がいまだにわたしの中に暮らしています。
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カルメン (xwing)
2006-02-10 23:10:47
 ビゼー作曲の歌劇「カルメン」はとても好きな舞台の1つです。そのエッチングを見せられてしまってはコメントせずにはいられませんね。オペラは好きなのですが、私生活ドロドロはご勘弁…。(オペラはドロドロばかり…。)

 うちの「はばかり」は何も無しの味気ない空間です。さて、彩りを添えるとすると、どの趣味でいくか…。
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もてる! (penkou)
2006-02-11 21:54:20
「フランダースの犬」が気になり、岩波少年文庫版を図書館で借りてきました。読んでるはずなのに忘れてしまったので。

明日の札幌行きの飛行機で読もうかとも思うのですが、泣き顔を隣の人に見られるのもねえ!

でも遊行さんは、アニメの主題歌をカラオケで歌い合って涙するのですか。スゴイなあ!



小学校1年生のときに「季節感」ですか!いやいやどんな子(娘)だったのだろう。



背が低いより高いほうが得してるのではないかなあ。写真で建築を撮るときの、20センチとか30センチとかは結構大きいのです。シフトをちゃんとするためにね。プロだって4×5のとき、機材を入れるアルミのがっちりした箱の上に載ったりするのですよ。ごく普通に。

僕があと20センチ背が高かったら、もっと(もっとというところが我ながら・・)もてるのではないかと!なんてネ。半分思っています。



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ドロドロ (penkou)
2006-02-11 21:57:58
ドロドロ?

あのカルメンの魅力は?ドロドロ?ホセにはなりたくないですねえ。雪はいかがですか?千歳に着陸できるかなあ!!
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明日は何がなんでも (xwing)
2006-02-11 22:31:05
飛行機には、飛んでもらわねば!明日は荒れる予報ではないです。

 2年生達はpenkou師に発表を見て頂けると、連日深夜まで頑張ってます。講評で泣かしてやってください!思いっきり!実は今も学校におります。卒業設計の方もなかなかですよ。

 歌劇は当時の権力者に対する皮肉や不満を内在して書かれていて、男女のドロドロをテーマにしたものばかり。私はすぐ引くので、あり得ませんが。

 さて、ではお待ちしております。初日は余市、小樽、雪祭りです。
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