ソウル特別市から北へ35kmほど行った坡州市(Paju―City)に、二つの興味深いプロジェクトが進行中だ。一つは「Heyri ArtValley」、もう一つは`紙之郷`「Pajyubookcity」である。
坡州市は韓国の最北端に位置し、北朝鮮との軍事境界線や非武装地帯に接しているが、板門店や、統一展望台などの統一保安施設があって、観光客が訪れている都市でもある。
僕が新しい建築に興味のあることを知っている尹教授は、歴史的な建築だけでなく、幾つかの思いがけないプロジェクトに案内してくださった。ことにこの二つの建築群には、建築家としての好奇心を抑えきれない。
<Heyri ArtValley>
日本の若手の建築家の間で比較的知られているHeyri ArtValleyは、Pajyubookcityより北につくられた複合文化の街(コミュニティ)だ。約370人のアーティストや文化に関わる人によって、丘陵を生かした自然の中に建築群がつくられた。
いずれも大規模ではないが、美術館、ミュージックホール、ギャラリー、本屋、工房が在り、カフェがある。何より住宅(別荘)があって、大勢の人が住んでいる。
1999年に延世大学よるResearch Centerが設けられて企画され、2006年には80棟の建築が建てられたが、2008年にはそれが300棟になるのだという。
このコミュニティには、4名の建築家による建築デザインを審査するシステムがある。ここに建つ建築の設計ができることは、建築家のステイタスになっていて、お呼びのない建築家は、自分で土地を購入して自分で建てたりするのだと、尹教授は笑った。
コンクリートとガラスと鉄(錆を利用するコルテン鋼をうまく使っている)やアルミ、それに木の板を巧みに組み合わせ、敷地の高低を利用して複雑な空間構成が演出され、どの建築も魅力的だ。
僕たちは、`The book house`に入って本を物色し、この建築群の作品集を買った。右側に本棚のあるスロープを上がったカフェでコーヒーを飲んだ。ガラス越しにウッドデッキによるテラスが見える。皆で溜息をついた。
面白いしそれこそ建築家魂が揺さぶられる。日本で試み始められた、鉄板壁による建築こそないが、もしかしたら世界の最先端、国籍のない建築群だ。しかし!
「ゲニウス・ロキ」、鈴木博之さんのいう「地霊」というコトバをふと思いだした。モダニズム建築を考えるときの一つの命題は、建築とその場所の関わりや「伝統」をどう捉えるかだ。日本でも1960年代に論議を呼んだが、韓国でも同じ論争があった。40数年という時を経て考え込む。建築とは何なのだろう。そして今の時代とは・・・
<写真 The book houseのスロープで。同行してくれた朗らかな洪(ホン)さん>
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