日々・from an architect

歩き、撮り、読み、創り、聴き、飲み、食い、語り合い、考えたことを書き留めてみます。

ガラスの建築・金沢21世紀美術館

2006-07-15 21:22:23 | 建築・風景

金沢工業大学(KIT)と連携をとってアーカイヴス設立の検討しているJIAアーカイヴ委員会の後、建築家会館(JIA)のバーで建築談義になった。
この日はKITアーカイヴス館長の建築歴史の研究者竺(チク)先生も金沢から駆けつけて同席されており、委員だけでなくバーにいた室伏次郎さんや河野一郎さん山口洋一郎さんという建築家も加わり、僕がいるものだから自然に保存の話になった。

「ところで金沢21世紀美術館をどう思うか?」と言い出したのは、委員長の大宇根さんだ。あのガラス建築はいつまで持つかというのだ。
前川國男の薫陶を受け、その苦悩を眼の当たりにした前JIAの会長の彼は、ことある毎に今の建築のあり方に警鐘を発している。確かに建築は、ことにコンクリートの打ち放しを多用したモダニズム建築は、メンテナンスをしっかりとやらなくては存続できない。

大高正人さんの栃木県庁舎の議会棟は,氏の代表作というだけでなく、PCを使った日本のモダニズム建築の成果として高く評価されているし、確かに発表当時の写真を見ると、技術の革新と、だから生み出された建築の姿に今でも僕の心が騒ぎ出す。しかし張力を受けとめるコネクターが傷んきて、修復がままならない。
大宇根さんは、前川事務所の時代の先輩でもある前川さんの愛弟子大高さんが、前川の苦悩を引き受けていないと手厳しいのだ。

僕は事務局長を担い、その存続を願って活動をするために4年前に設立した「神奈川県立近代美術館100年の会」(略称「近美100年の会」)発足時のシンポジウムで、槇文彦さんがこの鎌倉の近美のようなモダニズム建築は、理論より何よりメンテをやらなくては残せないのだと呟くように発言されたのをいつも思い起こす。
その仕組みや物理的な問題だけでなく、建築を愛する心が大切なのだという槇さんの志が忘れられないのだ。それはまた「建築をどう創るか」という命題にもなっていく。

大宇根さんの論旨は明解で、メーカーの保障も取れない「シール」つまりコーキングを頼りにするガラス接合建築の否定論でもあるし、メンテに金の掛かる建築を何の危機感も持たずに創り続ける建築家のあり方への問いかけでもある。

俄然話が面白くなった。

委員でもありJIA副会長を担う水野一郎KIT教授もいて、金沢での評判や使われ方情報もリアルタイムで聞けるからだ。
場所を行きつけの中華料理屋上海へ移し、紹興酒を飲みながらのやり取りは、傍から観ると殴りあい寸前と見えたかもしれない。こういうのを喧々諤々と言うのか。日本設計の渡邊善雄委員も唖然として聞き入っている。

「兼六園の真下の古都の趣の残る街に降って沸いたようなあの円形のガラス建築を、町の人はどう見ているのか」とKITアーカイヴ見学と打ち合わせのために訪れた、あの晴れていたかと思うと急に雪の落ちてきた3月の美術館を思い起こしながら問いかけると、竺先生も水野さんも、入館者が多く街の活性化に大きな役割を果たしており、いざとなればメンテ費用はまかなえそうだという。
つまりガラスシールより何より、あの美術館を存在させたのは成功なのだというのだ。
いつものことながら僕の応えは、サーテネ!人気がなくなったらどうするの?

でも確かにあの一帯がぱっと明るく存在感があるようなないような、高さを抑えてあるのも威圧感を与えず妙に街に溶け込んでいる。僕はこの美術館を面白いと思ったのだ。
そういえばいち早く観てきた仲のいい建築家大澤秀雄さんは、どうもね、何処に自分がいるのかわからなくなってしまう、それが建築としては問題、つまり未解決を残したまま出来てしまったのだと言った。
同じことをこの席でも誰かが言い出した。
しかし僕はそれが必ずしも欠陥だとは思えない。どこに居たっていいじゃない。居場所がわからないとも思えないが、仮にわからなくたっていいじゃない。その不安感だって非日常空間の魅力かも、なんて無責任なことを述べる。

室伏さんが室伏さんらしいことを言い出した。
いやそれはともかく、あの美術館の面白さは、概して展示室を外周にとって中を回廊とするものだが、この美術館は反転して内部に展示室を閉じ込め、外周を人が動き、町に向かって開放していることだ。
なるほど!と僕は感心する。
しかしそれならガラスをシールで閉じるのでなく、隙間を開けて開放すべきだった、と室伏さん。
なにを言うの、あの寒い金沢でそれをやったら誰も来なくなる、ゲニウス・ロキとはいわないが場所だ、と水野さん。
だからあの空調費のかかるガラス建築は本当に市民の建築と言えるのかと蒸し返す大宇根さん。そうではない、建築とは!と顔色の変わる室伏さん。

「ね、竺先生。JIAって面白いでしょう」と僕がウインクすると、いやなんとも素晴らしい!とにやりと返された。
肝胆相照らす。JIA・KITアーカイヴスはこれでうまくいくのだ。きっと!

この美術館は、今年の建築学会作品賞を得た。候補になったもののJIA建築賞は逃したが、同じ設計者妹島さんの創った住宅、鋼板による梅林の家が、建築大賞を取った。



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2 コメント

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この美術館は (xwing)
2006-07-16 18:03:41
学生達にも人気で、訪れた学生にお土産の絵葉書を貰ったりしました。そして、行った学生も含めて、私の周りの者の考えとしては、「美術品・展示品が主役」であるという、美術館本来の在り方をしている良い建築と考えております。(私自身は訪れていない為、何とも言えませんが。)



 自分が、現場監督1年生だった時の所長に教えて頂いたことの一つは「シールに頼った収め方をするな」でした。「シールは必ず切れる、その際にも内部に水を入れない施工図を書け」と厳しく言っておられました。物凄く厳しい所長でしたが、そのような方が最初の所長だったことは幸せだったと思います。
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根が深い (penkou)
2006-07-17 12:29:12
美術館の存在、あり方を考えることはとても面白く、考えることは又大切だと思います。建築自体の抱える問題もあるし、街との関わり、それは場所との建築や美術との関係、美術と人との関わりの根源的なところの考察、時代考察もあるし経済との関係も考えざるを得ません。

美術館を設計する機会はなかなかないものの、鎌倉近美や日向邸に関わってみて、これらが身近な課題として悩ましく直面することになったので・・・



シール問題も根が深いですね。数年たって雨漏りが止まらずついに廃墟になってしまう事例もあるし、勿論それだけの問題ではないのでしょうが。
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